イタリアのパネットーネ

文字数 2,123文字

 イタリアはミラノの銘菓panettone(パネットーネ)
 
 ビュシュ・ド・ノエルやシュトレンと比べますと知名度が格段に落ちるとは思いますが、こちらもクリスマスのお菓子です
 しかも、それなりに日本でも売られています
 購入場所は基本的にはパン屋(ブーランジェリー)
 ケーキ屋(パティスリー)で扱っているのも時折り見かけはしますが、シュトレンほどではないでしょう

 簡単に説明しますと、こちらはパネットーネ菌と呼ばれる特殊な自然酵母を使った発酵菓子です
 というより、その酵母を使わないとその名を冠することが許されないモノ
 
※少し調べてみますと、この酵母は北イタリアのコモ湖周辺以外では培養しにくく、日本でパネットーネを作ろうと思ったら、この酵母を空輸しなければならないそうです
 なんでも、生まれたばかりの仔牛が初乳を飲んだ時に小腸で作られるとか……(それ+小麦粉を混ぜ合わせて作る)
 この酵母は扱いが難しいようで、イタリアでも一般家庭でパネットーネを作ることはほとんどないとか(ちなみに、シュトレンはよく作られる)

 シュトレンと比べますと、こちらは明らかにパンの食感
 口当たりが非常に軽く、甘さもそう強くない
 似たようなモノはパンで例えるならブリオッシュ、ケーキならシフォンケーキかな?
 少なくとも、一口食べて「美味しいっ!」と感銘を受けるようなタイプではないかと
 その代わり飽きも胸やけもせず、ひたすら食べ続けることができます
 
 材料は卵、バター、牛乳が入るリッチなパン配合
 そこにレーズン、プラム、オレンジピールといったドライフルーツ(割合的には日本のブドウパンくらい)
 ただ、最近ではプレーン、チョコチップ、アーモンド、ピスタチオなど現代に合わせた多様性が見られるようです
 もっとも、日本では伝統的なドライフルーツが入ったモノしか見たことないけどね

 別名を「ミラノのドーム型の菓子」というだけあって、形はドーム型
 サイズ的には(頭部くらい)大きいんだけど、さすが日本というべきかハーフカットや1/4カットで売られているのをよく見かけます

 さて、このパネットーネですが名前の由来は諸説ありまして……
 一つは「大きなパン」
 イタリア語でpane (パネ)がパン、one(オーネ)が大きな、を意味するとのことですが
 
 ――イタリア語で、大きいを表す形容詞って「grande(グランデ)」じゃなかったっけ? と調べると……

 この-oneは形容詞の「大きい」ではなく、(拡大)接尾辞。単体では使われず、(男性)名詞や形容詞の語尾につくことで本来の意味を強める(大きい、多く、非常に、などの意味を付加)
 他にもイタリア語には、縮小、蔑称、愛称の接尾辞があるとのこと
 それによって意味が変化するものを「変意名詞」「変意形容詞」という

 ……とまぁ、なんともややこしい(イタリア語は専門外)
 何処から「penettone」のttが来たかは不明ですが、とりあえずそれが一つ目の説

 もう一つはpane(パネ) di(ディ) tone(トーネ)
 すなわち、トニーのパン
 ……個人的には、何がどう

なのかわかりませんが
 長い歳月を経て訛った、もしくは英語圏とヨーロッパ圏などの違いによってトーネ=トニーとなるようです
 また、このトニーも作った本人ではなくその親方アントニオの愛称という説もあったり
 そのどちらかによって、作られた経緯も分かれていたりします(時期は共に15世紀らしい)

1、前者の場合「クレープ・シュゼット」や「タルト・タタン」のような災い転じて福となる――失敗をどうにかしようとした結果、生まれた

※宮廷での祝宴時、王宮料理人がデザートを焦がしてしまう
 その窮地を救ったのが、見習い料理人であるトニー
 残り物でどうにか甘いパンを作りあげ、公爵や客人らに拍手喝采で迎えられた
 そうして、「トニーのパン」はお祝い事には欠かせないものとして広まった

2、後者の場合、初めてダイヤモンドの研磨を成功させたベルケムのように――ただ、愛する人と一緒になるために成し遂げた

※貴族であるウゲットは貧しいパン屋(アントニオ)の娘に恋をし、身分を隠して弟子入り(あまりに身分違いの為)
 その後、自分の焼いたパンが公爵に認められたら娘との結婚を許して欲しいと約束を取り付け、見事に果たす
 その際、公爵からウゲットの名前をパンに付けることを許されるも辞退
 代わりに親方アントニオの愛称「トニーのパン」と名付けた
 以来、クリスマスに「トニーのパン」を食べると恋が成就するという伝説が生まれた


 他にも説はあるようですが、結局のところ真相は不明です 
 そもそも、学者でもない限り真相なんてどうでもいいでしょう
 自分が気に入ったほうを信じればいいということで、私は後者を信じています
 ベルケムといいウゲットといい、愛の為に無理難題を成し遂げる展開はいいものです

 というわけで、今年のクリスマスにパネットーネはいかがでしょうか?
 こちらはシュトレンやビュシュ・ド・ノエルと比べるとお値段がお安いです
 驚きや感動を与えるほどの味ではないでしょうが、安心して楽しめるかと思われます
 事実、イタリア料理は日本人の味覚に合うと言われていますからね
 ですので、ちょっとだけ贅沢でオシャレにクリスマスを楽しんでみませんか?
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