過去・真相01

文字数 3,428文字

──“ガンッ”



まだ、日も登り始めて間もない早朝。そこに鳴り響く鈍い音。そして、



「うッ……うっきゅぅあ……ッ!!  ッグ……ッ!!」



後頭部を押さ、悶えるエウ。



「あにじゃが、悪いんじゃからな??  寝起きはいつまで経っても駄目よのっ……ヤレヤレじゃわい」



エウは蹲り、縋るように足元から見上げる。そこに居たのはレカ。下卑た者を見る様な目で見下ろし、揶揄する様な声を出しつつ、レンガを左手で“クルクル”と持ち遊んでいた。



そんな二人を見て、驚愕な表情を文字通り浮かべてるのは他でもない、

「ああの、大丈……夫じゃないですよねっ??」



「うぐぐぐ……ッ……だッ!!  大丈夫、あ、朝は大抵こんな……」



「ぜ絶対大丈夫じゃないですよね?!  頭部から“ピュッピュッ”血が噴き出してますよ!?」



この中で一番慌てふためき、血を止める物を探しているのか、辺りを“キョロキョロ”見渡す。



その必死な行動を横目に“ムクっ”と体を起こし、血が出る頭に手を翳しながら、



「大丈夫だよ。これくらいの傷ならスグ塞がる。それよりも、昨日の話をしようか」



「──ッえ!?  血が止まって……る?」

瞼を見開き、翳す手を瞳に写しつつ少女が言うと、エウは片目を瞑り。すまし顔で、

「そりゃそーだよ。俺は、死神だもの、それぐらいぞうさもない」

と、わざと太い紳士的な声を出しながら、人差し指を左右に振るった。そんなキメ顔をする死神エウに対し、村人少女は遠い目をし顔を引き攣ることもなく感情の無い表情で、

「へ・へぇー……あははは、神様かあー。凄いですね。……で、話を戻すんですけど」



そりゃそうだ。と自ずと納得し羞恥心に殺されそうにながら、



「あ、ぁあ。なんか、すまない。話を……と言うか名前をまず教えてくれないか??」

少女は正座に姿勢を変えると、柔らかい髪を風に撫でらせながら、

「あ、そうですね。私の名前は『リアナ』と言いますッ!」と、一礼を兼ね、頬を桜色で染め上げながら笑顔で口にした。その姿に、歳は離れているが三つ程度。女の子らしい姿に、エウは若干見蕩れつつ、それを隠すように目を逸らす。



「リアナ……か。俺の名前はエウ、で、コイツが──」



「レカじゃ!  宜しくのっ!」



と、押さえている頭の上に手をつき、のめり気味にレカは自己紹介を終える。見るからに背丈も年齢層も近く見える為だろうか。



レカの表情や声は軽やかに踊っていた。



「って!!  宜しくじゃねぇーよっ!!  ばっ!  離せッ!」



「……あ、エウさん……、また頭から血が……」

体を揺らし、振り払おうとするエウから逃げる様に後にジャンプをするレカ。

そして、リアナの隣に膝を抱えてしゃがみ、

「当たり前じゃろ?  そんな傷口を一瞬にして塞ぐ奇術なぞ、ウチ等は兼ね備えておらぬ!  ……ウチ等は、な?」



「──ウチ、ら?」

「……」

「……んで、昨日の事なんだが。後日談ってやつだな」



エウは、立ち上がると昨日の現場を見るかのように外を見つめ、



「昨日、俺が此処に来て、歩いていた時に見つかった疎らの痕跡。あれは、間違いなく人が殺された血痕だろ」



──けれど、なら何故に彼女が選ばれた?



リアナを視界にいれ、ホムンクルスが散り際に言った言葉『生きる糧』を思い出し、腑に落ちずにいた。何故なら、エウに写る少女・リアナは、肉付きもいいとは言えない。何方かと言えば不健康。言い方を変えれば華奢。



そんな彼女が何故『生きる糧』に選ばれたのか。あの人数を考えれば足りるとは到底思えない。というのが、エウが抱いていた疑問だ。



そんな強い視線に、リアナは気まずそうに目を逸らし、



「え……っと……何ですか……ね?」と、涼やかに過ぎる風のように弱々しいく訪ねた。

エウは、その風を耳で捉えると、首を横に振り深呼吸をしながら、

「え、いや。何でもないんだ、ごめん」



「でもちょっと待つのじゃ!  なんで殺す必要があるのかや?!」



「これは、あくまでも憶測だが……」



エウは、今日に至るまでの経緯を思い出しつつ口にした。

それは、ある日を境に徐々に姿を見せなくなった人々。そして、昨日のホムンクルスが口にした『生きる糧』という言葉。

それらを繋ぎ合わせ、解へと辿り着く。

エウは、喉を鳴らしつつ、



「食糧として、殺され──喰われる」



「くわっ!?  ちょ!  ちょっと待つのじゃ!  あ奴らはウチらと同様に食事を取らずとも──」



レカが、声を荒らげ瞳孔を真ッ開き立ち上がるのも無理はない。何故なら、彼等は『死人』故に食事は取らずとも生きて行ける。故に、人を殺し食べる。と、いう行為が無駄。極論、ホムンクルスは人々を無駄に殺しているという事になる。それを分かっているエウだからこそ、「とりあえず座れ」と促し。落ち着いた表情で、

「永遠を生きたいと願う程の欲深い奴らだぞ?  それに、食わなくても生きてはいけるが、口元は寂しくなる。それと欲が掛け合わさった結果だろうな」

その話を身近で聞いていたリアナは、昨日の危険性を再確認したのか、傷心しきったような雰囲気を醸し出しつつ、膝に顔を埋め黙り込む。

そんな彼女を考えつつ、

「所でリアナ──」



「……は、はいっ!!」



誤魔化すかのように、態とらしく声を張り上げるリアナ。だが、心までは誤魔化しきれていないのか若干目元が赤い。

そんなリアナを妹に置き換え、心苦しくもなるが、私情を挟むわけにもいかない。今は他に重要な事がある。と、自分自身に一喝を入れ、



「リアナは、あいつらに何か言われたりしてたか?」



「何か……とは??」



「んーと、えーっとだな……」



「はぁ……」と、生暖かい呆れたと言わんばかりのため息がエウ目掛けて吹き付ける。



「あにじゃは、説明が下手じゃからなー。えっとの??  リアナがこのベッラに連れてこられる時に、あ奴らは仲間内で何か言っておらなんだか??」



「あっ、言ってました……。確か、贄?  儀式??  みたいな事を確か……」



──贄?  儀式?  まて、ますます分からない。





それは、リアナに対する予想を覆す想定外の言葉だった。



エウは、自分の人差し指の第一関節を噛み加えると怖い顔を作りながら、

「一体どう言った……。リアナを食べる訳じゃない……。贄??  まさか、賢者に捧げるとか……。いやいや、でも、なら何故こんなボロい……」



「──にじゃ!!  あにじゃ!!」

何故か、両手を前に反射的に構えながら、

「……うわっ!!  なんだよ。急に話しかけんなよ、びっくりするだろ!」



「びっくり……と言うか引くのはコッチじゃ!!  何を一人でブツクサ言っておるのじゃ?」



体育座りをしながら、ジト目でエウを穿つ。

そんな視線を送る彼女達から逃げる様に背を向け、外を見ながら、

「え、いや。まだ何でもない」



「まだって何じゃ、まだって……」



「悪いな。まだ考えが纏まらない……と言うより、纏まらなくなった。それよりも、リアナ。昨日の『助け』について話してくれないか?」



悩んでいても仕方が無い。エウは、まだ聞いていなかったリアナの要請に答えがある。と、信じながら訪ねた。



四つの視線がリアナに届くと、少し“オドオド”し、茶色い瞳を踊らせながら、



「えっと、あの……。私の他にも捕まった方々がいるんです『ティティータ領主様の屋敷』に……」



「ティティータ??」



「はい、かつてはこのベッラを治めて居た方の名前です 。私は此処出身なんです」



「んじゃ、此処に住んでた人は皆捕まったのか?」

エウは、思った事をそのまま口にした。すると、リアナは少し黙考するかのように静まり返り、

「争いに乗じて、逃げ延びた方も居るとは思いますが……。詳しくわ……」と自信なさげに答える。



「ん?  争い??」



「はい、あれは八年前。私が五歳の頃でした……」

嫌な思い出を、封印していた呪を解放するかのように、絶望した霞んだ瞳・震えた声。そんなリアナから聞いた話は惨たらしい物だった。



そもそも、ホムンクルスと言うモノに反対だったティティータは帝国に抗う軍の傘下だったらしい。



そして、それはエウとレカ、神々が意を決して、この世界『クレアーレ』に降り立つ数年前の話──。
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