第3話 三か月後のカノジョ

文字数 1,990文字

もう、ダメッ

我慢できないのっ

たっくん、お願い!

早くっ、早く、ちょうだいっ!

アイちゃん……

今、ここに、入れるからね……

はっ、早く、入れてっ!

逝っちゃうっ! 逝っちゃうっ!

……よしっ

アァッ……

はぁっ……

…………

ちょっと、たっくん

いつも、充電は早めにしてって、お願いしてるよねえ?

ごめん、ごめん

なんか、最近、思ったより、電池の減りが早くて……

バッテリーが調子悪いのかなぁ……
そうそう……

それなんだけどさあ……

よく考えると、たっくん

このスマホ、随分と長いこと使ってるよね?

うん、そうなんだよね

ちょうど、アイちゃんと出会った頃に、このスマホに変えたから

アイちゃんとの思い出がいっぱい、沢山詰まったこのスマホを

変えたくないんだよね

じゃあ、高校生の頃からだから
もう、かれこれ、4年以上は経つよねぇ
もう、そんなになるのか……

……

……ねえ、たっくん

あたしが、このスマホになったの

それが原因なんじゃないかと思うんだ

えっ?
どういうこと?

この三か月、あたしなりにいろいろ調べてみたんだけどね……

ああ、どおりで、身に覚えのない、ページ閲覧の履歴とか残ってると思った

今のあたしは、このスマホに宿っている

あたしの残留思念なんじゃないかな?って気がするの

残留思念?

調べたところによりますとですね……

『人間が強く何かを思ったとき、その場所に残留するとされる思考、感情などの思念を指す』とありまして……

それで、物体に持ち主の、強い感情や思念が宿ることもあるんだって

まあ、このスマホは、あたしのじゃないけど

あたし達、会えないときは、いつも、四六時中、このスマホで連絡してたじゃない?

電話だったり、LINEのやりとりだったり、SNSのDMとかも……

うん

それに、このスマホの中には、あたしの画像、何千枚あるかわからないぐらい、あるじゃない?

あたしの音声が入った動画だって、たくさんあるし

うん、画像は一万枚、超えてるかもしれないね

アイちゃんが可愛い過ぎて、いつも、ついつい、撮りたくなっちゃうんだよね

……もう、たっくんたら

つまり、そのときの、あたしの、たっくんに対する強い想いが

このスマホには、残ってたんじゃないかと思うんだよね

それに、たっくんが、あたしのことを想ってくれる強い気持ちが重なって

今のあたしが、このスマホに現れたんじゃないかな?

……

……うんっ

きっと、そうだよっ

二人の強い想いがあったから

こうして、アイちゃんは、もう一度、俺の前に現れて来れたんだ

でもなあ……

どうしたの?

なにか、問題でもあるの?

ただ、それだと
今のあたしは、本来の、あたしの魂じゃないってことになるのよねえ

今のあたしは、本当のあたしなのかなぁ?って

……
おっ、俺は、そんなこと、全然気にしないよっ

もし、今のアイちゃんが、本来のアイちゃんじゃなかったとしても

俺にとっては、大切なアイちゃんであることに、変わりはないから

……だから

だから、そんなこと、心配しないで……

……ありがとう、たっくん

でも……
アイちゃんの推測どおりだったとした場合……
もし、このスマホの電池が切れたら、どうなるんだろう?
電池切れぐらいなら、大丈夫なんじゃないかなぁ
充電すれば、すぐに復活出来るような、気がする
なんとなくだけど……

……じゃあ

もし、このスマホが壊れたりしたら……

今のアイちゃんはどうなってしまうんだろう?

……修理しても直らないような場合は、あたしは、消えてしまうかもしれないわね
そっ、そんなっ……
例えばよ?
もし、たっくんが、新しいスマホに変えたとしたら

その新しいスマホには、あたしとの思い出とか、一切ないじゃない?

そりあ、画像や動画のデータは、移行出来るかもしれないけど
だからって、今のあたしも、その新しいスマホに乗り換えられる、そんな訳にはいかないと思うの
だから、このスマホが壊れて使えなくなったら、あたしは消えちゃうと思うんだっ

じゃあ、俺、一生、このスマホを使い続けるよ

いくらなんでも、さすがに、それは……

無理なんじゃないかなぁ……

いや、アイちゃんと、もう二度と、離れたくないんだっ

だから、絶対、このスマホを使い続ける

……たっくん

たっくんの気持ちは嬉しいけど……
やっぱり、いつか、壊れちゃうときは来ると思う

修理に出しても、もう、メーカーに部品が無いなんてこともあるんじゃない?

そんなぁ……
でも、あたしは、いいの……
こうして、また、たっくんに会えたから
アイちゃん……
ほら、あたし、交通事故で、突然、死んじゃったじゃない?
たっくんに、ちゃんと、お別れも出来なかったし
突然、いなくなったりして
たっくんにひどいことしちゃったなって、ずっと思ってたの……
それが、すごい、心残りだったの……
アイちゃん……
俺が、俺が、必ず、なんとかするからっ

修理を、自分で出来るようになるとか

部品も、自分で作れるようになるとか
俺、絶対、このスマホを、一生使い続けるから
……ありがとう、たっくん
……
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