第16話 つかの間の……

文字数 1,078文字

 早苗さんは、表向きは体調不良で二学期いっぱい休んだ。
 正月が過ぎ、三学期になって、学校に来るようになったと、由希子さんが教えてくれた。
 外聞をはばかって、まだここへは来られないらしい。

「早苗さんが元気でやっているのなら、それで良いと思うよ」
 僕は、由希子さんにそう言った。
 僕らは、夕食の片付けを済ました後、そのままリビングでお茶を飲んでいる。
「うん。心配していた内部進学も出来そうだし。
 やっぱり、成績って大事だよね。早苗、私たちの中でも一番成績良かったから、職員会議でも他の学校に渡せないって」
 由希子さんの話に、少し驚いた。

「そうなの?」
「うん。早苗は私立は受け入れてくれないって思ってたみたいだけど、全国模試でも1~2番の子だよ。どの学校も、欲しがるよ」
 それは、それは……。まぁ、大学受験には関係無いものね。子持ちの主婦だって行く時代だし。
「もう男はいいやって、里沙と東大目指してまっしぐら……らしいよ」
 なるほどねぇ。

「良い時代になったもんだ。……で、由希子さんもそろそろ進路考え無いと、高等科に上がったらすぐに進路別クラスになるんだよね。調査書来てたでしょう」
 中高一貫の学園ならではだよね、中学二年までに中学の授業終らせて、三年の頃には高一年の勉強、高等科では進路別クラスで二年生の勉強からっていうの。

「どうしよう……。何にも考えて無い」
 由希子さんが、頭を抱えている。
「何か、なりたいものとか無いの?」
「伸也さんのお嫁さん」
 思考停止? 父親を喜ばすための、娘の常套句だよね。
 だけど、お嫁さんかぁ~。そうしたら、保育科? 家政科? 調理師も良いかもねぇ。いやいや、また考えが古いって言われてしまう。
 今は、共稼ぎも多いし。結婚しても男性同様、仕事している女性も多いし。

「取りあえず、自立しないと難しいと思うよ。誰と結婚するにしても、相手に何かあったときに、経済的にも自立してないと共倒れだろう?」
 由希子さんは、僕の話を真剣に聞いている。
「そうね。伸也さん働いてないし、私がしっかり家計を支えなきゃ」
 フンスッって、由希子さんは意気込んでいるけれど……。
 とりあえず、いったん僕から離れようか。


 娘からお嫁さんになりたいって言われて、悪い気がする父親はいないと思うけどねぇ。僕が、一人になるから離れられない……なんて、考えないでおくれ。
 多分、僕は君が独り立ちしてしまったら、お役御免で消える身だからね。

 君の未来を見届けられないのは、寂しい気もするけどね。
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