第五話
文字数 10,181文字
「・・・お兄ちゃん。あたしの部屋入る時にはノックしてってば・・・」
翌朝。兄がいつもの様にノックせず無遠慮に部屋へ入って来たので、いつもの様に注意した。
全く!これでも一応あたし女子高生なんだよ?お年頃な乙女の部屋に例え兄であってもこんな堂々と入って来るかな?普通?しかも朝一に。
「お前いつも寝てるだろ。俺が起こしてやるまでぐっすりと。」
「・・・昨日はよく眠れなかったんだよ。」
「なんだ?体調悪いのか?なら早く言えよな。たくっ・・・」
「いや、熱とか何もないんだよ!」
ため息吐きつつも熱を測ろうとしてきたので、あたしは慌てて兄の手を押しのけた。本当に過保護で困る。
この無駄にイケメンの兄には困ったものだ。本当に。気配りは出来る方だし面倒見も良く頼りになるのは間違いない。けど、どうも年頃の乙女(主にあたし)への配慮に欠けているんじゃないかと思う。
だからお兄ちゃん・・・・
「・・・お兄ちゃんに彼女が出来ないのはあたしのせいなのかも・・・・」
「なんだいきなり?寝惚けてるのか?」
あら、鋭い視線。相変わらず怖い怖い。
「いや・・・お兄ちゃんって昔からあたしの世話焼くことに生甲斐感じてたからさ。何かそれに全青春つぎ込んでまともな青春を送ってこなかったのかなぁ・・・って。」
「朝から喧嘩売ってんのか?」
「・・・そっか。そのせいで女性の基準があたしになっちゃって・・・扱いもあたしと同じ様に・・・ああ、それじゃあいくら顔が良くてもないわぁ・・・。うん、ないない。」
パシッ!!
何故かあたしはハリセンで兄に叩かれた。正論を言っていただけだと言うのに。
「痛い・・・」
「お前に何か良く無い物が憑いているような気がして・・・」
「暴力で解決しちゃダメだってお兄ちゃんいつも言ってるくせに!!」
「煩い黙れ。さっさと支度して朝飯食べろ。」
まあいいや。このまま口答えしたら朝食抜きの刑にされかねない。最悪お弁当も没収だ。
鋭い兄の視線を避けるよう、あたしは慌ててベッドから降りると洗面所へと向かった。本当、気の短い兄を持つと大変だ。
「ほら、さっさと食べろ。また遅刻したら今度こそ説教だぞ。」
「だ、大丈夫だよ!ていうか、お兄ちゃんいつも説教してるし!!」
「説教じゃない。ただの教育だ。」
「はいはい。ありがとうございます。」
こんな兄妹のやり取りも皐月家ではいつもの朝の風景の一部に過ぎない。両親を失って一年。こんな感じで二人だけど朝から賑やかな日常を送っている。
『両親がいなくて寂しいでしょう?』なんて今でもたまに聞かれることがあるけど、今はそうでもなかったりする。勿論いないのは寂しいけど。幸いあたしには兄がいる。クソ真面目で口煩いけど。それでもあたしにはたった一人の大事な家族なのだ。それは多分、兄も一緒だと思いたい。
そんな皐月家を近所の人達は『両親を亡くした可哀想な兄妹』より今は『賑やかで仲の良い兄妹』と認識されているに違いない。
「お兄ちゃん、昨日話したこと覚えてるよね?」
「ん?ああ・・・。『紫乃さんの調査』だろ?わかってるよ。」
「さっすが!期待してるからね!!」
「はいはい、こっちは任せろ。お前はしっかり学んで真っすぐ帰って来なさい。ついでに友達も作って来い。」
「大きなお世話だよ!あ、あたしだって別に好きでぼっちな訳じゃ・・・」
「やっぱりそうなのか?」
「あ!?え!?しまった・・・!!つい本音を・・・。で、でも!あたしこれまでも上手くやって来たし!ちょっとスタートが衝撃的だったってだけで・・・」
「・・・ああ。あれな。」
「でもさ!徐々に話しかけてくれる子もいて!!あ!この前なんか凄く可愛い子に声掛けられて~・・・名前も可愛かったんだぁ!ここなって言うんだって!!」
話掛けられたと言うより業務的な会話みたいな感じだったけど。若干遠慮気味だったけど。
兄の心配そうな顔を見てそこまで正直に言えず、あたしは残りの朝食をかっ込み慌てて家を出た。これ以上話していたらきっと余計な事まで言って更に不安にさせてしまう。
「・・・はぁ。危なかったぁ~・・・。」
ぼっちってことはバレちゃったけど、別にいじめられている訳でもないし。お兄ちゃん心配し過ぎなんだよなぁ~。
「妹の心配するなら自分のお嫁さんの心配でもすればいいのに・・・。お兄ちゃん黙ってればイケメンだし。」
自分の兄を『イケメン』と言うのも恥ずかしいけど。事実だ。たまに一緒に都心へ買い物とかに行くとそれがはっきりとわかる。すれ違う女性達の兄を見る目が違うことに。
それもそうだ。兄はただイケメンってだけじゃなくて、あたしと違って背は高いしスタイルも良い。メンズ雑誌のモデル並みだと言ってもいいくらい。
「珠ちゃんはお兄さんが本当大好きなんだね。」
ビクッ!?
兄の事を考えながら歩いていたら、突然背後から聞き覚えのある声がした。
この爽やかイケメンボイスは・・・・
振り返るとやはりそこにはあの人・・・謎の祓い屋紫乃さんが笑顔で立っていた。黒猫なんぞ抱っこしながら。
「い、いつからそこに!?」
「『お兄ちゃん黙ってればイケメンだし。』ってとこからかなぁ。確かに聡一郎さんは恰好良いよね。羨ましいくらいだよ。」
「紫乃さんも十分イケメンですけど・・・」
「え?あはは!珠ちゃんはお世辞が上手だなぁ~!!」
「いえ、事実です。あなた自分の姿鏡で見てます?」
この人本気で言ってるの?爽やか過ぎる笑顔を浮かべながら何を照れているんだか。
そうだ。この人だってこんな容姿だ。それにこの柔らかい雰囲気。引く手あまたに違いない。きっとむめ乃さんみたいな和風の大和撫子美女からセクシーなお姉さん系までありとあらゆる美女が寄って来たに違いない。
それに・・・人気の作家でもあるみたいだし。そう言う
先生
ってモテるんじゃないの?テレビや漫画のイメージからだけど。「いいですねぇ・・・顔が良いって。なんか色々得してそうですし。」
「そんな卑屈になっちゃ駄目だよ?負の感情が一番霊を引き寄せるんだから。」
「うっ!?ま、まぁ・・・そうですね。」
そうだ。紫乃さんに言われなくてもそれはわかる。今までの経験から
そう
だったから。気を付けないとまた憑かれてしまう。「それにね、珠ちゃんだって十分可愛いよ?」
「はぁ!?な、何言ってんですか!!そんな訳ないでしょ!!」
折角人が負の感情を振り払おうとしていたのに、いきなり笑顔でなんてことを!!いくら紫乃さんが穏やかで優しそうな好青年であっても、そんな心にもない事を言うなんて!!
「俺は君にお世辞は言わないよ?そう思ったから言っただけだよ。」
「またそうやってからかって!!」
「あはは、照れてるのかい?可愛いなぁ~!」
「頭撫でないで下さい!!」
や、やっぱりこの人苦手だ!こんな簡単にそんな事言って!あたしの反応が面白いからからかってるんだ!!絶対!!
うう・・・これが不良とかなら即行怒りの鉄拳でも食らわせていたのに!さすがにこの人にそれは出来ない。いや、やってはいけない。絶対に。
「はぁ・・・。もう学校行くので失礼します。」
「いってらっしゃい。真っすぐ帰って来るんだよ?」
「お兄ちゃんみたいな事言わないで下さい!!」
ああ、なんなんだこの人は!本当、調子が狂うというか。
本当ならあまり関わりたくないけどそうはいかない。昨日の約束がある限り、少なくとも一週間は嫌でも関わらなければならないのだから。
「・・・そう言えばあの猫ちゃん・・・」
紫乃さんに大人しく抱っこされていた黒猫をふと思いだした。琥珀色の綺麗な瞳をした美猫さん、あたしと紫乃さんの会話を聞いているかのようだった。交互に顔を見上げながら。
「まさか・・・化け猫!?」
よく漫画の祓い屋さんも妖怪を使役してたりするし・・・。普段は普通の人間とか動物とかでさ。いざって時にその正体が露わになるっていう。
あの可愛い黒猫が?実は超巨大化して〇バスみたいになったり?もしくは恐ろしい形相で牙をむき出しにしたり??どっちにしろ怖い。怖すぎる。
「・・・でも〇バスはありかも。」
某アニメ映画のワンシーンを思い出しほんの少しだけほんわかした気持ちになった。あれに乗れるなら乗ってみたいな・・・なんて思いながら。
ガラッ!
『!?』
余裕のある登校をし、ただ普通に教室へ入っただけなのにこの反応だ。騒がしかった教室は一変。クラスメイト達は一瞬で硬直し静かになった。一斉に向けられる好奇の目。それはチクチクとあたしの心を刺した。
確かにあたしが遅刻しないのは珍しいけど!稀だけど!!だからってこんな風にあからさまに見なくてもいいじゃん!珍獣が迷い込んだ訳でもないのに!!
ああ、お友達。こんな調子で出来るのかな?あたし。なんか距離感が物凄く遠いような気がする。居心地悪いよぉ~・・・。
「・・・皐月さんが遅刻してないわ!」
「今日は雪でも降るんじゃない!?」
ヒソヒソヒソ・・・
あからさま!!反応があからさますぎる!そして台詞も!!
小声でも聞こえてくるこの会話。クラスメイト達も別に悪気があって言っている訳ではない・・・と思いたい。多分あまりにも珍しいから驚いて混乱しているだけだろう。
うん!絶対そうだよ!!
「あなた達馬鹿じゃないの?皐月さんだって普通に登校する日もあるでしょ。」
「
「これが
普通
なのよ。普通
。」「そ、そんなはっきり言わなくても・・・聞こえちゃうわよ?」
ひそひそ話を遮る様に立ち上がった一人の勇敢なクラスメイトは深山さんであった。クラス委員長なのでかろうじて顔と名前は覚えている。下の名前は忘れたけど。
凛とした顔立ちは愛らしいと言うよりは綺麗だ。いかにも『しっかり者の委員長』って感じの雰囲気で、彼女ほどポニーテールと眼鏡が似合うクラスメイトは居ないと言う程様になっている。
「皐月さん、なんかごめんね?気にしなくていいから。」
「え?いや・・・あたしは別に・・・」
そうされても仕方ない行いをしてきたのは事実だ。文句を言う資格はないのかもしれない。
むしろ深山さんのその反応に動揺していた。まさかこのあたしを庇ってくれる様な勇敢な生徒がいただなんて。そう言えば彼女だけはちゃんと話かけてくれていた・・・記憶がうっすらとある。
気遣わし気にあたしに歩み寄り、呆れたようにクラスメイト達を見渡した。腰に手を当てながら。それがまた委員長っぽい。
「そう?何か困った事があったら言ってね?」
「う、うん・・・ありがとう。」
安堵したように笑うと、深山さんはこれ以上は深く追及したりせず自分の席に戻って言ってしまった。
ああ、委員長ってなんか違うのかな。色々と。人間的な作りとかも。
彼女がああ言ってくれたおかげか、教室が再び騒がしくなりあたしもほっとして席に着いた。今度はあたしから話しかけてみようかな。お礼も兼ねて。
「災難だったね、皐月さん。」
「あ、えっと・・・姫川さん?」
あ、昨日の可愛い名前の・・・。姫川さん、何気に後ろの席だったんだ。気づかなかった。
「嬉しい!覚えててくれたんだ!」
「う、うん。可愛い名前だったから。」
あたしが名前を覚えていたのが余程嬉しかったのか、姫川さんは満面の笑みを浮かべていた。
ああ、可愛いなぁ・・・。深山さんといい、うちの学校ってちょっと顔面レベル高いんだよね。クラスを見渡すだけでも結構いるし。
「ああ、ここなって珍しいよね~?えっと、名前は・・・『心』に『愛』って書くんだよ!ここあって間違えられちゃうんだけどね。」
「どっちにしろ可愛いから羨ましいよ。あたしなんて『珠惠』だよ?」
そう言うとついノートを取り出し名前を書き出して見せた。
ああ、こう見るとあたしの名前の古臭いこと。方や『心愛』で方や『珠惠』だ。別に自分の名前が嫌いな訳じゃないんだけどね。
「へぇ~!珠惠ちゃんっていうんだ~!!じゃあ『珠ちゃん』だね♪」
「いきなり!?」
「え!?ご、ごめん!嫌だった!?」
「いや、そんなことは!!ただ急に呼ばれたからびっくりしただけで・・・」
「そっか、よかった~!!じゃあ、心愛のことは心愛って呼んでね!」
「う、うん。心愛ちゃん?」
「は~い!えへへ、なんか嬉しいなぁ~♪実はちょっと珠ちゃんの事気になってて。話してみたいなってずっと思ってたんだ。でも何かいつも一人で考え込んでるみたいだったし・・・顔色もいつも悪いから・・・」
それはあたしが憑かれやすい体質だからです。すみません。
しかし、そんなことは勿論言えない。せっかく仲良くなれそうなクラスメイトを前に尚更。
「あ、あたしの家喫茶店だから!ほ、ほら!なんていうか・・・」
「え~!!そうなんだぁ!!そっか、じゃあお手伝いしてるんだね?偉い~!!」
別にそんな進んでお手伝いしてないけどね。お兄ちゃんと凛さんで十分間に合ってるし。小さな町の喫茶店だし。
しかしここはそういうことにしておこう。霊云々は絶対引かれること間違いなしだ。
「じゃあ、いつも元気ないのって・・・も、もしかして・・・大変なの?喫茶店?」
「い、いや!それはないよ!!ちょっと朝って弱いから・・・あ、あはは!!」
これは本当。あたしは朝はちょっと苦手だ。低血圧ってわけではないけど。
「ね?今度お店行ってもいい?」
「え?喫茶店の?」
「そう!心愛喫茶店って入った事ないんだ~!入るとしたらカフェとかだし。」
ああ、そうですよねぇ~・・・喫茶店何て古臭いですよね・・・今時のJKなんてもうお洒落なカフェだよね?映えるスイーツとかある。
「なんか入りにくいんだよねぇ、喫茶店。大人の場所って感じ?」
「そ、そんなことないよ!家は・・・ちょっと古臭いけどコーヒーとかスイーツもちゃんとあるし!お、美味しいよ!?」
「スイーツあるんだぁ~!!いいなぁ~!!」
あるともさ!しかもスイーツ作っているのは物凄く可愛い成人男性だぞ!!絶対口には出せないけど!!
目をキラキラさせる姫川さん・・・心愛ちゃんを前に、あたしはその後も喫茶店の魅力について語り続けた。途中から何を言っているのか分からなくなったけど。
ああ、久しぶり!この『お友達と楽しいお喋り』って感じ!!これだよ!これぞあたしの求めていた高校生活なんだよ!!
昨日まであんな事があったからちょっと諦めてたけど・・・良かった!神様はちゃんとあたしにチャンスを与えてくれたみたいだ。貶してごめん!神様!!
「・・・あのさ。皐月さんって姫川と仲良いの?」
「え?」
休み時間、今度はクラスメイト三人組があたしの席にやって来た。この学校は『お嬢様学校』で通っているのでさほど派手な見た目の生徒はいないが、このグループは結構派手で華やかな感じだ。特にリーダーっぽい子は髪を茶色に脱色して緩やかなパーマまでかけている。
お洒落だなぁ・・・。何かいい匂いするし。
「たまたま話してただけだけど・・・。」
「へ~?じゃあ気を付けた方がいいよ?あいつスッゲー男好きだから。」
「は、はぁ・・・?でもそれとこれと何が・・・?」
「皐月さんお兄さんいるんでしょ?あ、氷頭から聞いたんだけど。」
「う、うん?」
「あいつが皐月さんに話しかけて来たのって、多分
それ
目当てだから。うちら結構それで痛い目にあったんだよねぇ~。」な、なんだ・・・?確かに心愛ちゃんはテンション高めだけど。別にお兄ちゃんの事とか聞かれなかったし・・・。
「そうそ~!あたしなんて~、彼氏取られたんだよぉ?酷くない?」
と、これは別の女子。サイドポニーが色っぽいちょっと化粧濃い目の生徒だ。付け睫のボリュームがハンパない。
「そうそう、萌ちゃん超可哀想だよねぇ~!」
「りっこだって同じようなもんじゃ~ん!!」
「りりこ、萌ちゃんほどじゃないよぉ~!!」
あ、なんか勝手に盛り上がり始めたんだけど。嫌だなぁ、この感じ。こういう話なら他でやって欲しい。
盛り上がる二人を見ながら、リーダー格っぽい子はあたしを見て気の毒そうに笑った。
それはまるで・・・・
『利用されたぼっち可哀想~』って言っているみたいで・・・・
「ちょっとあなた達!やめなさいよ、そんな変な噂吹き込むの!!」
「はぁ?うちらただ忠告してあげただけなんですけどぉ?」
ああ・・・今度は深山さん!!委員長の血が騒いでしまったのか!?
気づけば三人の背後には深山さんが鋭く眼鏡を光らせて立っていた。腰の手を当てて凛として。
「大体何お前?委員長だからって偉そうにしやがって何様のつもりだよ?」
「委員長だからじゃないわよ。そう言う陰険な手口は見苦しいって言ってんのよ!」
「はぁ!?陰険~!?それは姫川でしょ?」
「それよ!あなた姫川さんが可愛いから嫉妬してるんじゃないの?」
「誰があんなぶりっこ!ふざけんな!!」
お、お~い!!やめてくれ~!!
止めたいが下手にあたしがでしゃばるとそれはそれでこじれそうだ。けど、放っておいたらそれもそれでなんか・・・
ヒートアップする二人の争いを前に、あたしは他の二人に目を向けた。が、彼女達は面白そうにその様子を見守っている。止める事もせずに。
怖い・・・怖いよ女子校!!だからあたしは嫌だってお兄ちゃんに言ったのに!!
女の園での女の争いは男の殴り合いの喧嘩よりある意味恐ろしいと思う。周りに異性が居ないから尚更遠慮しないし。そりゃ口も悪くなるわ!!
「大体はじめっから気にくわなかったんだよ!お前!!自分のやり方人に押し付けて!!」
「あんたこそ!ケバ過ぎなのよ!そのメイク!!」
「萌よりマシだ!!」
あ。さらに飛び火した。当然、萌さんは黙っていない。
「はぁ!?あたし巻き込まないでくんない!?マジ失礼なんですけど!」
そして更にヒートアップする女同士のバトル。
あたしは・・・ど、どうすればいいんだ??というか、何故こんな事に??
ついには萌さんとリーダーの掴み合いにまで発展し・・・それを委員長の深山さんが止めに入り・・ついには三人のキャットファイト状態になり・・・
「あはは!超うける~!」
いや!うけねーよ!!
キャットファイトの様子を動画に撮りながら、りっこさんは相変わらず面白そうに笑って見守っているし!!友達なら止めなさいよ!!
ああ、なんなの??これがギャルの友情の実体なの??もっとこう結束とか強いと思ってたのに!!
「お前達、何を騒いでる?」
あ・・・最悪だ。
その声がした瞬間、教室全体が凍り付いた。勿論、争っていた三人もピタリと動きを止めて・・・
「お前達、放課後生徒指導室に来なさい。」
『はい・・・』
きらりと光る氷頭先生の鋭い瞳、そして冷たく響く声・・・あたし達は五人そろって頷くしかなかった。
その後教室は静かになり、次の休み時間まで騒ぐ者は一人もいなかった。
というか・・・あたし完全に巻き込まれただけなんですけど!!
「あ~!最悪ぅ~!!なんでりりこまで怒られないといけないのぉ~!!」
「お前マジそういうとこ嫌いだわ。」
「つかりっこの方が姫川よりタチ悪くね?」
放課後、生徒指導室でみっちり絞られた五人は夕日に染まった廊下を歩いていた。
派手ギャル三人組は相変わらず。ぶちぶち文句を言いながら先をちんたら歩いている。かったるそうに。しかしさすがに怒られて疲れたのだろう。喧嘩の再開はなさそうだ。
「もとはと言えば山吹さん(リーダーの事)が皐月さんに変な事言うからでしょ。」
「だって本当のことだし~・・・。でも、ま、悪かったわ。皐月さんには謝っとくわ。」
「まぁ、いいわ。私も謝るわ。ごめんね、皐月さん。騒ぎ大きくして巻き込んじゃって。」
おお?リーダーいいとこあるじゃん。深山さんが謝るのは何となくわかるけど、まさか彼女まで素直に詫びを入れて来るとは予想外。
「でもぉ~、皐月さんマジであの子には気を付けた方がいいよぉ~?」
「田中さん!」
「わぁ~!委員長こわぁ~い!!」
田中さん・・・りっこさんだっけ?本名分かんないけど。なんか嫌な感じなんだよな、この人。あの時も楽しそうに動画撮ってたし。これならリーダーや萌さんの方がまだマシなんじゃないだろうか。
「りっこやめときな。これ以上騒ぎ起こして柏崎に目付けられたくないでしょ?」
「柏崎先生ねぇ~・・・イケメンだからりりこは全然いいけどぉ?」
「姫川と同じレベルだなお前。」
ちなみに。柏崎先生とは生徒指導担当の先生のことだ。りっこさんの言った通りイケメンである。いつもきちっとスーツを着こなしたいかにも冷酷そうな雰囲気の。性格も変わりないと思う。その美貌と厳格さから『藤桜の
あたしも何度あの氷の瞳で睨まれた事か・・・。遅刻常習犯だから。
「つか皐月さんってさぁ、背ちっさいね?」
「ちょっと
「いや、別に悪気あって言った訳じゃないんだけど。可愛いなって。」
な、なんだろう?『可愛い』って言われたのに傷ついてるこの複雑な心境。いや、これってディスられてるのか?やっぱギャル怖い!!女子怖いよ!!
「萌ちゃんはっきり言いすぎ~!!あはは!うけるんだけど~!!」
「りっこは黙ってろ。」
「ひどぉ~い!!つか、皐月さんそんな小さかったら人込みとか埋もれそうで大変そうだよねぇ~?すぐ見失いそうっていうかぁ~?つかミジンコぉ?」
「いや、あんたそれ言い過ぎ。」
全くだ。何なんだこのりっこさん・・・田中さんは?さっきからあたしの事をちょいちょい攻撃してきてないか?あたし何か悪い事した!?
ああ、とにかく・・・。もういいや。
とりあえず今日は家に帰って眠りたい。今更だけどどっと疲れが来た。電車、寝過ごさないといいんだけど。
「・・・ん?何か忘れてるような・・・??」
ギャルに絡まれ委員長に庇われながら、あたしは何か思い出そうとふと立ち止まり考えた。
こんな騒動を起こしたのだ。きっと家に連絡も行っている。帰ったら兄に怒られる・・・ことはまぁ、この際良いとして。いや、良くもないんだけど。
「皐月さ~ん!!何してんの?」
「あ、ごめん!」
深山さんに呼ばれ、とりあえず走って行く。何だかんだギャル達も待っていてくれるのがなんか嬉しいような照れ臭いような。そしてちょっと怖いような。
結局、あたしは何故か成り行きで深山さんとギャル達と一緒に昇降口を出る事となった。なんか凄く違和感。
「・・・やっと来たか。」
校門に佇む一人の男・・・。あたしをみるとつかつかと歩いて来た。
げっ!?何故にお兄ちゃんがここまで!?
「お~ま~え~は~!!なんでいつもそうなんだ!!」
スパンッ!!
あたしの前で立ちどまるなり、兄はあたし愛用のハリセンを頭目がけて振り下ろした。めっちゃ痛い。
「ち、違うよ!!あたし何もしてないよ!?今回は!!」
「今回って事は何かしたんだな!?別に!?」
「あ!?い、いや!!大丈夫!してないよ!?」
「言い訳は聞かん!帰って説教だ。」
「ええ!?お兄ちゃんの鬼!!」
「ああ、今は鬼の様に怒ってるぞ?ほら!さっさと歩け。運ぶぞ?」
「と言いつつ運んでるし!!やめて!変態!!」
「誤解されるようなことを言うんじゃない!・・・ああ、君達珠惠のクラスメイトか?悪かったな、うちの馬・・妹が・・・。もう遅いから君達も早く帰りなさい。」
そう言って兄はあたしを小脇に抱えて颯爽と去って行ったのだ。
お兄ちゃんのバカ!!これじゃあ台無しだよ!明日からまた何て噂されるか!!
「・・・何?あのイケメン?」
「皐月さんのお兄さん・・・みたいね?」
残された深山さんとギャル達は、暫く唖然としてあたしと兄の後ろ姿を見送っていたらしい。