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文字数 1,692文字
世界の果てから波が押し寄せ、岸壁にぶつかります。
テスは歩きます。
風雨とさまざまな人の足にさらされてできた、岸壁の石畳の様々な凹凸を足の裏に感じます。
岸壁にこびりつくフジツボと、赤紫の海藻と、濃緑の苔を目に焼き付けます。
水面を泳ぐ黒い魚の、ほっそりした体つきを覚えます。
風を受けます。
海のにおい、海につきもののあらゆる死のにおいに紛れて故郷の香りが紛れていないものかと、その悪臭を吸い、探します。
潮と腐臭で胸を満たします。
いつかまた言葉つかいとの戦いが行われるとき、これらすべてを頭の中から鮮明なまま取り出して再現できるように。
いつでも、今その場にあるように、世界に投射できるように。
歩き続けます。
海に背を向けます。
港の階段を上がります。
街。
テスは全てに目を凝らします。
鍛冶屋の黒い看板が風に煽られ、ぶらんこのように揺れています。
ナッツと香辛料を売る店先の商品には、今は麻布の覆いがかかっています。
麻布の目地に砂が詰まっています。
テスは歩きながら手を伸ばし、そのざらつきを覚えます。
麻布から離れまいとする砂粒の意志を覚えます。
あらゆるものが安定と固着を望んでいます。
永遠に傾いたままの太陽が、世界のあらゆる影を同じ角度で大地に焼きつけたように。
海の男たちの教会堂を見つけ、その
異様な光景が目に映ります。
四階建てより高い建物はないみたいです。
かつてそれより高かったであろう建物は、屋上に大量の瓦礫を乗せ、かつて不可思議な力がその建物を圧縮し、本来の高さを奪ったことを無言で証明しています。
テスは首をかしげ……。
海を向きました。
押し潰された建物たちに背を向けて、夕空を仰ぎます。
心なしか、夕闇が赤く濃くなっているように思えました。
テスは記憶から青空を
そのイメージを林檎ほどの大きさの球体にまとめ、視線の力で夕空に投げ放ちました。
水色の色彩が、黄昏の色を映して空を覆う雲にぶつかり、弾けました。
テスは弾けた青空を四角く拡張します。
心の鍵を開きます。
誰にも見られず、誰にも踏みこまれることなく
鳥たちはテスの瞳を通り抜け、テスの視線の力に乗って青空へ羽ばたいていきます。
すべての鳥がテスから遠ざかり、風を喜んで海の上で輪を描き、以降無駄な動きは一切せずに狭い青空を目指します。
その先により良い場所があるとの確信を、群れ全体で表現しています。
彼には透き通る鳥の亡霊たちを見守る以外、何もできません。
手を伸ばします。
気付けばテスは、鐘楼の柱に左手をつけ、右腕を目いっぱい空に伸ばしています。
ぴんと伸びた指先は力を失くしていきます。
テスの目は失意に
青空は全ての鳥を吸いこみ蒸発します。
港の様子に変化はありません。
テスはうなだれそうになりながら、
――いつかああして空を飛ぼう。