(四)

文字数 526文字

「さあ座りたまえ。飲み物はないからうちの土産物で勘弁しておくれ」
「あ、お構いなく」

 遠慮しなくていいよ、と出してくれたのは小さなペットボトルだった。
 手に取るとほんのりと温かいが、飲むのは躊躇われた。それは遠慮などではなくパッケージが理由だった。パッケージには金魚のイラストと、ロゴは『金魚湯』と描かれているのだ。

「……中身なんですか?」
「ただのお湯だよ。安心おし。金魚で出汁取ったりしてないから」
「はあ……」

 それでもやはり抵抗がある。しかし金魚屋の男はごくごくとそれを飲み干し、出された以上は礼儀として飲まないわけにもいかない。
 おそるおそるペットボトルに口を付けたがやはり飲むことは躊躇われ、飲むフリだけしてテーブルに戻した。

「挨拶が遅れたね。僕は御縁叶冬(かなと)。金魚屋の店長様だよ」
「俺は石動秋」
「さあ! 話してくれたまえ!」

 既に名前は知られているのだから挨拶は必要ないかと思ったが、それにしてもこんな思い切り遮らなくても良いだろう。
 しかも話せとは一体何をだ。主語のない演技じみた喋り方にため息が出た。

「話すって何をですか」
「空飛ぶ金魚についてさ。見えてるんだろう?」
「やっぱりあなたも見えるんですね!」

 秋葉は思わず立ち上がり前のめりになった。
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