臨武君と荀子の議論(齊の兵・魏の兵・秦の兵を巡って)

文字数 1,794文字

 孝成王(こうせいおう)臨武君(りんぶくん)は申しました。

「確かにその通りです。王者の兵について質問させていただきたい、もしどのような道で、どのように行えば王者の兵は可能でしょうか?」

 荀卿(じゅんけい)(荀子)は申しました。

「およそ君の賢なる者によりその国は治まり、君の不能なる者によりその国は乱れます、禮を(たか)め義を(とうと)ぶ者によりその国は治まり、禮をはぶき義を(いや)しむ者によりその国は乱れるのです。

 治まっている者は強く、乱れる者は弱い、これは強弱の本でざいます。上があおぐに足ればそこで下は用いることができ、上があおぐに足らなければそこで下は用いることができないのです。

 下を用いることができればつまり強く、下を用いることができなければつまり弱い、これが強弱の常なのです。

 齊があきらかです。(ここの前後に文字の異動があるようですが校勘していません)人に勢いがあり技巧なれば、その技は、一首を得れば錙金(しきん)(あがな)いますが、一首を得なければ同じような褒賞(ほうしょう)はありません。このようであれば小敵は(もろ)く崩れ、その勢い・意欲は用いるべきです。しかし事大きく敵堅ければ、兵は散って離散します。飛ぶ鳥のさまのようで、傾側(けいそく)反複(はんぷく)は日なく、これは亡国の兵であり、兵においてこのようなものより弱いものはないのです。これは(いち)雇人(やといにん)をかりて戦うようなものにございます。

 魏氏の武卒(選抜部隊)は、度(試験)で兵を取ります。三属の甲(三つの部分を蓋うよろいだという)をきせ、十二石の()(あやつ)り、矢五十個を負い、()をその上に置き、(かぶと)をかぶり帶劍して、三日の食糧をもっているのに、日中において百里を進ませます。その試験に合格すれば、その戸(家)は徭役を免ぜられ、その田宅を支給されます。その武卒の気力は数年で衰えますが、それでも徭役免除と利益は奪うことができず、改めて試験しようとすれば充分であることは難しいでしょう。そのために地は大であるのに、その稅はかならず少なく、これは危国の兵でございます。

 秦人は、その民を生ずる地は陿隘(きょうあい)で、その民を使うことは酷烈(こくれつ)で、兵を使うに勢いをもってし、兵を隠すに険しいところをもってし、兵を習わすに慶賞(けいしょう)をもってし、兵を徴兵するに刑罰をもってします。民が利をえて上に昇る手段は、闘い以外では方法がありません。五甲首として五家をしばります。これはもっとも衆を強くし長久とする道なのです。だから四世勝ち続けたのは、幸運ではないのです、運命なのです。

 だから齊の技擊は魏の武卒にあたることが出来ず、魏の武卒は秦の銳士にあたることができず、秦の銳士は齊の桓公、晋の文公の節制にあたることができず、桓公、文公の節制は湯王、武王の仁義にあたることができず、これにあたることのある者は、焦熬(しょうごう)(最も脆いもの)を石に投げるようなものなのです。

 兼ねてこれ数国は、みな賞をもとめ利をふむ兵でございます、雇人(やといにん)・商人の道でございます。上を貴び、制を安んじ、節を守るの理などないのでございます。諸侯によくこの仁義の兵をやりつくすものがあれば、勃興して他国を併呑してしまうでしょう。

 だから募・選(ぼ・せん)を招き延べ、勢・詐(せい・さ)()かくし、功・利を上げる、これは俗になじんでしまっているのです。そこに禮義教化をおこなうと、ここにすべてをひとしくしてしまうのです。だから詐で詐にあたるのは、巧拙をくらべるのみです。詐術で齊にあたるのは、(たと)えるのならば錐刀(きりがたな)泰山(たいざん)(齊にある山)をくずそうとするようなものです。

 だから湯王、武王(いずれも聖王)が桀王、紂王(いずれも暴君として有名)を誅するや、さしまねき指示するだけで、強暴の国にしたがわないものはなく、桀王、紂王を誅すること独夫(一人の男)を誅するようでした。だから泰誓(たいせい)(『書経』つまり『尚書』の篇名)にもうしておるのです、『獨夫紂』と。これはこのことなのです。

 だから兵がおおいにととのえば天下を制し、小さくととのえば隣敵をあわせます。もし招延(しょうえん)(まねく)・募選(ぼせん)(つのりえらぶ)し、勢詐にはげみ、功利の兵につとめるようであれば、勝つ勝たざるに常なく、かわるがわる(おさ)め、かわるがわる張り、かわるがわる存し、かわるがわる亡び、たがいに雌雄をなすだけです。そしてこれを盜兵といい、君子はよらないのです」

 ああ長かった。誤訳オンパレードですが、荀子の当時の兵や、天下併合への道を説き、興味深いところです。

 しかしまだこの議論は続きます。長い。
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