第3話
文字数 7,592文字
夢喰いバク
憐れみと慈しみの撹拌夢
不可思議は無知の娘である。 フロリオ「最初の果実」
第三品 【 憐れみと慈しみの撹拌夢 】
穏やかなお昼の日差しを浴びながら、4歳の少女、鈴岡流亜とその母親は、夕飯の買い物をするために近くのショッピングモールまで来ていた。
流亜は多少ぎこちない歩き方で、母親の周りを右往左往している。
「流亜、迷子になっちゃうわよ」
「はーい」
本当にわかっているのか、流亜は自分が知っている言葉のうちから知っている言葉を探して応える。母親は未だキョロキョロしている流亜の手を引いた。
「ママ!くまさんいるよ!」
「あら、本当。可愛いわね」
食料品の買い物に行く為には通ってしまう”ぬいぐるみ”のコーナー。流亜は大好きなクマのぬいぐるみを見つけると、思い切り抱きついた。
しかし、これは流亜の“買って頂戴”という合図であることを知っている母親は、「流亜、チョコレート買うんでしょ?」と関心を逸らそうとする。
母親の言葉が聞こえているのか、流亜はぬいぐるみをじっと見つめる。
一度目が合ってしまったが最後、流亜はこのぬいぐるみのことを忘れないだろう。だからといって、母親もここで買うわけにはいかない。
「流亜、この前のうさぎさんは?部屋で流亜のこと待ってるのよ?くまさん、うさぎさんと仲良く出来るかな?流亜がくまさんばかりと遊んでたら、うさぎさん、悲しんじゃうよ?」
「・・・うーちゃん、泣いちゃうの?」
うーちゃんとは、うさぎのぬいぐるみにつけた名のようだ。流亜は母親の方を見て、心配そうに首を傾げた。
「そうよ?」
「・・・うーちゃんとくまさんは仲良く出来ないの?」
「そりゃあ・・・」
自然界の動物の話を持ち出そうとした母親だったが、四歳の子供にそんな酷な内容を言わなくても良いだろうと、一度口を紡ぐ。
確かに、自分の小さいときにはぬいぐいみを沢山持っていた。今の流亜以上に駄々をこねて買ってもらったときもあった。
「じゃあ、犬ちゃんは?犬ちゃんは仲良くできる?」
「え?」
くまのぬいぐるみの上の段には、これまた可愛らしい犬のぬいぐるみがあった。
流亜の背丈でも見えるのかと思っていると、流亜がなんとかそのぬいぐるみを取ろうと、必死に背伸びをする。
到底届きそうにないその姿を見て、母親は小さく息を吐いた。
「そうね。ワンちゃんなら仲良くできるかな?流亜、ワンちゃんでもいいの?」
「うん!うーちゃんにお友達が出来るね!」
ああ、子供って優しいな、と大人になって改めて思ったことを口には出さず、大人しそうにお座りしているぬいぐるみの犬を抱き上げた。
会計まで持っていって大きめの袋に入ったぬいぐるみは、少し窮屈そうだ。
「ママ!流亜持つ!」
「・・・ずるずるーってなっちゃうわよ?」
袋の大きさから見て、どう見ても足りない流亜の身長と比べ、母親は流亜に言う。
「大丈夫!」
「じゃあ・・・はい」
目をキラキラ輝かせていう我が子に負け、母親は仕方なく袋を持たせてみるが、案の定、日見事に引きずっている。
「んしょんしょ」と可愛らしい声を出しながら袋を引きずるその姿は、昔の自分のようだ。
「流亜。やっぱりママが持つわ。ワンちゃん、痛いって言ってるわよ」
袋へと視線を移した流亜は、中でお座りをしている犬に「痛いの?」と聞いたあと、母親に袋を託した。
買い物前に買ってしまったのはやはり失敗だったと思う母親。
カートの脇には小さなフックがついているものの、袋がガサガサあたって歩き難い。ついている椅子に流亜を座らせると、流亜は足をバタバタさせて辺りを見渡している。
「ママ!チョコ!」
「待って。後でね」
先に欲しいものを買ってしまうと、流亜は帰りたい帰りたいと始めるため、母親は一番最後に回すことにしている。
牛乳が安いけど、流亜がよくお腹を壊してしまう。鶏肉がお買い得だ。納豆も欠かせない。流亜は臭いっていってあまり食べないが。魚も新鮮なものがある。お昼はインスタントでも良いだろうか。でも流亜がオムライスが食べたいと言っていたから、ちょっと食べて行くのもいい。
そんな思考を巡らせながら買い物を進めていくと、お菓子コーナーに近づいてきてしまった。
「ママ!チョコ!」
「待って待って。まだママの買い物の途中でしょ」
不満そうに唇を尖らせる流亜を見て、「可愛い」と思ってしまうのは親ばかなのだろうかと、母親は自嘲する。
一通り買い物が済むと、流亜の待ちに待ったお菓子コーナーへと向かう。
着いてすぐに流亜を椅子から下ろすと、流亜はお気に入りのグミ入りチョコを手に取りに行く。それも二つ。
「流亜。一個の約束でしょ」
「・・・お兄ちゃんの分だもん」
「あら。お兄ちゃんに買って行ってあげるの?」
流亜の兄は7歳で、小学校に通っている。帰ってきても碌に机には向かわず、友達と外で遊んでしまう。
だが流亜の面倒も良く見てくれる兄であり、流亜はそんな兄が大好きだ。
「でも流亜、いつもお兄ちゃんの分のお菓子、食べちゃうじゃない」
「今日はちゃんとあげるもん!」
「はいはい。じゃあ、二つ入れていいわよ」
きっとまた二つとも食べてしまうだろうと思いつつ、カートにはグミ入りチョコを二箱入れる。
買い物を終えてオムライスを食べ家に着くと、すぐに流亜はぬいぐるみを出して遊び始めた。
その間、母親はすでに乾いている洗濯物をこみ、畳んでいた。
テレビを点けっぱなしにしていたが、特に見たいものも無かったため、リモコンの電源ボタンを押した。
静かな部屋には、流亜の笑い声だけが響く。
しばらくしてその笑い声さえ無くなったので、母親が顔を流亜に向ければ、ぬいぐるみと一緒にお昼寝をしている我が子の姿が見えた。
クスッと笑い、風邪をひかないように一枚布を被せる。
窓から差し込んでくる太陽は程よく温かく、母親も寝てしまいそうになるが、夕飯の支度を始めようと台所へ立った。
「ママ?」
流亜がゆっくり身体を起こすと、そこには数えきれないほどに並べられたぬいぐるみが置かれていた。
「あ!くさまん!」
さきほど見たくまのぬいぐるみとは少し違うが、それでもくまには違いない。
フカフカのくまのぬいぐるみを抱いたあと、流亜は他のぬいぐるみも次々に触り、抱きしめていった。
幸せ絶頂といっても良いくらいの流亜は、最後のぬいぐるみに顔を歪ませた。
それは流亜が大嫌いな“ピエロ”のぬいぐるみだったのだ。唇は赤く大きく膨れていて、顔は真っ白。目元は滴の形や星の形をした模様が入っている。
目は笑っているのかさえ分からない、そんなピエロが流亜は怖くて仕方なかった。
「流亜、ピエロ嫌!」
そう言ってピエロのぬいぐるみを軽く叩いた。それほど力を入れていないにも関わらず、ピエロのぬいぐるみは思っていたより遠くへ飛んでいった。
ピエロとも距離が取れた流亜はホッと胸を撫で下ろし、可愛いぬいぐるみを堪能しようと顔を戻す。
しかし、そこには目から赤い液体を流すぬいぐるみ達がいた。
「!!??」
何が起こったか分からない流亜は、口をパクパクさせてぬいぐるみを見ていた。
次々に真っ赤に染まっていき、さらにはゆらりと動きだしたぬいぐるみたちに、流亜は我慢できず泣き出してしまった。
「わー!!!ママ―!!!!」
『ママは来ないよ』
何処からともなく聞こえてきた声に一度耳を澄ませると、先程自分が叩いたピエロのぬいぐるみがいた。
『どうして僕を叩いたの?他のみんなはあんなに抱きしめていたのに。君は酷い子だね。僕はとても傷ついたよ』
「・・・っく。ごめ・・なさい・・・」
徐々に近づいてくるピエロは身体も大きくなっていき、流亜を見下す。
流亜は入らない力を足に入れて、必死にピエロから逃げようと足を動かすが、足が地面とくっついてしまっているみたいに動かない。
「わーーーーーー!!!!ママーーーー!!!!」
「・・あ。流亜!」
ビクッと身体を震わせ目を大きく見開けば、そこには会いたくてしょうがなかった母親がいた。
「どうしたの、流亜?」
「ママー!!」
ギュッと思い切り母親に飛び付くと、安心したのか泣きじゃくる。そんな流亜の背中を、母親はそっと撫でる。
「もう大丈夫よ。ね?」
そんな微笑ましい光景を、リンゴ飴を齧りながらニヤニヤ見ている男がいた。
真っ黒闇の中に浮かぶ赤い髪の毛。いたいけな少女の夢を盗み見て口端をあげるその男は、流亜の夢に向かってリンゴ飴を投げた。
「面白くなりそうだな。子供の夢はこんなにも面白いものだったのか。私利私欲に塗れた大人の夢とか違うのだな。まあ、不味くはなさそうだ」
男、バクは流亜の夢の前から一旦姿を消した。
「流亜、おやすみ」
「おやすみなさい」
あの後なんとか心落ち着かせた流亜は、母親と一緒に兄を迎えに行き、お菓子を仲良く分け合った。
夕飯は大好きなハンバーグだった。市販のデミグラスソースをかけたハンバーグは美味しく、ご飯もすんなりお腹に収まった。
早く帰ってきた父親と兄、三人でお風呂に入りながら歌を歌った。
そのころにはとっくに昼間見た夢のことなど忘れていた流亜は、自分と兄の部屋に向かうと、ものの数分でぐっすり寝てしまった。
顔の横には、この日買った犬のぬいぐるみと、うーちゃん。
「流亜の部屋に犬のでかいぬいぐるみなんてあったか?」
「ああ、あれね。流亜にせがまれちゃって。つい」
「流亜は本当にぬいぐるみが好きだな」
「あら。女の子はみんな好きよ。私だって昔は沢山持ってたんだから」
「お前にもそんな時代があったのか」
「・・・なに?喧嘩売ってるの?」
「いや。勝てそうにない喧嘩は売らないよ」
両親がそんな話をしているのを知ってか知らずか、流亜は爆睡中。
同じ部屋で過ごしている兄もすでに夢の中であった。いつもと同じ日常。いつもと同じ会話。いつもと同じ朝を迎えるはずだった。
夢の中の住人、バクは流亜が寝静まったのを確認すると、再び夢を覗き込んだ。
「昼間の様な喜劇ならいいんだけどな」
しばらくは真っ暗で、ほとんど映像化されない夢を見ていた流亜だったが、三十分ほど待つと、次第にぼんやりと見えてきた。
それはなんともメルヘンチックな風景で、カラフルな花畑の中央にお城があるものだった。
「ママにー」
「・・・あそこか」
声のするほうを見てみると、花畑の花に埋もれた流亜がいた。
お尻が汚れるなど気にする様子もなく、花を摘みながら王冠を作っている。どうやら、母親に作っているようだ。
出来上がった花の王冠は、決して上手いとは言えないまでも、ある程度の形にはなっていた。
しばらく花で遊んでいた流亜だが、傍に鳥が飛んできたため、今度はそちらに興味がいく。
「鳥さん鳥さん。こんにちは」
普通、ここで鳥は話したりしないのだが、ここは流亜の夢の中。その鳥はオウムよりも器用に、饒舌に流亜と話す。
『こんにちはお譲さん』
「鳥さんはなぜお空を飛べるの?流亜も飛びたい!」
『では、なぜ君たちは空を飛べないの?』
「うーん・・・。パタパタ出来ないから!」
可愛い会話だと思えればいいのだろうが、生憎、夢の中の不審者バクは、その光景を見て欠伸をしていた。
バクが見たいのはこんなのんびりとした平和な夢ではない。
新しく手に入れたリンゴ飴を舐めては齧り、舐めては齧りを繰り返していたバクだが、流亜があまりにもつまらないことばかりするため、いよいよ呆れてしまった。
リンゴ飴の飴の部分だけを齧り終えると、リンゴの部分を足下に落とし、踏みつけた。
そんなバクの心中を知らない流亜は、鳥と楽しくお喋りを続けている。
それを見てあからさまに舌打ちをするバクだが、流亜と鳥が一緒に何処かへ行こうとするのが視界に入り、後をついていくことにした。
掌サイズだった鳥は徐々に大きく姿を変えると、流亜を自分の背に乗せた。
天高く飛び立つと、枯れ木で作られた巣まで連れてきた。
「あー!小さい鳥さんがいる!」
巣にいた雛たちを見て喜んでいる流亜の前で、大きくなった鳥は雛に餌を与えるために口を開けた。
その中に雛が顔ごと突っ込んで喉にある餌を取ると、上を向きながら呑みこんだ。
「わー!すごいすごい!!」
両手をパチパチさせて流亜は喜んだ。雛たちはぐんぐん大きく育っていき、気がつけば流亜より大きくなってしまった。
「おっきー!」
雛たちは飛ぶ準備を始め、羽根を懸命に動かしていた。
『お譲さんもやってごらん。空を飛べるかもしれないよ』
「流亜も飛べるの?」
そう言われ、流亜は両手を広げて力の限り動かして見たが、当然のように空を飛べるはずがなかった。
『ほら、早くおいで。置いていってしまうよ』
「待って!流亜も!」
短い腕を懸命に動かしてみるが、鳥たちのように羽ばたくことは出来ず、流亜は焦る気持ちで走りながら腕を動かす。
そんな滑稽な姿を見ていたバクは、喜劇を見られるのを諦めて去ろうとした。
だが、流亜の身体が少しだけ浮くのが見え、顎に手を添える。
少しずつ浮く自分の身体に気付いた流亜は、嬉しそうにキャッキャッと笑いながら鳥に話しかける。
「見てみて!流亜も飛べた!」
『そうだね。でも、それは“飛ぶ”というよりも“浮いた”だね』
直立した状態で腕だけを動かし浮いている流亜。
足だけがなんとか浮いているその状況に、鳥は羽根を上下に動かしながら目の前の景色に視線を移した。
『お譲さん。あそこに崖があるだろ?あそこから飛び降りてみて飛べていたら、そのときは一緒にまた空を飛ぼう』
「うん!流亜飛べる!」
今のままでも充分に飛べているのだが、流亜は鳥の言うとおり、崖まで一生懸命に腕を動かしていた。
いよいよ崖が近づいてきて、流亜は今までよりも激しく腕を千切れんばかりに動かす。
「!やったー!」
崖を過ぎても、流亜の身体が地面に落ちることはなく、鳥の後を追う様にして飛んでいく。
だが、疲れてきたのか、流亜の腕を動かす力は徐々に弱くなってきた。
鳥達が飛んでいる高さからどんどん低くなっていき、それでもなお、鳥に着いていこうと必死になる流亜だった。
どんなに強く想っていても、思い通りにいかないときはある。
ほんの一瞬、力を抜いてしまった流亜の身体は、一気に鳥との距離を離した。
「・・・!!!!!:」
助けを呼ぼうと口を開けてはみるが、吃驚したのと絶望と失望によって、流亜は声を出すことが出来なかった。
自分が落ちていることに気付きもしない鳥は、気持ちよさそうに流亜の遥か上を飛んでいる。
心臓がギュッと締めつけられているように痛く、感じたことのない浮遊感に意識が薄れていく。
ちらっと、鳥と目が合った気がしたが、鳥は何事もなかったかのように飛ぶことを続け、流亜は思わず泣き出してしまう。
幾ら泣いても助けてくれる人は誰もいなく、流亜はいつか地面に叩きつけられる自分の身体を守る術もない。
その光景を感情無く見ていたバクは、思わず身体を前のめりにする。
「いやはや・・・。笑ったり泣いたり、忙しい生き物だな」
「あら?」
「どうした?」
「流亜、うなされてるわ。怖い夢でも見てるのかしら」
身体を捩ってうーうー言っている我が子の様子に、流亜の両親は心配そうに見つめる。
「流亜、流亜」
優しく身体を揺すってみても、なかなか流亜は起きない。強めに揺すってみると、流亜はバッといきなり目を開いた。
「大丈夫?怖い夢でも見た?」
「・・・・・・」
口を半開きにして息を荒くしている流亜は、目の前のいつもの自分の家に落ち着きを取り戻したのか、隣にいた母親に抱きついた。
空を飛んでいない自分を残念に思いながらも、空から落ちていないことに安心した。
母親は片方の手で流亜の頭を撫で、もう片方の腕で背中を摩った。
そのまま母親の腕の中にいた流亜なのだが、十分経とうが三十分経とうが一時間経とうが、一向に母親から離れる気配がない。
「流亜?一緒に寝てあげるから、もう寝ようね?」
母親の言葉にブンブンと頭を左右に振った流亜は、結局その日、寝ることはなかった。
次の日、母親が昼寝を勧めても全く寝ず、流亜は一睡もすることなくまた夜を迎えた。
目を真っ赤にして寝ることのない流亜に、両親は心配してなんとか寝かしつけようとしたのだが、流亜は「寝ない」の一点張りだった。
両親は何日かは寝ずにいても平気だったが、さすがに三日目に入ると頭が働かなくなってきて、父親は仕事にも支障をきたした。
「あなたは寝て。仕事あるし」
「お前も少し寝た方がいい」
「昼間少し寝てるから平気。それにしても、流亜は大丈夫かしら」
思考停止しているかのように、以前のように元気いっぱいな流亜はいなかった。
ウトウトすることはあっても、決して熟睡はすることのない娘に、両親は頭を悩ませるようになった。
「ククク・・・」
暗闇の中、一人で喉を鳴らし笑っている悪趣味な男。
悲劇の喜劇を見たあの夜から、流亜の次の夢を待っているのだが、何日待っても夢と出会う事が無かった。
あのとき、流亜が目を覚ます前に食べたわたあめは今でも残っており、大事そうに一口ずつ口に含んでいる。
緑色に染まった髪の毛は、不気味にバクを艶やかにする。
「まあまあだな」
まるで映画でも見るかのように準備された椅子やわたあめだが、肝心の映像が流れない。
「“夢”ごときで精神が乱れるとは、なんとも単純な生き物だ。あれから一週間は経つか・・・?これからの長い一生、寝ずに生きていく心算か?あのガキは」
時間の感覚は正確なようで、自らも休まずに流亜の夢を待っていたバクは、大欠伸をして椅子から立ち上がった。
スラッとした足を動かして向かったのは、また別の夢の中。
わたあめを持っていないもう一方の手で椅子をズルズル引きずっていくと、その夢の前に座って鑑賞に浸り始めた。
流亜の夢を食べながら、バクは目を細めた。
「暇つぶしにはなりそうだ」
他人の不幸は蜜の味・・・
他人の幸は泥の味・・・