十四 卒業生ファイル

文字数 1,315文字

 この日から翌週金曜まで六日間、スマホの位置情報の輝点は、クラブ・リンドウが契約している駐車場と、深夜営業のスーパーと、北長野の一郭を行き来した。
 
 七月十七日、土曜、午後。
 位置情報の輝点が北長野の一郭から、善光寺の北東に位置する長野市岩水沢一丁目の住宅へ移動した。
 鷹野良平の自宅がある善光寺表参道の門前町からここまで車を利用するなら一キロだ。
 鷹野良平の自宅から歩けば、鷹野良平が死亡した善光寺北東にある岩水沢二丁目の公園まで四百メートルほどで、公園とこの岩水沢一丁目の住宅の距離は四百メートル未満だ。

 先週土曜。芳川はTOUNO機械(株)で誰かに会って、今日、ふたたび、その誰かに会うために岩水沢一丁目の住宅へ行ったとしたら、死亡する前の鷹野良平も、岩水沢一丁目の住宅を訪ねていた可能性がある。
 芳川は鷹野良平から頼まれて、鷹野秀人が事故に遭うまでの足取りに見当をつけていたはずだ・・・。芳川は鷹野秀人と鷹野良平に関係する人物を見つけたのか・・・。

 佐枝はスマホのアプリで長野総合高校の卒業生ファイルを開いて、芳川と同年齢の二十六歳でTOUNO機械(株)に入社している卒業生を検索した。
 該当したのは五人。全員がTOUNO機械(株)のスキー部に所属している。
 その中の二人が帝都体大卒で、一人が岩水沢一丁目の住宅に住む金田太市だった。
 そしてもう一人は香野肇。住所は長野市若郷一丁目だ。長野駅東口にある佐枝のマンションから南へ九百メートル、車で三分、徒歩で十分ほどだ。
 佐枝は長野総合高校の卒業生ファイルを見つめた。やはり、芳川は卒業生ファイルから鷹野秀人と鷹野良平に関係する人物を探しだした・・・。
 鷹野良平は先週木曜の朝、岩水沢二丁目の公園で死亡した。前日水曜の夜、鷹野良平が岩水沢一丁目の住宅に金田太市を訪ねた可能性は高い・・・。
 芳川は金田太市に何を話したのだろう・・・。香野肇の自宅へも行くのだろうか・・・。先週土曜にTOUNO機械(株)へ行った時、香野肇に会ったのだろうか・・・。
 ファイルを閉じて佐枝は溜息をついた。

 午後三時半になった。位置情報の輝点は停止したままだ。
 佐枝は室内着からバーテンダーの仕事着に着換えはじめて、
『先週土曜に、芳川は金田太市に会っていたが、何も話していない』
 と気づいた。今日、金田太市の自宅を訪れたのがその証だ。もしかしたら、今日、香野肇も金田太市の自宅にいて、芳川と会っているのかも知れない・・・。
 芳川は、なぜ金田太市に会いに行ったのだろう?
 芳川が、長野総合高校の卒業生ファイルから、あるいは、鷹野秀人が事故に遭うまでの足取りから、金田太市にたどり着いたとすれば、芳川は金田太市と香野肇に、鷹野秀人と鷹野良平の死はプロの犯行だと話すだろうか・・・。
 それとも鷹野秀人と鷹野良平に何があったか、金田太市と香野肇を問いただすか・・・。
 二人を問いただした場合、芳川に危害がおよばないだろうか・・・・。

 いろいろ考えているあいだに、午後四時をすぎた。佐枝はアプリを閉じてスマホをバッグに入れ、室内を確認した。何かあっても、私に危害はおよばない・・・。
 佐枝はマンションを出た。
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