第5話(5)

エピソード文字数 2,804文字

「み、魅里、ちゃん? どうして止めるんだい?」

 みんな仲良く焦っていたら、神蔵さんが目を瞬かせた。
 助けてと言われて助けようとしたら、制されたんだ。誰だってこうなるよね。

「こ、これは……。ええと、ですね……」
「う、うん? なに、かな?」
「その、あの……。その……」

 魅条さんガンバレ! どうにか誤魔化して!

「ええと……。ええと、ですね……」
「ぁ、うん。なに?」
「あー、えー、あー……。やっ、やっぱりあれです! 最後まで足掻いてみたいと思ったからですっ!」

 魅条さんは頑張って、急遽台詞を作った。
 うーん、いやまぁ、こうするしかないんだけどさぁ。どの次元を探しても、助けを乞うた直後にこう言いだす人はいないでしょうね。

「え? 魅里ちゃん、それは無謀じゃ……」
「ええ分かっていますっ――ええ色紙優星、アタシは分かっていますよ! コソッと囁いてもアタシは揺らぎませんっ! 神蔵王器という男は、そんな情けない人間ではありませんからね!!

 つい出てしまった返事を、俺との会話に組み込みなかったことにした。
 もう、おかしな点がたっくさんあるんだ。色紙優星は全く口を動かしていなかったけど、気にしない。

「み、魅里ちゃん……? 今、なにも囁かれてなかったよね……?」
「そんなことより王器様! おっ、お聞きください!!
「は、はい。なにかな……?」
「アタシは……。その……………………」

 さっきは頑張って急遽台詞を作ったでしょっ。もう一度頑張って!

「その……。ですね」
「う、うん」
「王器様は…………お強い方で、なんとかしてくださると信じていますっ。とにかく、限界まで貴方を信じさせてくださいっ!」

 多分『もう視覚に訴えるしかない』と思い、ここで魅条魅里はスキル・『名演技』を発動。彼女はナチュラルに瞳を潤ませ、真っ直ぐ主を見つめる。

「王器様、お願いします! アタシにっ。魅条魅里にっっ! 貴男を信じさせてくださいっ!!
「………………ははは、君にそう言われちゃったら断れないよ。……絶対になんとかしてみせるからね!」

 神蔵さんの両目に、かつてない程の力が籠った。
 いやはや、流石は火鉈さんの時にギャグみたいなことをした人だな。カオスな流れになっているのに、すっかりその気になってるよ。

(……ふぅ、どうにか軌道を修正できたわね。従兄くん、白金化作戦を続けましょう)
(そ、そうだね。やりますか)

 いつまでも黙っているのはおかしい。そこで俺達は小さく顎を引き、お芝居を再開させることにした。

「ははっ、こりゃあ面白い展開になってきたぜ。転送と解放、どっちが先だろうなぁ?」
「解放に決まっている! まずは、この影を消す!!

 神蔵さんは脚を拘束している魔王術に、全力で攻撃。両手で握った剣を叩きつける。

「たははっ、その程度じゃ斬れねーよ。無駄だ無駄」
「水がコンクリートに穴を開けるように、繰り返していればいつか破れるっ。僕は、諦めない!!

 うっわー、あの人カッコいいな。歯を食い縛って一心不乱に剣を振り下ろす姿、なんかキラキラしてるよ。

「王器様っ、頑張ってくださいっ。アタシ、信じてま――けほけほっ!!
「魅里ちゃん……っ。出来るだけ早く出すから、苦しみに耐えてくれ……!」

 違うんだ王器様っ。魅里ちゃんは、気管に唾が入って咽てるんだ!

(にゅむ、しんどそー。お背中サスサスしなきゃだね)
(レミア先生、それはしない方がいいぜよ。ああいう時は意外に、放っておいてもらった方が楽ながよね)
(おい2バカ。お前達は暫く喋るな)

 俺は静かに睥睨し、神蔵さんに黒目を向ける。
 お芝居が長引くと、確実に誰かがヘマをしてしまう。なので魅条さんにもっと苦しんでもらうようにして、さっさと白金化させよう。

「王子様よぉ、ここでお楽しみを追加だ。実を言うとその魔法は、全身に痛みを走らせることも可能なんだわ」

 俺は普通の大きさの声で「シズナ、やれ」と命じ、そのあとボリュームを調整。彼には聞こえない小声に切り替え、(魅条さん、火鉈さん以上に痛がってください)と伝える。
 よりストレスを与えるには、苦痛を増やせばいい。単純なことです。

「ぁくっ、ぁぁっ! ぅぅぅっ! ぅあああああっ!」

 彼女は再度名演技を発動させ、肩を抱いて悲痛な叫び声をあげる。
 もし俺が神蔵さんだったら、これはかなり焦っちゃう。この調子でいけば、近いうちに達成できそうだ。

「くっっ、まだ破れない……! あんなに苦しんでいるのに……!!
「おう、き、様……。アタシ、信じて、ます……。だか、ら…………耐え、て、ま、す……っ」
「み、魅里ちゃん……!」

 神蔵さんの両目から、水が落ちる。
 いいっ、いいよ魅条さんっ。自分も、この状況で言われたら泣いちゃうぞ。

「ほほぉ~、この女は耐えるのか。耐えて耐えて、そのまま転送! 王子様救えずっ! ってのも面白いな」
「色紙優星っ、王器様をバカにしないで! 王器様はとてもお強いんです!」
「へ~、強いのか。だったら、大事な人くらい守れるはずなんだがなぁ」

 俺は球体をコンと叩き、哄笑をして心で小さくガッツポーズをする。
 今のやり取りで更に火がつき、神蔵さんの身体から白金色の煙が出だした。これは覚醒の前兆で、あと一歩のところまで来ている。

「……魅里ちゃんは信じてくれて、ずっと頑張ってるんだ……っ。僕…………しっかりしろっっっっ!!
「王器様……っ。その煙は――」
「シズナ。相手が変化してきてるんで、こっちも変化させるぞ。適当に継続型の魔法を打ち込んで、もう一つ痛みを加えてやれ」
「いっ、色紙優星っ。今度はアタシに何を――ぁぁぁぁっ! 身体の内側が、冷たくなっていく……!」

 あの状態になったら、一気に畳み掛ける。そういうシナリオになっているので、こうしました。

「神蔵さん、私の術は強力なのよ。もう数分も持たないわね」
「…………僕は、魅里ちゃんを裏切らない……! 裏切れない……っ。この身体に眠る力よ、手を貸してくれ……!!

 ガクガク震える、最愛の人。それを目にした神蔵さんは大粒の涙を流し、自身に訴えかける。

「僕は、大事な人を守りたい……っ。もう、時間がないんだ……! 頼むから力を貸してくれ……っ!!
「おう、き、さま……。しんじて、いま、す……っ」
「僕はもう、あんな魅里ちゃんを見たくない! 魅里ちゃんに、こんな思いをさせたくないっ! 目覚めろっっっっ! 目覚めろ僕の力ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 喉が裂けそうになる程の、『叫び』ではなく『咆哮』と例えられる大声。これを、引き金にして――

 ついに、その時が来た。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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