第6話 Police officer(2)

文字数 867文字

「あー、もうやってらんねえよ」

 会議室から戻ってきた副署長の竹原が苛立ちを隠さずに刑事課の部屋へと入ってきた。

 竹原は刑事畑出身でたたき上げの刑事であり、副所長室にいるよりも刑事課の部屋にいるほうが居心地が良いといって、事あるごとに刑事課に入り浸っている。

「どうかしたんですか、タケさん」
 樋渡が竹原に声をかける。

 竹原は副署長という肩書きで呼ばれることを嫌い、刑事時代のようにタケさんと呼ぶようにと署員たちには伝えていた。

「どうもこうもねえよ。警視庁の偉いさんたちがよ、デッドマンにも人権はあるとか言い出しやがったんだ。バカも休み休み言えってんだよな」
 ロッカーから自分の湯飲みを取り出した竹原は、ティーバッグの緑茶を淹れながら、樋渡にいう。

「だったら、その偉いさんたちにデッドマンと話し合いをさせればいいんじゃないっすかね」
「面白いこと言うな、海藤。よし、その案を採用だ」
 竹原は笑いながらいうと、湯呑に淹れた熱いお茶を啜った。

「じゃあ、拳銃使用許可も取り消しですか?」
「いや、そこの話は出ていない。偉いさんたちの中でも、その辺の意見は真っ二つに割れているみたいだ。警官の命を守るのも必要だという考えはあるみたいだぞ」
「そうですか」

 複雑な心境だった。
 拳銃使用許可が出たのは、感染爆発が発生してから二日後のことだった。

 あの時はすでに各地で警官による拳銃発砲が繰り返された後であり、後付けで拳銃使用許可が下りたようなものだった。

 当初、警察幹部は警官による拳銃発砲が批判されると考えていたようだが、世論はそうならなかった。
 警官も自分の命を守るべきだ。
 警官の発砲によって救われた人がいる。
 そういったネットニュースが流れることによって、警官による拳銃発砲は正当化されていった。

 世界は()るか、()られるかだ。

 港湾署の保管庫には、拳銃と銃弾が保管されているが、残りはだいぶ少なくなってきていた。
 デッドマンの出現時に、多くの署員たちが拳銃を装着して出動したためであり、出動した警官のほとんどが帰ってきていないという現実もあった。
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