饅頭、そのフォルムと内実について

文字数 2,137文字

 饅頭とはなんなのだろう。


 私は今、おそらく至って真面目な自問自答を行っているのだ。
 それは、ニュートンがリンゴについて、阿呆みたいに考え続けたように、あるいはエジソンが99%の努力を爆発させて電気をいじくりまわしていたように、いや、偉人について思いを巡らせた私の発想はまさしく恐れ多いものには違いないのだけれども、しかし発想にあるいは貴賤は無いものと考えれば、私の考える「饅頭、そのフォルムと内実について」といった博士論文、でないが、この不図、心に浮かんだ疑問でさえも、その深刻さでいえばまったくもって正当であると考えても良いんじゃないだろうか、ねえ。いやまじで。
 でって、ここまでの言い訳めいた吐露はここまでで、つまり。饅頭というものの現状把握から始めなければ、饅頭についての深淵に迫ることはできないのである。


 まず、饅頭のフォルムについて、私は考えてみる。
 饅頭のフォルムは丸い。丸いが、更にいうとだらしがない。腰から下はだらりとしていて、引き締まりがない。このだらっとした見た目のせいで、饅頭の印象はキリッというより、もっちゃりといった方が適正な風貌をしている。そして、にも関わらず、饅頭は日本菓子であり、日本菓子というものはなぜか格式が高く設定されているため、店先に饅頭が置かれているところを見ても、なぜか偉そうにちんと収まっている。
 元来そもそももっちゃりして、ほっこりするフォルムのくせに、なぜか良さげなおべべを着せられて、大層なショウケースに収まっているところを傍から眺めるにつけ、私はいつも、饅頭に問いかけてしまう、お前は本当にそこが良いのか?もっとお前を活かせる職場があるんじゃないか?もっとお前の、その愛嬌のある長所を存分に働かせることができるところ、例えば、最近流行りのタピオカ専門店の店先にポップ&スイーツなショウウィンドウデザインを、最近流行りのマルチメディアデレクターとかなんとか、やつらが何をやっているのかまったく分からないが、おそらくデザイナーもどきなのだろうと仮定する、所謂、そういった類の人類にプロデュースなどをまかせて、いい感じに、それなりに愛嬌良く、もっというと映え、あるいはフォトジェニックに加工を施し、色も原色などにすれば、今風のスウィーツとして再ブレイクもありえるのではないか。古典に収まっているだけでなく、未来的な攻めの姿勢、コンサバティブではなくプログレッシブ、あるいはニューウェイブでありポストパンクでありネオガレージっていう、なんかこう、もっとお前なら色々できるだろ!知らんけど。


 で、つっても、いろいろ考えこんでしまう阿呆な妄想を張り巡らせるだけ張り巡らせた後、私は塩饅頭を一かじりしてお茶で流しこんだ。あーあ、美味しいんだ、このあんこ。お茶と日本菓子という、この組み合わせの効能、精神に安定という最高の影響を及ぼすキラーコンテンツ、これマジすごい、なんて、先ほどの話、格式ぶるのやめろ説、すべて前言撤回君に成り下がりながら私は、変なニヘラ笑いをする深夜二時半、なんでこんなしょうもないことを考えているのかというと、つまり占い師だ。あの女占い師のおかげで、私はこんな奇妙なよくわからないことに深夜時間を空費している。


 この前の飲み会の帰りしなに、同僚男女何人かと帰っていると、占い師が道のはじっこで営業していた。女の一人が、占いやろうよとか言いながら、やり玉に挙げられたのがこの私だ。
 女性はなぜこういった謎かけの類が好きなのか。また、そこに学生以来、女性とご無沙汰している私という恰好の肴がいたことも、面倒の一因だったかもしれないが、つまり、現に男たちは既に十分辟易していたが、それでもやはり押し切られて占いを行うことになったのである。で、結果何を言われたかというと、饅頭、
 「あなたは、近いうちに饅頭をくれる女性と人生を共にするだろう」
 とか、私は本当にびっくりしたのだ。占い師とかいう連中は、かくも平気な顔をしてこんな冗談のようなことをいうのだ。この占い師という人種は、おそらく仕事というものをなめくさっているのだろうと、その時はこの占い師に対して税金泥棒(何が税金泥棒であるのかは謎だが)の断定をくだし、私は勢いにまかせて占い師を口汚くののしり、商売道具の水晶を指紋でべたべたにしてやった。占い師はしくしく泣くし、同僚の女はぶち切れるし、それはそれはまるで地獄絵図のような惨状だったそうだ。後から男共に聞いたところによると。で、そういうことでその場は大いに盛り上がって終わったのである。
 問題はこの次で、その二日後に、世話になってる病院の密かに憧れている女先生が、赤穂の実家に帰ったとか言って、診察の際に塩饅頭を土産にくれた。ただの患者の私に。なぜ?ほんと。まじでこういうの困る。だって普通?ただの患者さんに実家の土産なんかあげるか?あげてたまるか。いやほんと。あんな占いがなければこんなに訳の分からないことでモンモンとしないですんだのにっていう、所謂怒りとか。んで一方、淡い期待っていうか。ってのが、つまり、この饅頭への哲学的問答の最初の発露なのである。なんてな。
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