第2話 老いる、という長所

文字数 1,351文字

 第1話で内に秘めていたものを書きなぐって「ハイ、完結! 終了!」と思っていたのだが、まさか読んでくれている人が、しかも評価してくれている人がいるとは夢にも思わなかった。

 ありがとう。これはただただ嬉しい。

 せめて、もう少し、書いてもよろしいだろうか。いや、書くね。

 ――『老いたくない』

 これは誰しもが思うことだろう。でなければアンチエイジングという洒落た言葉も生まれはしないし、小皺やシミ、食事制限に悩むこともない。私だって持ち前の体力は失いたくない。けれど最近になって、老いてしまうことの長所もわかったのだ。

 私は昔から、理想主義だった。
 それも超がつくほどの。

 子供のころから自分のことを特別な存在だと思っていたし、常日頃から「自分には無限の可能性があるんだ!」と決めつけ、だからこそ夢をたくさんもつことができた。
 お笑い芸人、プロ野球選手、漫画家、俳優、スタントマンなど……、なりたいものにはとりあえず【可能性】というレッテルを貼って、人生という名のリュックに詰め込んでいく。くりかえし言うが、私は超がつくほどの理想主義だ。ここでざっくりと考えてほしい。

 人を笑わせながら、三割も打って、ネームを書いてから、演技で泣いたとに、滝つぼに飛び降りるスタントをこなせば、人は死ぬ。
 おそらくネームを書きはじめたあたりで、もう死んでいる。でもそれが私の理想主義だった。

 そして飛びに飛んで、今。
 私は老いた。あの頃よりも。

 体力は落ち、視力は下がった。まさに目に見えて自分が衰えていくのを感じる。それだけではない。あの超理想主義、言い換えれば超楽観的だった私の精神も歳とともにすり減っていた。妄想により無限に増殖していた理想は、現実を覆ってそれを大きく見せていたが、今頃になって徐々に剥がれ落ちていった。
 
 露になった私の現実は、ひどく並だった。
 並というのもまだ理想がひっついているかもしれない。

 私の現実は、人を笑わせることも、三割打つことも、ネームを書くことも、なかった。
 本気で泣いたことは、あった。若干ながら飛び降りてもいいかなと思ったことも、あった。
 徐々に広がる理想と現実の差を背負いながら歩かなければならない日々に、苦しく苛まれた。
 だけど、そんな日々から救ってくれたのが、『老い』だった。

 老いは、可能性を捨ててくれる。

 私の人生の中にあった【可能性】とレッテル貼りされたものを、老いは躊躇なく、遠慮なく、選別しては捨てていった。そして残されたのは、今の私という並にある、本当の可能性。
  
 おかげで、人生が軽くなった。
 私は今、その数少ない中身ある可能性を、素直に信じて行動できている。それでも時折、理想と現実の差に苛まれることもあるが、それは本来の理想主義の性分だから多少なら仕方あるまい。まあ、無職が何を言っているんだと思われる方もいるかもしれないが。
 でもこれは本当に、ここ最近で素晴らしい気付きだった。
 
 老いによって可能性が減っていくのではなく、老いによって可能性が洗練されていく。
  
 これが老いてしまう長所だと、私は豪語する。
 

 ……なんだか堅苦しい文章になってしまったので、最後はふわふわした蛇足を綴りたい。

 なんだか、『しーちきん』って言葉、カワイイよね。以上。


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