第1話

文字数 1,860文字

 NITRODAYを人に薦めるときに、まず言いたいのは「ヘッドホンをして爆音で聴いてくれ!」の一言なのだが、それではレビューにならなし、聴いたあとに、あれやこれやと言葉で語りたくなる文学的な魅力がこのバンドにはあると思う。
 まず歌詞がいい。全ての曲の作詞作曲を手がける小室ぺいは、高校の部活で短歌を書いていたと知って納得してしまった。少ない文字数、シンプルな言葉遣いで情景が鮮やかに浮かぶ。声を潰すようなシャウトの中で、不思議と耳に残る歌詞が多いのは、かなり語感も大事にしているからではないだろうか。
 特に今作の中で私が痺れた歌詞は、1曲目「ヘッドセット・キッズ」の「ポケット突っ込んだピンカートン確かめて最後のバタフライ雲の上届くまで」のところだ。お気に入りのアルバムの最後の曲まで、という万人に当てはまる表現ではなく、「ピンカートン」の「バタフライ」という固有名詞が使われることによって、私個人の思い出に真っ直ぐスポットライトが当たったようで、胸が詰まってしまった。「ピンカートン」に特に思い入れがない人でも安心してほしい。「あぁこれは私(俺)のことを歌ってる」と思わせてくれる、鋭い表現がきっとNITRODAYの曲に見つかると思う。
 文学的というのは、歌詞の話だけではない。文学には心が動く展開と、一貫したテーマがあるが、NITRODAYというバンド自体にそういったものを感じる。
 心が動く展開というのは、このバンドの凄まじい成長速度だ。本作を聴いて少しでも引っかかるものがあったら、ぜひ過去の作品も順番に聴いてほしい。歌詞、歌い方、アレンジがスピード感を持って洗練され、外に向いていくのを感じると思う。
 昨年の作品「レモンドep」からベース松島早紀のコーラスが取り入れられ、表現の幅が広がったとは感じていたが、今作の2曲目「ダイヤモンド・キッス」で、またひとつ武器を手に入れた手応えがある。この曲には、今までのNITRODAYになかった、おどけたような、力の抜けた雰囲気があるところがいい。
 そして3曲目、uri gagarnのninoheron氏をゲストに迎えた「ブラックホール feat.ninoheron」は、RPGで例えるなら、強力な仲間が増えたといったところだろうか。group_inouへのリスペクトを感じるイントロ、小室の歌詞をラップに昇華させるninoheron氏、両バンドの親和性の高いサウンドが、最強のハーモニーを奏でている。
 RO JACKに優勝したNITRODAYは、急激に年代の違う人との接点が増えたのではないかと想像する。人ととの繋がりによって影響を受けてしまうことは、いい面も悪い面もあるかもしれないが、この曲を聴いて、少なくとも私は面白くなってきた。と感じた。
 ものすごい勢いで変化を遂げるNITRODAYだが、一貫した意思も感じる。それは過去の名作への敬意と憧れだ。
 NITRODAYのレビューで必ずと言ってもいいほど書かれる80~90年代のオルタナシーンの影響は欠かせない。4曲目「アンカー」を聴くと、NITRODAYの今の色はやっぱりこれだなと確信する。
 ただ、あの頃のサウンドを今やりたい!という単純な気持ちでは無いだろう。世代の違うNITRODAYが聴いても「ピンカートン」が心に響いたように、何世代も後の人が聴いても、心に何か残すものを作りたい。そんな憧れが本質ではないだろうか。そう考えると、80年代ポップスを感じさせる「ダイヤモンド・キッス」や、00年代HIPHOPを感じさせる「ブラックホール」は自然な挑戦であったと思う。
 本作のタイトルは「少年たちの予感」。収録曲のトラック名ではない。この4曲を通して、NITRODAYは何を予感しているのだろう。本作はNITRODAYにとって飛躍の作品だと思うが、次の作品への期待感を仄めかしてくれるところが嬉しい。この間を楽しませてくれるとこともNITRODAYというバンドの文学性だと思う。
 最後に、本作のCD版には旧曲のライブ音源が4曲収録されているが、機会があれば、ぜひNITRODAYのライブに行って、肉体的にこのバンドの音圧を感じてほしい。骨太なベース、ドラム、癇癪のようなシャウト、思考が歪むようなギターのフィードバック。文学的だなんだとつらつら語ったがこの体験ばかりは言葉では表現しきれない。ライブを体験した後に、もう一度音源を聴くとまた違った気持ちが溢れてくるのではないだろうか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み