第3話(8)

エピソード文字数 2,950文字

「あ、その……です。兄様、黒真さん、金堂さん、虹橋さん、我が家へようこそ……ですっ」

 宣言通りの19時。18畳の和室にある大きなテーブルの周りに、俺ら客人と伯父さんファミリーの3人が集合。物申したくなる台詞を切っ掛けにして、歓迎会兼夕食――土佐風に言うと、『おきゃく』がスタートした。

「親バカみたいになっちゃうけど、ウチの娘は料理が上手なんだよ。美味しいから沢山食べてね」
「遠慮しなくていいのよ? どんどん食べて頂戴ね」

 伯父さん伯母さんが机上に並ぶ、ピーマンの肉詰め、鶏のから揚げ、チンジャオロース、ウツボのステーキ、カツオの天ぷら、マヒマヒ(しいら)の南蛮漬け、ワカメとキュウリとショウガの酢の物、具だくさんの野菜スープ、山の幸がどっさりな炊き込みご飯を見回す。
 肉料理魚料理野菜料理、定番や変化球もあって、バラエティーに富んだ内容となっている。流石は自慢の従妹だ。

「にゅむむっ、よーやくわかったよー。ゆーせー君が『度肝を抜かれる』って言ってたのは、こーゆーコトだったんだねっ」
「得心したがよ。こりゃスゴイにゃぁ!」
「ぁ、ありがとう、ござい……ます。喜んでもらえて、嬉しい……な」

 俺の左隣に座り、モジモジして赤面する育月さん。
 この子、あざとい! 位置取りとか反応とか、いちいちあざといよ!

「……く、料理上手だなんて……。こっちの従妹、なかなか強敵ね……!」

 しっかり俺の右隣にいるシズナが、炊き込みを食して唇を噛む。
 皆さーん、僕はアブナイ女に挟まれてます。向かいにいるレミアフュルコンビと、チェンジしたいですー。

「ゆーせー君ゆーせー君。あたし、度肝を抜かれちゃったよー」
「ああ、それなんだけどね。俺が言ってたのは、メニューの多さじゃないんだよ」

 チッチッチ。度肝抜かれポイントは、ソコではありません。

「にゅむっ? これじゃないんだー」
「なら師匠、どこなが? どこで肝を抜かれるが?」
「河童が肝を抜く、という話があったわね。そこにある……『吉野川(よしのがわ)』に入れば、抜かれるかもしれないわ」
「どこで? それはね、このピーマンの肉詰めを食えばわかるよ」

 俺は二つ取って、レミアとフュルの皿に置く。

「い、従兄くん? 私、的外れな事を口走ってるのよ?」
「レミアフュル。召し上がれ」

 今のは幻聴。シズナという人は、ここにはいない。だから俺は手を伸ばし、二人に促しました。

「ゆ、ゆーせー君。いーの?」
「師匠。シズナ先生、かまって欲しそうにしゆうぜよ?」
「そういうのは、疲れたからいーの。存在してないと思いなさい」

 晩飯が始まるまで、6回もシズナマジックに引っかかったんだ。もう相手にしません。

「ほら、食べてみなされ。折角の料理が冷めちゃうよ」
「にゅ、にゅむ。いただきますー」
「いただくぜよっ」

 二人は箸で肉詰めを掴み、パクンチョ。さあどうでしょうか?

「もぐもぐもぐもぐ………………にゅむ! にゅむむっ、にゅむむー!」
「こりゃなんぜ!? 普通のピーマンの肉詰めなはずのに、普通じゃないよ!」
「ふゅ、フュルさんが土佐弁を忘れるだなんて……。私も頂いて――っっ!」

 気を取り直して口に入れたシズナは、両手で口を押さえた。

「な、なんなの、これ……。お肉がメインなはずなのに、ピーマンが勝ってるわ……!」
「挽肉先生の味は、ちゃんとあるがぜよ。なのに、ピーマン先生の味がそれを上回っちゅう!」
「お肉さんを引き立ててるのに、それでも存在感がしっかりあるーっ。今迄何回もピーマンさんを食べたけど、こんなのは初めてだよー!」

 シズナとフュルは困惑まじりで驚愕し、子供っぽいレミアは両手でテーブルを叩く。
 ふふふっ。予想通り、度肝を抜かれたな。

「し、師匠っ! このピーマン先生はなんながっ?」
「高知はユズやピーマンが有名なのは知っていたけど、ここまでとは思わなかったわ。従兄くん、これって特別な品種なの?」
「いんや。そこらの農家さんも作ってる、有り触れた種類だよ」

 こういう言い方は野菜に失礼なのだが、高級ではない平凡な品種。スーパー(高知県内)で1袋110円前後で売ってるヤツと、おんなじだ。

「にゅむ? だったらどーして――そっかっ! 作り方がお上手なんだーっ」

 にゅむっていたレミアは、掌をポンと叩いた。
 やっぱ、そうだったな。料理に造詣が深い魔王様が、真っ先に正解した。

「優れた技術さんとたっぷりの愛情(あいじょー)によって育てられたお野菜さんは、美味しくなるんだよー。ゆーせー君のおじちゃんさんおばちゃんさん、お見事ですー!」

 レミア――シズナフュルも、高志さんと芽花さんに向けてパチパチ手を叩く。けども、残念です。

「レミア、ハズレだよ。このピーマンは、育月が作ったものなんだ」

 擬態少女、色紙☆育月ちゃん。彼女の作品なのです。

「にゅむっ!? 育月ちゃんが作ったのー!?
「そっ。ピーマンに関しては、土づくりから収穫までこの人がやってるんだよ」

 6日前に放送されてた、高知の生産者などを紹介する番組。あれでこの家が映っていたのは、伯父さんではなく育月の取材に来ていたのだ。
 ※あの時はシズナが暴走してTVの電源を切ったため、後日ネットで配信されているものをコッソリ視聴しました。自分の家で見たい番組を堂々と見れないって、どうなっているのでしょうか?

「育月は幼稚園児の頃、ピーマンに感銘を受けてね。そこから爺ちゃんにノウハウを学び、自分の考えと組み合わせて進化させ、新進気鋭のピーマン生産者になったんだよ」
「生産者、ぜよ。というコトは師匠、育月先生は学生じゃなくて農業者なが?」
「その通り。一秒でも長く栽培に携わりたいからと、中学卒業と同時に農業一本にしたんだよ」
「わたしはみなさんに、自慢のピーマンを、食べてもらいたいん……です。だから、学校じゃなくて、こちらを選び……ました」

 今俺らに見せている色紙育月は、ニセモノ。でも、この言葉はホンモノだ。

「にゅむむっ、育月ちゃん素敵だよーっ。尊敬(そんけー)しちゃいますー!」
「育月先生が作ったピーマンがこうなるのは、えーと、自明の理ぜよっ。感服したき!」
「っ……ありがとう、ござい……ます。しあ……わせ」

 育月は胸の前で可愛く両手を握り締め、控えめに口元を緩める。
 コイツは『わたしは褒められて当然な人間。当然だから照れも喜びもしないわよ』ってな女王様タイプなんだけど、ピーマンに関しては別だからなぁ。心の中では、ガッツポーズをしていることでしょう。

「敵ながら、天晴ね。この部分は、貴方を認めるわ……!」

 そっかそっか。わかりました。

「……ねえ、従兄くん? 急に冷たくなった気がするんだけど……?」
「気のせいだよ。うん、旨いな」

 育月のピーマン、最高。いつも素晴らしい。

「レミアフュル、チンジャオロースも食べてみ。こっちも超絶品だよ――って、アナタ達どうしたの?」

 二人は、ヒソヒソ話をしてる。
 にゅむむん、にゅむん。どしたにゅむ?
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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