第19話:「最終章」米国の貿易戦争と子供ができたの?

文字数 2,300文字

 その後、2018年2月に入りSP500指数で2月5日にマイナス2.4%、2月6日にでマイナス5.9%と大きな下げに見舞われた。その後も七郎の予想通り2月9日にマイナス3.4%とバブル崩壊を思わせる動きとなった。その後、トランプ大統領の他国から米国への不当に安い鉄鋼とアルミニウムに対するダンピング課税を鉄25%、アルミニウム10%を加えるという発表があった。これに対して中国、欧州から対抗措置が予想され貿易戦争の様相を呈した。

 株の世界でもバブル崩壊が心配された。こんな時、なんと七郎「64歳」と恵子「41歳」の間に赤ちゃん誕生というウルトラCがおきた。2018年の正月過ぎのある朝、朝食後、恵子が気持ち悪いと食べたものをもどした。何か悪いものでも食べたんじゃないと七郎が茶化すと怒った顔をした。もしかしたらと言い婦人科を受診したところ妊娠しが判明した。出産予定日は2018年9月と言われた。

 家から近いKU病院の婦人科にかかり、ここでの出産を決意した。恵子に仕事を辞めさせ七郎がノートパソコンを持ち歩き「入間の里」でも、必要な時に貿易の書類書きや、いろんな仕事をしてスイスの銀行とのやりとりも全てやる事になり忙しくなった。それでも毎週、お母さんの老人ホームには顔を出した。翌週、七郎が、お母さんに恵子が妊娠したと報告した所、もう電話で直接、聞いてるわよと言い、手紙を手渡しくれた。

 帰って開いてみると七郎さんへ、恵子が妊娠したという知らせを聞いて一番驚いたのは私かも知れない。だって、あんな、おてんばで勝ち気な娘が、お母さんになるなんて信じられない。でも、うれしい、本当うれしい! 天国のお父さんも、さぞ喜んでいることでしょうと書いたペンの字が滲んでいた。たぶん感極まって涙を落としたのだろう。なんて可愛い、お母さんなんだろうと、七郎も、ほろっとした。

 次に気を取り直して書いたのだろうか七郎さんへのお願、恵子が元気な赤ちゃんを産むために仕事をさせない。炊事、洗濯など重労働をさせない事を約束しなさい。もちろん浮気なんてもってのほか。それから恵子に常にやさしく接して下さい、妊娠中の女性は神経過敏だから・・・。最後に絶対に食べ過ぎに注意しなさい。七郎さんじゃなくて恵子です。食欲が出て、ついつい食べ過ぎちゃうのですが増えすぎると出産が辛くなります。

 その為にも食べ過ぎないことが大切。これは私が体験済みですので強く希望しますと書いてあった。なんて可愛い、お母さんだろうと七郎はうれしく思った。春風が吹き、端午の節句が過ぎ梅雨も過ぎ。暑くなり秋風が吹き出した頃、恵子の腹は、ぱんぱんになってきた。そして9月20日、待望の赤ちゃん誕生となった。まさか65歳で子供を授かるとは夢にも思わなかった。七郎は生まれてきた女の子をみて複雑な感情が頭の中を駆け巡った。

1つ目、この子を見て孫を見てる様な奇妙な感じ。現実なのか夢を見ているのかわからない不思議な感覚に襲われた。2つ目、この子のために何をすべきか、良い教育を受けさせたい。勉強を教えて上げて自立できる様にしたい。3つ目、投資の方法を伝授して食いっぱぐれない様にしてあげたい。4つ目は、いっぱいお金を残して上げたい。どんどん湧き上がってくる妄想に悩まされた。

 そんな空想を打ち消すように恵子が帰りが遅いわね。私こんなに大変な思いをして頑張ってるのに、まったくもうと怒りだした。40歳越えの出産って大変なんだから、この貸しは、後で、きっちかえしてもらうからねと息巻いていた。こんな大変事をさせて、この野郎と軽く七郎の頭をたたいた。七郎が、ご苦労さん大変だったねとやさしく彼女の頭をなでると堰を切った様に目に涙があふれた。彼女として今まで経験したことのない痛さ、つらさだったのだろう。

 そして頑張って分だけ汗のように涙でストレスを発散したのだろうと思うと急に愛おしくなった。この出来事を考えると今まで生きてきたことが走馬燈のように頭の中を駆け巡った。生まれて何もわからないうちから多くの大人に、いろいろ覚えさせられた。物心ついた6歳の時、家族全員で米国旅行に行くのを楽しみにしていたのにインフルエンザの高熱でうなっていた。1人だけ日本に残された事。

 かえりのお土産を楽しみに待っていたのに家族全員が飛行機事故という不幸な出来事で1人ぼっちになり悲しかった事。横浜の外人学校に入り友達になったティムのお父さんのリチャードとの運名的な出会い彼は実の子以上に可愛がってくれ厳しく人生を生き抜くすべを教えてくれた。リチャードとロスチャイルド家の援助で不自由ない生活ができた。更に木下家の巨額の遺産の事。それを元手に巨万の富を築いた事。

 本当に悲しかった事として、最初の妻・サリーや恩人リチャードの死。その後、巨額の富を前に何をすべきか考えあぐねた日々。最後に巨万の富を与えてくれた多くの幸運に感謝して、その幸運に恵まれなかった人々にチャンスを与える事が自分の巨万の富を有効活用することだと悟り「入間の里」学生寮を私費を投じて設立した事。このご褒美なのか本当に身近にいた新しい妻との結婚。しかし、彼女の父との悲しい別れという不幸。

 最後にサヨナラ満塁ホームランのような65歳にして女の子の誕生という幸運。こう考えてみると人生、悪い事の後には良いことがある、「禍福は糾える縄の如し」幸運を独り占めしないで幸運に恵まれない人に与えれば、又、幸運がやってくる。「禍福己による」こういう事を七郎は身をもって知った。これで全編終了です。読んでいただき誠にありがとうございます。
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