骨三郎とアズリエル
文字数 1,143文字
「世話になったなあ、アズリエル」
骨三郎の口調はいつになくしんみりとしていた。
「修行のために白の大地に来て4年。お前には本当に世話になったぜ」
「ほええ、そうだったかな?」
とぼけた様子でアズリエルが骨三郎を見た。剥きだしの眼窩から落ちそうになる涙を見せまいと、骨三郎はさっと横を向いた。
「死霊族のプリンスの俺様も、ここに来た時は無力だった。そんな俺に、お前は毒のかけ方を教えてくれた」
「ああ、毒ねぇ。わたしにとっては栄養なんだけどね」
「俺達のコンビは『人権』なんて呼ばれて、怖れられたもんだよな」
「そんな頃もあったねぇ。今ではあんまり出番がなくて、のんびりした毎日だけどね」
「お前はオセロニアの顔だから、きっとまた忙しくなるぜ」
「ほええ、わたしはのんびりでいいんだけどなあ」
瞳を閉じて、アズリエルは小さく伸びをした。真珠のような涙の粒が、長いまつ毛の先でキラリと光った。
「黒の大地に帰っても、お前のことは忘れないぜ」
「そうだね、わたしも忘れないよお、骨三郎のこと」
「骨三郎じゃねえ! スカルデロン=デ=モンテ=ショコスタビッチ三世だっつーの!」
二人は声を上げて笑った。当たり前だと思っていた日常が、こんなに愛おしいなんて。骨三郎は幸せだった日々を噛みしめた。
「お別れの記念にこれをやるよ」
骨三郎が差し出したのは、幅の太い白黒縞のニーハイのソックスだった。
「お前のソックスの破れがずっと気になってたんだ」
左のソックスの太ももの上にポカリと開いている穴を、アズリエルは慌てて両手で押さえた。
「ひええ、乙女の太ももをチラ見していたとは。骨三郎も隅に置けないなあ」
「そんなつもりじゃねーよ!」
骨三郎の白い頬骨が真っ赤になった。
「それじゃあ、わたしは骨三郎にこれをあげる」
背中に担いだ大鎌をガチャリと外すと、アズリエルは骨三郎に渡した。
「いいのかよ! こんな大切なもの」
「いいんだよぉ、骨三郎は鎌より大切なパートナーだったからね」
「一生大事にするぜ、ありがとうな」
骨三郎の頬骨を一条の涙がつたって落ちた。アズリエルのまつ毛からも、キラキラと光の粒がこぼれて落ちた。
「じゃあな!」
「じゃあねぇ!」
骨三郎の目の前に黒い煙が立ち込めて、アズリエルの姿も周りの景色も見えなくなった。そのまま地中深くへと高速で落ちていき、気がつくと骨三郎は懐かしい黒の大地へと帰っていた。
白の大地では頭蓋骨しかなかった骨三郎だが、こちらでは体幹も手足も存在している。アズリエルからもらった大鎌を右手でぎゅっと握ると、骨三郎は誰に聞かせるでもなく呟いた。
「ほほほ、楽には死なせんぞ……」
そして骨三郎はリッチになり、死霊族の長となった。
骨三郎の口調はいつになくしんみりとしていた。
「修行のために白の大地に来て4年。お前には本当に世話になったぜ」
「ほええ、そうだったかな?」
とぼけた様子でアズリエルが骨三郎を見た。剥きだしの眼窩から落ちそうになる涙を見せまいと、骨三郎はさっと横を向いた。
「死霊族のプリンスの俺様も、ここに来た時は無力だった。そんな俺に、お前は毒のかけ方を教えてくれた」
「ああ、毒ねぇ。わたしにとっては栄養なんだけどね」
「俺達のコンビは『人権』なんて呼ばれて、怖れられたもんだよな」
「そんな頃もあったねぇ。今ではあんまり出番がなくて、のんびりした毎日だけどね」
「お前はオセロニアの顔だから、きっとまた忙しくなるぜ」
「ほええ、わたしはのんびりでいいんだけどなあ」
瞳を閉じて、アズリエルは小さく伸びをした。真珠のような涙の粒が、長いまつ毛の先でキラリと光った。
「黒の大地に帰っても、お前のことは忘れないぜ」
「そうだね、わたしも忘れないよお、骨三郎のこと」
「骨三郎じゃねえ! スカルデロン=デ=モンテ=ショコスタビッチ三世だっつーの!」
二人は声を上げて笑った。当たり前だと思っていた日常が、こんなに愛おしいなんて。骨三郎は幸せだった日々を噛みしめた。
「お別れの記念にこれをやるよ」
骨三郎が差し出したのは、幅の太い白黒縞のニーハイのソックスだった。
「お前のソックスの破れがずっと気になってたんだ」
左のソックスの太ももの上にポカリと開いている穴を、アズリエルは慌てて両手で押さえた。
「ひええ、乙女の太ももをチラ見していたとは。骨三郎も隅に置けないなあ」
「そんなつもりじゃねーよ!」
骨三郎の白い頬骨が真っ赤になった。
「それじゃあ、わたしは骨三郎にこれをあげる」
背中に担いだ大鎌をガチャリと外すと、アズリエルは骨三郎に渡した。
「いいのかよ! こんな大切なもの」
「いいんだよぉ、骨三郎は鎌より大切なパートナーだったからね」
「一生大事にするぜ、ありがとうな」
骨三郎の頬骨を一条の涙がつたって落ちた。アズリエルのまつ毛からも、キラキラと光の粒がこぼれて落ちた。
「じゃあな!」
「じゃあねぇ!」
骨三郎の目の前に黒い煙が立ち込めて、アズリエルの姿も周りの景色も見えなくなった。そのまま地中深くへと高速で落ちていき、気がつくと骨三郎は懐かしい黒の大地へと帰っていた。
白の大地では頭蓋骨しかなかった骨三郎だが、こちらでは体幹も手足も存在している。アズリエルからもらった大鎌を右手でぎゅっと握ると、骨三郎は誰に聞かせるでもなく呟いた。
「ほほほ、楽には死なせんぞ……」
そして骨三郎はリッチになり、死霊族の長となった。