第1話

文字数 637文字

「別に、あいつのために伸ばしてるわけじゃないんだからね!」

高校からの帰り道。
早紀は耳をほんのり赤らめ、背中中央まで伸びた黒いロングヘアを手持ち無沙汰に指にクルクルと巻きつけながら、聡に突如そう言い放った。

やれやれ、またか――。
聡は溜め息の代わりに、フーッと長い鼻息を出す。

早紀と聡は家が近所で親同士も仲が良く、小中高と一緒に進学してきた、言わば幼馴染である。故に早紀の性格には昔からある程度の理解があった。

「あのさ、祐輔のこと好きなんだろ?お前」

回り道せず、単刀直入に聡が問いかけると、早紀は途端に慌てて肩に掛けていた通学カバンをギュッと握り締めた。

「は?は?何?意味わかんないんだけど」
「いや、意味はわかるだろ。祐輔が前に教室でロングヘアが好きって言ってたの聞いたから伸ばしてるんだろ」
「は?さっきの聞いてた?別にあいつのためじゃないし!流行ってるし」

明らかに、しどろもどろになりながらも頑なに認めない早紀に、聡は「へぇ~」と気の無い返事をする。

「まぁ何でもいいけど、祐輔って意外とモテるから、今みたいにツンケンしてたら厳しいかもよ、お前」
「え……」

ポロッと漏れ出た聡の本音に、早紀の足がピタリと止まる。

「あ、いや……別に、無理って言ってるわけじゃなくて……」
「き……て……」

下唇を突き出しながら、何かボソリと早紀が呟く。
「え?」

聞き取れずに聡が耳を寄せて問い返すと、早紀はキッと顔を上げて怒鳴るように乱暴に言い放った。

「もっと聞いてきて!!田中くんのタイプの女の子!!」


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