第二話 memory (1)

文字数 1,107文字

「きっとどこかで、また逢いたい」

 私の最後の言葉は、颯くんに届いたかな。

 拝啓 滝川 一颯様

 真っ青な空に入道雲が湧き上がる盛夏の季節になりましたが、いかがお過ごしですか。
 私達が初めて逢った季節になりましたね。
 時が経つのは早いもので、私が東京へ来てもう三ヶ月です。
 私の最後の言葉は、颯くんに届きましたか。
 こちらにきて毎日思うのは、颯くんと過ごした九ヶ月間のことばかりです。
 初めて逢った日のことは、いまでも鮮明に思い起こされます。
 杏子に連れられて出掛けた水族館で、颯くんがいた時は本当に驚きました。
 あの時の私の衝撃はどう言葉で表現しても、伝えきれないと思います。
 それくらい、私はびっくりしたんですよ。
 でも、颯くんは私のことは知らなかったんですよね。
 実は颯くんには隠していたことがあります。
 私、本当はずっと前から、颯くんのことを見てたんですよ。
 いつもあなたの走る姿を目で追っていました。
 運動ができないわたしは、毎日グラウンドを颯爽と駆ける颯くんに憧れていたんです。
 常に集団の先頭を走る颯くんの姿は、本当に風のようでした。
 部活の仲間と楽しそうに走る颯くんに、私はずっと見蕩れていました。
 颯くんが走る放課後の時間。
 それが私の学校生活の中で一番楽しみにしていた時間でした。
 ですから、あなたと引き合わせてくれた杏子には、とても感謝しています。
 いまだから聞いてみたいんですけど、二度目のデートで告白した私を、颯くんはどう思いましたか。
 軽い女だと思ったりしなかったでしょうか。
 私、告白もお付き合いも、颯くんが初めてですよ。
 信じてください!
 あの時は、本当にドキドキしました。
 あの時というより、デートが決まってからずっとドキドキでした。
 日が近づくにつれ、心臓の鼓動はドクンドクンと強くなって、その音があまりにうるさいから、眠れない日がずっと続いたんですよ。
 だから、デート当日も睡眠不足で、告白したときはかなりハイになっていました。
 でもだからこそ、告白の勢いがつけられたのかもしれないですけど。(笑)
 あの時は無我夢中だったから、颯くんの表情をよく覚えていません。
 あなたはどんな顔してたんですか。
 驚きの顔?引いちゃった表情?それとも全く別のものですか?
 いい結果でしたから良かったですけど、これで悪い結果だったら、私はどれだけ落ち込んだことかわかりません。
 颯くん、私とお付き合いしてくれて、本当にありがとう。
 あなたの恋人になれて、私は本当に幸せでした。
 最後の私の言葉はきちんと届きましたか。
 今日のところはここまでにしておきます。
 またお便りしますね。

 かしこ
 新城 夏帆




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