第187話 1/28

文字数 1,338文字

 お昼前。
 今日はメンクリの日。

 最近ハイボールに慣れ過ぎたせいか、飲む量が増えている。
 妻に「焼酎のように飲みだした」と言われた。
 たぶん、6杯以上は飲んでいる。
 二日酔いもあまりない。
 耐性がついちゃったのかも?

 昨日書いた作業所の思い出だが、流れでいい事があった。

 それはヤマジュンの本を僕が作業所に持ってきたことで、ある利用者と仲良くなったことだ。
 イケボで通っている子なので、ボーくんという名前にしよう。

 開所したばかりということもあって、当時仕事がなにもなく、みんなボーッとしていた。
 というか、精神疾患を抱えている人は経験があるかもしれないが、みんな精神科の薬を飲んでいるから作業所に来ても、
 副作用で寝ちゃう。
 これは飲んだことないと、ちょっとわからないと思う。
 僕も未だに二度寝しないと、しっかり一日活動を取れない。
 正直、無理していたと思う。
 
 んで、開所してしばらくちゃんと毎日来れるメンバーは限られてくる。
 みんな遠いところから来たり、疲れたり、単にキツいのだと思う。

 そんな中、僕とボーくんはほぼ毎日来ていた。
 最初は互いをさんづけして、年が20ぐらい違うので、敬語で話し合っていた。
 だが、親交を深めるために、僕は「タメ口にしない?」と提案し、彼もそれをのんでくれた。

 しかし、僕が中年なので、どうしても距離感が生まれる。
 その間をブチ破ったのが、僕が持ってきたヤマジュンだった。
 作業所でなにもやることがないので、彼は僕の持ってきたヤマジュンを何回も何回も読みふける。
 フーさん以上に。
 穴が開くくらい。
 たぶん、毎日4時間ぐらい読んでいたと思う。

 僕が隣りに座ると、彼がイケボで言う。
「ウホッ、いい男!」
 それも大きな声で、堂々と。
 僕はそれを聞いてゲラゲラ笑う。
 すると彼も調子に乗って
「いいのか? 俺はノンケまで食っちまう男だぜ?」
 と叫ぶ。

 笑っているのは僕と彼だけで、他の利用者さんたちは静まり返る。

 悪ノリが始まって、僕も乗っかる。
「やらないか?」と言うが、彼が否定する。
「違うよ。もっと腹から声を出して……やらないか!?」(イケボ)
「こう? やらないか?」
「いや、もっとだよ。やらないか!?」
 それをかれこれ20分以上二人で繰り返していた。

 フーさんは近くで他の利用者さんを指導していたが、気になるようで、僕たちのやり取りをチラ見していた。

 もっと悪ノリが過ぎて、僕とボーくんの二人は、作業所の目立つところにヤマジュンを置こうと言いだした。
 んで、運営の幹部に見せつけてやろうと。

 だが、ある朝、作業所に来たら閉まってあった。
 それを見て、僕が言う。
「あ、なんで閉まってんだよ! ボー!」
 すると彼が答えた。
「俺じゃないよ」

 フーさんが申し訳なさそうに言った。
「味噌村さん、ごめんなさい。お客様が来るから目立たないようにしました……」
「あぁ……そうでしたか」
 そして、また僕とボーくんは入口付近で、音読したり叫んで遊ぶ。

 だが、作業所には未成年の方も見学に来ることがあるので。
 愛読していたボーくんも、その時だけは、本をバタンと閉めていた。
 所長が苦笑していた。
 
 今はどうかわかりませんが、当時はそんな作業所でした。

 ではまた!


 
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