tenderness time

文字数 1,364文字

リッキーはひょうきんな子だ。
そして二言目には「日記を」って言う。
彼は鳥にエサをあげるのが大好きで、
チューインガムを膨らませたら誰も叶いっこないんだ。

僕は僕で「日記を」なんて思うんだけど少し気が乗らない。
理由は簡単だ。
去年のクリスマスパーティーにもらったスケートボードのタイヤが
外れていて何だかブルーだったからね。

パパはゴルフクラブを磨きながらウエスタン・ムービーのテーマなんて
ナンセンスな口笛を吹き続けてるし、
ママはミネストローネの火加減が気に入らない!
まったく飽きれちゃった僕はジェリービーンズをポケットに
詰め込んでリッキーにウインクすることにしたのさ。

そしたらラジオが騒ぎ出した。
またハリケーンが近づいてるんだってさ。
でも関係なかった。僕の瞳にはクラスメートだった
レイチェルの唇が淋しそうに映っていたから。
例えるなら……
バスケット・シューズの紐がほどけていたりだとか、
キッチンにコンビーフが無かったりだとか、
それくらい取るに足らないウィークエンドをやり過ごしただけ。

レイチェルったらてんで話にならないんだ。
小指を繋いでみてもプールサイドでテディ・ベアを抱いたまま
「アイム・ソーリー」なんて呟いてるだけ。
そんなにチェリーコークがお気に入りなら今すぐ雨雲を捕まえて
グラスゴーまで走って行けばいいのに!

こんな気分にさせられたってスノー・マンは知らん顔。慰めてもくれない。
僕の部屋にあるトイ・ボックスが空っぽになるのは、
きっと遠い未来じゃないってわからせてくれたのさ。

パパもパパだよ!
立ち尽くす僕を見てタートル・ネックのセーターを
めちゃくちゃに引き裂いちゃったんだからね。
きっとあの場面を目の当たりにしたら、
ママは「ジーザス!カムバック!」なんて言って
ベットから出られなくなっちゃうんじゃないかな。

でも僕はわかってた。何もかもね。
ママがプロポーズされた時から付けていたマゼンダカラーのペンダントが
人知れず揺れながら輝いていたから……

そうだな、一言で言えばこの辺で僕も
カウボーイ・ハットを掴んで出掛けなきゃならない。
運命は待っちゃくれやしない。200マイル先のラズベリーを
摘み取るには腹ペコの野ウサギになりきらなきゃ!
そんな気持ちで駆け出したんだ。

笑っちゃうよね。こんなトウモロコシ畑の片隅で
時代遅れのラット・レースを続けてたなんて。
てんで調子っぱずれのオールド・マネキンだったってわけ。
まったくもってトゥー・マッチだもの。

アイスホッケーのコートを眺めながらナゲットを頬張って、
それで何が変わるっていうんだろう?
叫び声と一緒にマスタードの奪い合いが始まるだけなのは明らかさ。
誰も君のドアの前でワルツを踊ってなんてくれやしない。
クローゼットを片付けられないのはブルドックの仕業だってこと、
今ならもうわかってるよね?

つまるところ結局はあの日忘れ去られたポップコーンを取り戻したいってだけ。
ネイティブなカナディアン達には想像もつかないようなカラフルなヤツを!

「アブラハム! 今こそ祝福を! 南東のポセイドンにシャム猫なんてクレイジーだよ!」

2017.10.23 イザベル半島のガレージより、願いを込めて
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