ミサさんのコンビニ弁当

文字数 1,246文字

 ああ・・・おなかすいたな。

 わたしの働いてる会社、どんどん人が辞めてく。

 原因はセクハラとパワハラ。
 わかってるけど、誰も言えない。

 だって、

「稼いでこい!」

 って怒鳴りつけられて、その怒鳴りつける本人がコンプラの確認書を取りまとめるんだから。

『セクハラやパワハラの現場を職場内で見たことがある: はい・いいえ・どちらとも言えない』

 間違っても、「はい」、なんて書いたら別室に呼び出されてドアを閉められて。

「どうした? 誰のことかは絶対秘密にするから俺に話してくれ」

 アンタのことよ。

 なんて、口が裂けても言えないし。
 それに、今時だから防犯用のカメラが別室には設置されてるんで、言葉と動作は丁寧に喋ってるけど、目がわたしを恫喝してる。

 ああ・・・

 本人たちも役員たちも気がついてないんだとしたら経営陣として無能だと思うし、わかってて取り繕ってるんだとしたら人間として終わってると思う。

 わたしがもう少し若ければなあ・・・
 若い子たちに相談されてさ、

「うん。辞めるなら早いうちだよ」

 って言ったことは社員としては間違ってたかもしれないけど人間としては正しかったと思う。

 経営陣はコンプラを取り繕いたがるから、

「早く帰れよ」

 って、言う。

 でも、世の中の真実をわかってない。

 世でもてはやされてる行列のできるパン屋さんがあるよね。
 そのパン屋さんて、日が昇らない内から仕込みをして、焼きたてを作るために効率悪く細切れで窯で焼いて。

 もちろんわたしたちは効率を目指すよ。だって、仕事さえないんだったらさっさと帰りたいもん。こんな場所にいたくないもん。

 お昼の時間に会社の電話が鳴るよね。

「はい、逼迫社でございます。申し訳ございません

は席を外しておりますのでわたくしが代わりに承ります」

 その

ってアンタたちでしょ。

 入社以来アンタたちがもっと若い頃からずーっと見てるけど、一度も自分から最初に受話器を取ったことがないよね?

 そういうことよ。

 アパートに帰るとね、ほんとに疲れ果ててるのよ。

 頑張ってお弁当作ろうとかいう気力も起きない。

 本意じゃないけどコンビニで買ってたわ。いかにも「お弁当」みたいなのだとちょっと恥ずかしいからキーマカレーとかそれっぽいやつを。

 でもそれすらもう無理 。

「お客様のことを考えるんだ!」

 ええ。正論よ。だって、わたしたちのお給料はお客様からいただいてるんだから。
 だからお昼の時間にアナタたちが外へ食べに行ったり、奥さんのための用を足したり、役員室で昼寝したりしてる間にわたしたちは電話や来社してくださるお客様に応対するのよ。

 かつてアナタたちがそれをやってたんならいいわ。
 でも、やってない。
 今更遅いわ。見てたんだから。

 おカネじゃない。
 でも、おカネよ。

 今更アナタたちとわたしたちの給与体系の差を埋めようとしたって無駄だわ。

 だって、もう何年、ううん、何十年経ってると思ってんのよ。

 カネ、返してよ。
 それと、わたしのお昼ご飯、返してよ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み