間奏Ⅰ 灯の世界

文字数 774文字

 まず家じゅうの窓という窓を開けてまわりました。それから、ぜんぶの部屋を(ほうき)で掃きました。玄関から始めて、居間、食堂、客間、そしてテラス。もちろん階段も綺麗にしながら二階にあがって、先生の寝室、わたしたちの部屋、裁縫室。ついでに、物置部屋も。最後に廊下を掃いて、掃除はこれでいったんおしまい。次に、息つく間もなくお洗濯に取りかかります。うちは三人暮らしだから、たいした量じゃありません。洗い(おけ)を浴室に用意して、大きな声で歌をうたいながら一気に片付けました。そして小さな声で鼻唄をうたいながら、ベランダにそれをみんな干しました。この時点でまだ十時前でした。今日は朝食が早かったからもうお腹が減ってしまったけれど、砂糖とミルクを入れたコーヒーだけで我慢して、午前のうちに学校の宿題を終わらせてしまうことにしました。食堂のテーブルに一人座り、もくもくと数式を解いたり文法の誤りを修正したりしているあいだじゅう、家の外から小鳥たちの鳴き声がわんさか流れ込んできていたから、少しも寂しくはありませんでした。仕上げた宿題を部屋に持ってあがると、そこではっと思いだして、庭に出ました。花壇に植わった野菜や花にたっぷりと水をあげました。小さな虹が、いくつも生まれました。いつ見ても、何度見ても、虹ほど奇跡的なものってありません。
 庭のまんなかにぽつんと立って、わたしは家を、虹を、花々を、鳥たちを、樹々を、青空を、洗濯物を、代わるがわるじっと見つめました。そしてふいに、これほどすべてが太陽の存在を前提にして成り立っているというのは、ほんとうにすごいことだと思い当たりました。いったい、太陽って、どういうつもりで、あそこに浮かんでるんでしょう。あんなに立派な(あかり)を持つわたしたちは、実はとても幸運なのかもしれません。
 そういえば、月だって太陽が照らしているんですよね。
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