詩小説『ハタチと入れ墨師』3分の闇と光。全ての女子へ。

エピソード文字数 1,171文字

ハタチと入れ墨師

天は人の上に人を作らずなんてあれ嘘だ。
天は人の上に人を作りまくり。人の下に人を作りまくり。
それなのに天は性格悪くやっかいだ。
天は一握りに二物を与えるから。

私の胸がもう少し大きければ。
胸は夢で膨らみ、自信が詰まってる。
私も胸を張れたのに。

もう少し鼻が高ければ。
蜜の匂い嗅ぎ別けて、花畑へと。
そんなこと考えながらメイクで影を作る。

もう少し目が大きければ。
そらさずに見つめられる、彼も、鏡も、現実も。
そんなこと考えながらつけまつげつける。

もう少し口が厚ければ。
悩ましげに甘い台詞のひとつやふたつ吐けるだろう。
そんなこと考えながらルージュ塗り重ねる。

いったいいくつの時に間違えたというのだろうか?
きっとさかのぼること、泣きながら産み堕とされたあの日。

殺風景な部屋。むき出しの器具。
台の上へ乗せる腕。出逢ったことのない痛みに顔歪める。
とぐろを巻く蛇の周りを飛び回る蝶の墨を掘るの。
入れ墨師のお兄さんは、煙草と香水の混ざった匂い。
「私、ハタチなんです。この年で墨なんて。でも、忘れたくないことがあって。身体に刻んでおかないとって」
「別に珍しい話じゃないさ。この店にだっていろんな事情を抱えた客が来る」
「これから、強く生きたくて」
「蛇の様にか?」
「いえ、蝶の様に」
「蝶?」
「蛇はこの世の中みたいでしょ?」
「ってことは、蝶がお前か?」
「はい。そんな蛇みたいな世の中でも、蝶みたいに綺麗な羽で飛び回るつもりなんです。楽しそうでしょ?」
「あぁ、良い考えだ」
「私、彼氏と。いや、アイツは私のこと彼女とは思ってなかったんですけどね。ホストなんです。アイツのために高い酒開け続けて。金を作るためにふー(風俗)で働いて」
「悔やんでんのか?」
「いや、悔いはないです。一生分の恋した自信があるんで」
「そうか、そりゃ良いな」
「よし、仕上がった。しばらくは痛んだり、痒くなったりするかもしれねぇが、かいたりするな」
「はい、ありがとうございます」
生まれ変わった腕を見つめる。
「うん、良いかも」
「気に入ったか?」
「はい」
「それ聞いて安心した。だってよ、もう少し金貯めりゃあ、整形だって出来たはずなのに、墨で良いのか?」
「はい。私、ママに似てるってよく言われてたんですよね。この顔で生きていたいなって、思えてきたので」
「そうか」
「ありがとうございます、それじゃあ」
「とぐろまいて舌出した蛇に喰われんじゃねぇぞ」
「はい、今日から自由なんで私」
「そうか」
「田舎に帰ったら林檎送ります」
「楽しみにしとく。墨は一生付き合っていくもんだ。仲良くしろよ」
「はい」
いつぶりだろうか空を見上げた。
晴れてもなければ、星もでてない、曇った空を。
さよなら私と呟いて。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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