第2話 ピーターパン(2)

文字数 2,859文字

 四月も終盤に差し掛かりゴールデンウィークが間近に迫ってきた。優人と智晴、夏帆そして倉木の役員四人で部活終わりに下校していた。
「ねえ、ゴールデンウィークさこの四人でどっか遊びに行かない?倉木さんともっと仲良くなりたいし」
そう提案したのは夏帆だった。そのとき倉木は一瞬、優人の方を見たが彼はまるっきり気づいていなかった。「いいじゃん」と智晴が言った後残りの二人もうなずいた。夏帆の提案で五月四日にみんなでカラオケに行くことになった。優人は倉木を知るいい機会だと思った。人を殺し、またそれを隠し通すにはある程度その人のことを知っとかないといけないと考えていたからだ。また優人はこの殺人計画を長期的なものにしたくなかったためこの日だけで彼女の情報をできるだけ引き出そうと考えていた。無論、長期的な計画にすると自分にナンバーツーというレッテルが貼られそこから一番になっても周りの評価が変わらない可能性があったからだ。
 そして迎えた五月四日、優人は智晴と共に集合場所の駅の時計台へ向かった。時計台につくとすでに二人が待っており、お互いの服の色のまとめ方について褒めあっていたが、優人にはさっぱり何を言っているのかわからなかった。全員が揃ったのでカラオケ店へゆっくりと歩き始めた。
「倉木さん、その服かわいいね。どこで買ったの?」
優人は彼女の情報を知るべく声をかけてみた。まずは褒めて後々いろいろなことを聞きやすくするのだ。
「これ、お母さんが買ってきてくれたからわからないの」
「へー、お母さんおしゃれだね」
「なに?優人、倉木さんに気があんの」
水を差してきたのは夏帆だった。
「いや純粋にかわいいなと思って」
 優人はここで倉木に下心があると思われ警戒されては困るので一様否定しておいた。
 そうこうしているうちに一行は予定していたカラオケ店までついた。予約していた夏帆の名前を店員に伝えるとその店員は部屋番号が印字されているプラスチックのボードを夏帆に渡した。部屋へ着くと最初に夏帆がドアを開けた。その部屋はなかなか大きく中央にはミラーボールがあり何かの打ち上げなどで使われるのが大半なのだろう。その部屋はドアから見て右側に細長く奥と手前の壁に沿ってソファが設置されていた。夏帆が入ると次に倉木が入った。位置的には次に入るのは智晴であるのが普通だったが、優人が無理くり智晴の前に肩を入れ倉木の次に座れるようにした。そのことについて智晴は特に言及することはなかった。
しかし優人の思惑は丸損になった。優人が倉木の隣に座ろうとドアから見て奥のソファに腰掛けようとしたところ、夏帆に止められ手前側のソファに座るよう促されたのだ。結局ドアから入って奥側に夏帆、倉木の順で手前側に智晴、優人の順で座ることになってしまった。幸い優人の前が倉木で部屋の幅は狭かったので会話することは容易であった。
「じゃあ、私から歌っていい?そっから倉木さん、優人、とも君の順で」
 全員が座りタッチパネルで飲み物を注文し終わったところで夏帆が切り出した。ほかの三人が目くばせしながらうなずくと数秒後には『リンダリンダ』という文字がテレビ画面に大きく映し出されていた。サビをみんなで歌ったり手拍子をしたりして夏帆が楽しい雰囲気を作ってくれた。優人も手拍子をしたり歌っているうちにとり作っていた感情がなくなり本当にだんだん楽しい気持ちになっていった。
 その次の曲も『夏祭り』と少し時期は早いがある程度時期にもあった良い曲でみんなで太鼓を打つ真似をして楽しんだ。曲が終わると「今年みんなで行きたいね」という誰かの声が聞こえてきた。もしかすると優人自身だったのかもしれない。
 優人は自分が歌う番になり困った。優人はほとんど家では曲を聞かず街中や学校で聞く曲も曲名までは知らないのだ。自分の歌える曲がないかと資料しているとあるフレーズを思い出した。そして優人が送信ボタンを押しテレビに表示されたのは『ベテルギウス』。優人はメロディーが分からないところも幾つかあり歌ったが今までの二曲とは周りの雰囲気が違っていた。
「選曲ミスったな」
演奏が終わったと同時に智晴が悪戯をした子供の様に白い歯を見せながら言った。夏帆も「ね」と相槌を打つ。
「まあ、安心しろって。この空気、俺の歌声で吹き飛ばしてやるから」
そういって智晴が入れた曲は確かにハイテンポで夏帆と倉木も盛り上がっていたが優人はその曲を知らず最初の二曲とはまた違うテンションになってしまった。智晴の曲が二番のAメロに差し掛かり手拍子などが収まった。次こそはみんなと一緒に盛り上がろうと優人は思っていた。
「ベテルギウス、私は好きだよ」
 倉木がそっと顔を優人のそばまで近づけ周りに聞こえないような小さな声でそっと言いまたすぐに元の姿勢へと戻った。優人は倉木が自分に気を作ってくれていることに感謝しながらも倉木が精神的な面でも自分より優位に立っていることに気づかされまた優人の殺意は一段と膨らむのであった。
 このように夏帆と倉木が場を盛り上げ、優人が少し下げる。そして最後に智晴が元の盛り上がっている状態に戻すというサイクルが六回ほど続いた。   
「じゃあそろそろ私疲れてきたしバラードとか行こうかな」
智晴が歌い終わったところで夏帆がわざとらしいはきはきとした声でそう言った。
「神宮寺君って好きな歌手とかいる?私、何歌えばいいかわからなくて」
 夏帆が歌い終わるタイミングでまた倉木が体を乗り出して優人に聞いた。
「えーと、めっちゃ好きってわけじゃないけどあいにょんかな」
 優人は歌手の名前などほとんど覚えていなかったが彼女の名前が出たのはこの前の朝ドラで名前が出ていたのを思い出したからだ。
「おっけ、ありがと」
 そういうと倉木はまた自分の席へと腰を戻した。優人は倉木のくっきりとした二重の大きな瞳と大きくて弾力のありそうな胸が印象的で頭から離れなかった。
 倉木が歌ったのはあいにょんの有名なバラードだった。彼女の歌声はしなやかで色気を帯びており人を引き付けるものがった。一番のサビに差し掛かろうとしたとき優人は足に何か当たるような気がした。少し動かしても当たっている状態は変わらない。彼がそっとテーブルの下をのぞくとそれは錯覚ではなく倉木の細くて白い足が優人の脛に触れていた。これはどう考えても人為的なものだなと優人は思ったがちょっとした悪戯だろうと考えて何も気に留めなかった。彼女が歌い終わると共に彼女の足は戻っていた。その後カラオケが終わるまでの間、倉木はむやみに優人に触れようとしなかった。
 カラオケが終わり外に出るともう太陽は沈みかけていた。夕飯を皆で食べるかという話にもなったが結局食べずに帰ることとなった。電車に揺られながら優人は倉木のことを思い出していた。やはり優人の脳内には倉木の瞳と胸が残っていた。
「またあいたいなー」
優人はぼそりとつぶやいた。それが情報収集の為なのかそうでないのか優人はわかりつつあったが必死に否定していた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み