ある存在はかく語りき

文字数 1,063文字

夢の世界。

にしては、明瞭な意識があった。

まどろみの空間。

にしては、落下している自分を感じた。

道尾は巨大なホール状の何かの中で、落下し続けていた。

風の抵抗も、重力の感覚も、恐怖すらも感じなかった。

ホール的な何か、色の存在しない世界に鮮やかな華が咲いたような色の空洞。

それは、道尾を優しく導いていた。
変な夢だ……。
き…うはない…か?
……君、誰?
希望はないのか?
希望……胸のどこかにはあったんだろうけど、そんなの頭から追い出していた。
「今が大切だ」って社訓にあったし、店長もそう言ってたから。
志望はあるのか?
何の志望??
3つあったようだ。
「イベント設営の短期バイトをしていたので、体力に自信がある」
「接客自体が好きであり、その能力を磨きたい」
「人のためになるのが好きな性分である」
それらは、道尾智がスーパー「マラドーナ」の面接時に履歴書に書いたこと。
何で知ってる?
何をしたい?
趣味はテレビゲームでRPGが大好き。
同じく。
答えを知りたい。
何かをしたい。

それは道尾さん、君の方だろう?
心を見透かされた気分を感じる道尾。
これは単なる夢じゃないとも悟る智。
何が言いたい?
協力といこう。

道尾さんは、我々にその能力を。
我々は、道尾さんに自由を。




          与えられる!




道尾は下を見させられた。強力な何かによって。
そこに広がるのは。

紫色の海に、群青色の森、黒くて角ばった建物の群れ。
そこは魔界である。

道尾が通ったホールは、地上と魔界を繋ぐワームホール。
落下する寸前に起きるパターンだろう?
って、考えられるってことは、普通の夢じゃない!?
大地が近づくと、落下の速度は落ちる。
物理法則が異なるのだろうか?

とある建物が大きくなっていく。
着陸地点だろうと、道尾にも予想がついた。
夢、夢、完全に夢!!!
だって、だって…………!?
歩いているのは、異形の姿のモンスターばかり。
街を闊歩しては、地上と同じような事をしていた。

ある異形は挨拶を交わしているようで。
ある異形は屋台で商売をしているようで。
ある異形は飲み物を飲みながら歩くようで。
ある異形は本を片手に寝転びリラックスするようで。
あれ、このままだと建物に激突しない?
スピードこそ減速したものの、ジェットコースターよりやや落ちる程度の速度。
街を観察するには速いはず、着地するにも速いはず。

いつかユーチューベで見た、人が落下する動画に似た感覚。
手に汗、額にも汗、足先から駆け抜ける恐怖感。
(こ……コレッ! ヤバっ…………)
道尾は再び気を失った。
いや、失わされた方が正しいだろう。

気がつくと、そこは……。
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登場人物紹介

道尾智(みちお さとる)

主人公。埼玉県にある地域密着型スーパー「マラドーナのバイト」19歳のフリーター。
仕事がブラックな事に悩んでいる。そのためか、アイデアだけは持っているも、切り出せずにいる。
魔界の大型雑感店をスーパーだと見なし、昼(ある日は夜も)バイトをしつつ、脱出の計画を練る。
アイデアマンではあるが、あまり言い出せないシャイな性格の持ち主であった。
RPGなどゲームが大好きである。

マラドーナさいたま市中央区店の店長
道尾に無理を言う、ブラック企業の理念に染まった店長。

バラクーダ店長

魔界の大型雑貨店『ダーマル』の店長。
丸いが仕事はできる。喜怒哀楽が激しいが、根は良い魔族。
ソラール族の出身である。

ソング・ミドシラ

道尾の直属の上司にあたる人。
人間に近い「ゲンニ族」出身。
軍曹の様にしごいたつもりが、道尾が堪えなくて驚く。
自他に厳しい。

マヤモさん

夜勤の王。「ヌイ族」出身。
夜勤の事なら全て知っている人。
サボり方も知っている。

魔王トイワ・ホ・ギョウキ

ダーマル・コンツェルンのCEO。
その姿は通信魔法でのみ垣間見える。
とっても偉い。

モブ1

時々出てくる。シャドー族出身である。
ダーマルの雑務を担当している。

モブ2

時々出てくる。シャドー族出身である。
ダーマルの雑務を担当している。

常連客

コノーキ族出身。ダーマルのお得意さん。
クレームを付ける個体も多いが、良い個体も多い。
良くも悪くも、一般的な顧客である。

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