第4話 マジシャンってね

文字数 1,044文字

 これは、私の耳が大きくなる前の話。
 画描きのジョプス・ジョーン(友人からは親しみを込めてJJと呼ばれている)は、日本にやって来ていた。彼と私は渋谷の街ですれ違った。それだけだった。
 私は、世界的に有名なマジシャンに会うために渋谷に来ていた。その男の名は、山川高志。彼は無名の時代、渋谷のストリートでマジシャンをしていたらしい。そこで今回は自分を育ててくれた街・渋谷に戻って来てマジックを披露してくれるということなのだ。
 山川高志は、ハイポンドという名前のマジックバーで、腕によりをかけたマジックを見せてくれるのだが、私がこの会のチケットを入手しようと動きだした時には、既に売り切れていた。
 私はマジックに特別興味はないが、山川高志に会いたかった。
 そのマジックバーの近辺を徘徊していれば、山川高志を一目見ることができるのではないかという魂胆のもと、朝から渋谷をウロウロしていた。
 山川高志は鼻が高い。だから絶対会えると思っていたのに、その日私が山川高志の顔を拝むことは叶わなかった。
 後日、山川高志がつけ鼻疑惑でネットニュースになっていた。
 山川高志は、マジックを披露する時だけ、高い鼻を装着しているらしかった。世間は彼をここぞとばかりに非難していた。一方で私は、山川高志をなぜ推していたのか分からなくなった。私は山川高志の鼻が高かったから推していたのか。否定。山川高志の鼻が低くても推していたと思う。現に今も推している。
 邦楽の歌詞の中で生まれ変わっても君を愛しているという類のものがいくつかあるが、あれは生まれ変わる場合、どこまで変化する想定なのだろうか。もちろん、鼻が低くなる位は考慮しているだろう。というより顔全般の変化は受け入れるつもりだろう。では性格の変化はどうか。穏やかな人が気性荒くなることも想定済みなのか。もうそれは誰でもいいということにならないだろうか。私は山川高志がどうなったら推すことを止めるのだろう。

 山川高志がマジックをやめたら?
 最初からマジックをしているかどうかはどうでもいいので大丈夫。
 
 山川高志に尻尾が生えたら?
 山川高志を後ろから見る機会は少ないので大丈夫。

 このように問いを繰り返せば、いつか答えは見つかるのだろう。だが私は見つけない。私は何が起きても山川高志を推し続ける。今はそう信じていたい。

 翌日、山川高志がつけ耳疑惑でニュースになって世間を騒がせていた。つけ耳を外した山川高志の本当の耳は一回り小さかった。相対的に私の耳は大きくなった。
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