第5話

文字数 1,435文字

「え?類、いないんですか?」

「あら、あすみちゃんといっしょじゃなかったんだね?朝早くに出てったから、てっきりあすみちゃんとこに行くんだと思ってたんだけど。」

約束してたわけじゃなかったけれど、類に会いに来たのに、類はどこかへ行ってしまっていた。

つまんないの。

でも、どこに?

類が来てから、私は類と会わない日はほとんどなかった。

類が一人でどこに行ったのか、見当もつかない。

類の家の周りや七夕の夜に行った神社を探したけど、いない。

学校の方まで行こうかな、と思ったけれど、やめて家へ戻った。
お昼ごはんを食べたらまた行ってみよう。

「あすみ、明日は類くんとあと誰が来るの?」

「え?来ないよ、類だけ。」

「えっ、類くんだけ?他の子は呼ばなかったの?」

「うん、類が来るからいいの」

「…そう」

「お母さん、明日は絶対唐揚げね!あとは、ケーキ屋さんのおっきなケーキ!チョコのやつね!」




お昼ごはんを食べてから、また類の家へ行ったけれど、類はまだ帰っていなかった。
「本当に、どこへ行ったんだろうね」
おばあちゃんもさすがに心配そうにしていた。
「学校の方で誰かと遊んでるのかも!私、行って見てきます。心配しないでください!」


類、どこ行っちゃったんだろう。
まさか、町の外に行ったなんてことないよね?
お父さんのとこに帰ろうとしたなんてこと…。
ううん、明日は私の誕生会に来るって約束したんだから。


「あっ!あずみー!どこ行くのー?」
同じクラスのなっちゃんが手をふって向こうから歩いてきた。

「なっちゃん、ねえ、類見なかった?」

「類?ううん、見てないけど…」

「朝早く出てって帰ってこないんだって。学校の方、誰かいた?」

「うん、グラウンドで男子が野球してたけど…類はいなかったと思うよ?」

「そっか、ありがと。行ってみる!」

「あっ、私も探すの手伝うよ、どこに行くわけでもなかったから。」

「ありがとう!」


学校へ行くと、男子たちはまだ野球をしてた。
遊具の方ではクラスの女子たちも遊んでいる。


「ねえー!類、知らなーい?」グラウンドの外側から大声で叫んだ。

「何ー?」
聞こえなかったらしく、男子たちが集まってきた。

「類、見なかった?家に帰って来ないんだけど。」

「…えっ」

「えっ、ほんとにあいつ、行ったんじゃねえの?」

男子たちが動揺してるのがわかった。

「行ったって…どこに?」

「…」
誰も答えない。

「ねえ、どこってば!!」
私の声に、遊具で遊んでた女子も集まってきた。

「どうしたの?」

「ねえ、類がどこに行ったっていうの!答えて!」

「……山」

「…山?山って…」

男子が指を指した。

グラウンドから見えるその山には、この町の子どもは近づいてはいけない。
奥に行くほど傾斜が強くなっていて、一部は崖になっている。
そんなこと、誰もが知っていた。

類以外は。


「…なんで…」

「あいつ…花探してるって言ってた。冗談だぜ?あそこの山にあるんじゃない?って、冗談で言っただけなのに…」

「どうしてそんなこと言ったの!?」

「ふつー、わかるべ。もう9月だぞ。こんなとこに花なんかねぇだろ。」

「本当に?本当に、類は行ったの?見たの?」

「知らねぇけど、あっちに向かって歩いてった」

私は走り出した。
「あずみ!」
なっちゃんも追ってくる。

そこまでは必死に走っていったけれど、山の入口で、足がすくんだ。

なっちゃんに続いて、さっき集まっていた男子も女子もやってきた。

入口のところから草が生い茂っていて、奥が暗いことがすぐにわかる。

この中に、類がいる…?

冷たい風が、強く吹き付けた。


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