経験無き故に

文字数 1,514文字

真っ先に攻撃を仕掛けたのはカイゼルだった。

動く気配の無いフォルクに走り寄り、勢い良く剣を振り下ろす。

フォルクは身を逸らし、容易く躱す。

それに続けて斬り払い。

しかし既にフォルクは払われた剣の範囲から外れていた。

カイゼルは再び距離を詰め剣を振るが、容易く躱される。

剣で受ける事すらせず、動きは最小限。

何度もやっても刃を掠らせる事すらままならないという事に徐々に焦りを感じ始めていた。

カイゼルの一振りを避けると突然、フォルクは後ろに跳ぶように下がり、カイゼルから距離を離した。

このまま素振りをさせていても意味が無い、ここからは私も攻撃を始める。訓練用の武器とは言え実戦を想定し、当たらないよう気を付けろ
そう忠告した直後、フォルクはカイゼルの側まで詰め寄っていた。


っ……!
ではヴェルスさん、よろしくお願いいたします
…………
微笑みながら丁寧に礼をするミアに小さく頷き、ヴェルスは駆けて行く。

ミアは腰の辺りで細身の剣を縦に構え、ヴェルスの動きを見極める。

…………
ヴェルスが剣を振る。

その瞬間、ミアは的確に剣先を当てて軌道を変えた。

……!?
ヴェルスは一瞬、何が起こったのか理解が追いつかなかった。

見かけに反し、鋭い一閃。

余裕以外感じられない表情でミアはヴェルスに微笑んでいた。

ふふっ、遠慮なんて要りませんよ?
……いや、そういう訳じゃ……
カイゼルさんか、ヴェルスさん……。うぅ……どっちの加勢に行けば……!
どうしよう……狙いが定まらない……
シャロア!レファ!2人は適当に支援してくれ!
て、適当にって……指示が雑過ぎますよっ!
シャロアが言葉を返すも、カイゼルは防御に手一杯だった。
とにかく、やるしかないよ……!
あー、もう!ミスしても責めないでくださいね!
槍を構え、2人の方へとシャロアも向かって行った。

徐々にヴェルスの方へ距離を縮め、カイゼルはミアへと対象を変える。


悪い、頼んだ……!
あぁ……
不利と判断して相手を変える……判断としては悪くないが……
どちらにせよ、勝ち目は薄そうだな……
俺、さっきからずっと見てましたよ
実は私もカイゼルさんの事を見ていました
じゃあお互い両思いって事ですか?
どうでしょう?
先程と同じように向かってくる相手を待ち構える。

カイゼルは突然、剣をミアの方へ手放すと即座に間合いを詰めた。

……!
微かに驚くミアにカイゼルは小さく笑みを浮かべる。
……面白い事を考えますね。ですが……
ジャブを打つカイゼルだったが、その遠慮が油断となった。

腕の動きより早く放たれた足払いによって、カイゼルの身体は倒された。

カイゼルさん!
もう少しといった所ですね
くっ……!
カイゼルの顔に剣先が向けられる。

負けを確信する瞬間、レファはミアに狙いを定めていた。

これでっ……!
レファの放った矢はミアの長い髪に触れ、そのまま通り過ぎた。

ミアが避けるまでも無く、焦りによって矢は外れた。

そんな……
はぁぁぁぁっ!!
背後から仕掛けてきたシャロアにもミアは動揺する事は無い。

身体を翻し、突き出された槍の柄に沿いながらリーチの差を一瞬で詰めた。

ひぃっ……!!
このまま、降参していただけますか?
は、はひ……。ごめんなさい……!
首元に刃先を向けながら、ミアは優しい口調で提案する。

シャロアは恐怖心から目に涙を浮かべ、握っていた槍を地面に落とした。

レファさんは、どうしますか?
瞬く間に2人の戦意を喪失させた動きから戻り、上品な立ち姿でレファに問いかける。
こ、降参します……
なっ……!
ミア、少しは加減というものを知った方が良い
私とした事が……。申し訳ありません、べズレー隊長
どうする、このまま1人で戦うというのならそれでも構わないが
…………
ヴェルスは諦め、そのまま武器を手放した。
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