間奏Ⅵ 明日もお天気

文字数 509文字

 猫が飛び降りた拍子に、ラジオが床に落ちてしまいました。それで朗読劇はおしまい。ぱったりと声は()み、恐ろしい静寂がやって来ました。わたしは顔色を真っ青にして、飲みかけのお茶もそのままに、ラジオを抱えて大急ぎで家を飛び出しました。どんな時でもきっとどこかにいてくれているはずの、丘の番人を訪ねるために。
 ちょうど、おじいさんは雑木林の奥の小屋で薪割りをしているところでした。わたしが息せき切って事情を説明すると、すぐに居間へ招き入れてくれました。そんなに心配なさるなとほほえみながら、おじいさんはさっそくラジオの修理に取りかかりました。わたしは二人ぶんのコーヒーをつくってテーブルに置き、両手を組みあわせて祈りました。おじいさんの手際は、魔法のようでした。箱のなかの独唱石(アリアナイト)は、さいわいにも無傷でした。ちょちょいと配線を繋ぎ直して、螺子(ねじ)を締めて、それで終わり。ダイヤルを回すと、おっとりとした女性の気象予報士の声が飛び出してきました。
「……はい、というわけでこの地方一帯、明日もお天気でしょう」
 わたしたちは顔を見あわせて、ほっと笑いました。おじいさんの大きな手を両手でわしづかみにして、わたしは心からの感謝を伝えました。
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