第40話 心理戦

文字数 6,072文字

第11章 犯人は・・・?

ママはアリサの言う通りに会場に警察を集め
竜牙にある事を報告していた。
そして、暫くした後に、ビュッフェに参加していた客
全員がこの会場に集められた。
ロウ・ガイや八郎もその彼女と、500人の筋肉達もいる。

そして、被害者の照代も目立たない様に
私服警官2人に護衛されつつ人ごみに紛れている。

「がやがや がやがや」

「何ですか? 早く帰してよ
もう寝る時間じゃないですか」

「確かに眠いぞい」
時計は夜11時を回っている。
文句を言われても仕方がない。

「忙しい所お集まり戴きありがとうございます。
今から今回このビュッフェを
滅茶苦茶にした犯人をこの場で(あぶ)り出します」

「鏑木さん何をするつもりなんですか?」
竜牙が不安そうに聞く。

「それは娘から皆さんに話があるので。聞いて下さい」

アリサは、覚束(おぼつか)無い足取りで
人だかりの中心まで歩いていき叫んだ。
そして・・
「犯人は・・・あなたかあなたかあなたです!」

アリサは無作為に3人を選んで指差した!
突然指を指された3人はびくっとなる。

「自分は何もしていない!」
と無言ではあるが、アリサに目で反論する。
しかし、指された3人は
過去に何か悪い事をした事があるのだろうか?
強くは反論は出来ない。
何かしらの悪事をやっているのであろうか?
それが例えピンポンダッシュだとしても
小学校の頃やった好きな子への
スカート(めく)りだとしても
誰しもそういう経験は一度や二度はある。
指された瞬間に克明に思い出し
俯いてしまうのかもしれない。

それを一瞬でアリサは見抜いた・・と言う事なのか?
そして、それ以外の人々は静まり返っている・・

「アリサ? 何を言っているの?」 
予想だにせぬ娘の行動に戸惑うママ。

「アリサの作った決め台詞だよ? 
全由一とか名探偵ユナソでもあるじゃない。
謎は半分以上解けたとか真実はいつも2つ
とかあのかっこいい奴、私はこれで行くつもり」

確かに決め台詞は覚えて貰う為には必要であるな。
だが・・あまり格好良くないのではないか?
それにその決め台詞には欠点があるぞ?
もし容疑者が2人の場合はどうするのだ?

「かっこ良くないわよ。一人に絞りなさい」

「出来ないよーアリサまだ小5だよ?
それにこれを超える決め台詞の
インパクトは無いと思うの。物凄い発明だよ?
だって探偵って普通一人に絞ってから
解答編に行くでしょ?
それを二人追加いいすか? って言っているのよ?
面白いじゃないwwww」
こういう時だけ幼さをアピールするアリサ。
会場はざわつき始める。

「ざわざわ ざわざわ」

「こんなシチュエーション
一生に一度あるかないかだよ?
何か決め台詞を考えないとって一生懸命考えて
搾り出したんだから許してよー」
会場内はどよめきが納まらない。そして一人の客が。

「あのー、まさかこの親子漫才を見せる為に
私達をここに集めたんですか? 
そういうのは身内でやってくださいよ
それに滑ってましたよ?
まあ小さいから今回だけは許してあげますけど」

「小さいは余計よ!」

「・・今のはあれです、み、皆さんの中の誰かが
犯人って事を言いたかったのよねアリサ?」

「そ、そうよ、みんなに見られて緊張しちゃって・・
変な事言っちゃったかも知れないわごめんなさい」

「しっかりしてよね全く・・」
ここでアリサは、ママに耳打ちをする。

「ママ。何とか会場の皆を大人しく出来る?
今の茶番は、犯人を油断させる為
わざとポンコツの振りをしていたの。
こんな子供じゃ絶対に無理だって思わせる為にね」

犯人には、万全の準備をしている事を悟らせない為に。
大勢の前で緊張している女の子を演じるアリサ。
そう、自称心臓に毛の生えた神の子が
この程度の枝葉末節な事で心が揺らぐ筈も無い
高々数百人に囲まれた程度では緊張などしないのだ。

「成程。分ったわアリサ」
そして、ママは頷き皆に伝える。

「そ、そう、皆さんを和ませる為にやった事です
気にしないで下さい。では本題に入ります」
何とかアリサのポンコツぶりを
自然に植え付ける事に成功。しかし、思い出して欲しい。
遊戯室でオーナーを
完膚無きまでに言い伏せたアリサの事を。
あの216行に及ぶ言葉のガトリング砲を
今はそれを完全に隠し、犯人の隙を伺っているのだ。
そして皆ママの言葉で何とか落ち着いてくれた様だ。

会場には沢山のテーブルが用意され
その上には2つのグラスが置いてあり
中に赤い飲み物が入っている。
そして片方の席には警官が座っている。

「皆さん。空いてる席にお座り下さい。
そこで警官が問いかけて来ます。
直感でどちらかのグラスをお取り下さい。
片方はトマトジュース
もう片方は激辛トマトジュースになっています」

会場はざわつき始める。

「おいおい、こんな事で犯人が分かる訳無いだろ!」

「そうだそうだ」

「マジだるー帰っていいー?」

「ジュースジュースww辛い辛いww」

口々に不満を漏らす客たち。 

「お願いします。協力して下さいすぐに終わります。
これで犯人は分かりますから」

「失礼で。すが私、もでしょう。か?」
オーナーがアリサの不意を突き
彼女のパーソナルスペースにまで進入してくる。

「うぐっ・・ガアッ・・。そ、そうだよ
後、橋本にも一応飲んでもらうからね?
終わればすぐに帰れるから早く終わらせよ」

突然の不意打ちで、かつて無い程の近距離で
悪臭を受け止めるアリサ。
凄まじい臭いに気を失いかける。しかし
こんな所で死ぬ訳にはいかないと必死に堪えるアリサ。

「分。り、ま。し、たおい、で橋。本」
オーナーも分ってくれた様で、橋本を呼ぶ。

そして、他の客にもママとアリサが説得して回る。

「協力して下さいお願いします!!」

「あ、あのお方は神様じゃないか! 神様の言う事には
従わなくっちゃ」っちゃっちゃっちゃ(エコー)
ビュッフェに向かうエレベーターで同乗し
共に踊った仲間であり
アリサ教の信者の幹部でもある彼は、快諾し
一般客への協力を手伝ってくれる。

「ここは控えめな身長の彼女の言う事を聞くべきだ! 
さあ!! みんな」みんなみんなみんな(エコー)

「そうだよ! 
唯一絶対神アリサ様の言う事は絶対なんだ
小さいけど凄く怖い神様だからね? 
彼女に従わないと確実に目玉をへし折られるよ?
悪い事は言わない。言う事を聞くんだ!」
そして、あの若者信者もアリサに協力する。

「え? この若さで目玉はへし折られたくないよ
わかりました! 従います」

「あんな小さいのに・・怖いなあ
ちっ、しゃあねえなあ」

「めだまめだまw 折れないし、決して折らせないww」

脅しの様な説得も効果があり
信者以外の会場の皆も、信者に続き
言う事を聞いてくれる様になった。

「・・お前達・・やるじゃない。ありがとう。
立派な信者に育ってくれて嬉しいわ
でも小さいは余計よ!」

被害者の照代以外の全員が席に着き、実験は始まった。

その実験とは、テーブルの上に
2つのグラスが乗っていて警官が

「グラスを取って下さい」

という指示に従い、被験者はグラスを取る。
その後同時にジュースを飲む。
普通に考えたら2分の1で
どちらかが激辛ジュースを飲む事になる。
ところが
アリサは事前に必ず被験者が激辛ジュース飲むよう
仕組みを組んで警官に指導してある。
尚、被害者の照代は当然その実験から外される。

「ではスタート」
警察官が被験者たちに質問する。そして
ごくごく

「このジュース辛すぎやしねーか?」

「うわーんww辛いよママーww」

「何と言う辛さじゃ。しかし、一切臭いではわからん
どういう技術じゃ? こんなに辛み成分を入れるとは
配分した奴は全くキチ・ガイじゃな」

「え? あ! ちょっと君!!」

「ごーっほごほなかなかやりますねぇ」

「水をくれ何でもしますから」

「トマトが辛くてなぜ美味しー?」

「筋肉強化にはカプサイシンが有効とはいえ
過剰摂取なのでは? ゴホゴホ」

「モトューンモトューン」

「ごほごほっ、こんな事で一体何が分かるのよ? 
まじだるー」
アリサの思惑通り、次々に被験者は
顔を真っ赤にして咳き込み水を飲む。

「がゃ。ぐ。ぶぃぐ、ぶぅ」
オーナーは人の出せる音ではない音を
連続しつつ苦しむ。
臭い物にはめっぽう強いのだが
激辛な物に弱いらしくトイレに走って行った。
そして、焦っていたのかステーンと転んでしまう。

「アイー」

オーナーはもがき苦しんでいる。
まるで芋虫だ
そして、一旦仰向けになり休憩する。
すると再び天井に
隠れユッキーが塗り潰されているのを発見する。

「あ。っ、私の隠れユッ。キーが黒、く塗り潰されて
いる?誰がこ、んな酷い。事を・・」

一度見た筈なのだが、すっかり忘れて
初見のリアクションを取るオーナー。
しかし、起き上がり
めげずにまた立ち上がり走り出す。
兎に角この辛い物が体に残っている事が
苦しくて仕方の無いオーナー。 
しかし、5歩位走ってまた、ステーン。
ボヨーン・・・ポロリン。 
2度目の転倒では
腹が地面でバウンドして少し跳ねてから倒れこむ。

「アイー!」
痛がってもがいている様だ。まるで芋虫だ
そして起き上がる体力がないので胡坐(あぐら)をかいて
休み始める。と
オーナーの姿に異変が起こっている事に気づく。
そう、頭部の『アタッチメント』が
一回目の転倒では耐える事が出来たのだが
流石に二度目の転倒での激しい衝撃に
留め具が耐え切れずに外れ
床にコロリンと落ちてしまったのだ。

冒頭で、奴の髪が
フサフサに生え揃っている事に疑問を抱いていたが
たった今、その疑問が解決された。
確か私は、以前神様はおっちょこちょいと
暴言を吐いてしまった。
でも神はおっちょこちょいでも何でもなく
斉藤隆之をしっかりと完璧に仕上げていたのだ。

 それを私とした事がカツラいう外見に騙され
髪が生えていると勘違いしてしまった。
これに関しては神に謝罪しなくてはならない
神よ許してほしい。

そうなのだ、オーナーは金を持っている。
その金で、冬空の寒さから
頭皮と、人の目から身を守る為の
『アタッチメント』をアートネーチャンに
開発依頼を出していて完成したその『アタッチメント』を
今までずっと装備していただけなのだ。

 それは、年齢も考え白髪にしての作成であった。
そのお陰もあり、辛うじて
完全な巻き○そを回避出来ていたのだが
現在のオーナーの姿
全身はこげ茶色で統一されていて
頭は先端が尖ったこげ茶色。まるで巻き○その先端。
そして胡坐をかいて一休みする姿は
胸周りが上から2段目、腹周りが上から3段目
胡坐をかいているその足が4段目で構成されている
4段巻き○そそのもの。
そう、オーナーは、今まさに完全体となったのだ。
頭は、先端が尖がっていて、髪の毛と思っていた所は
異様に伸びた頭頂部でありアタッチメントの形も
工事現場に置かれている赤いコーンの様に
尖がっている三角帽子の様な形になっており
頭の長さは60センチ以上もある男だったのだ。
なので冒頭では6頭身と言っていたが
それは、髪の毛の部分を除外していての
六頭身であり、頭の長さが60センチで
身長が170位でも3頭身位しかなかったのだ。
禿げているだけでなく頭が異様に伸びている事も
恥ずかしかったこいつは、薄く、頭の形にフィットする
カツラを造らせていた。そして3頭身を6頭身と
見て貰える様に捏造していたのだ。
浅ましい男である。そんな事をする位なら
全身整形して人間らしくなればいいものを

しかし、頭の事に関しては少し疑問が残る。
プールでのユッキーの内部にあった
頭蓋骨を見た時、普通の人と同じ様に
頭は尖がっていない普通の頭蓋骨だった。
健康な普通の頭蓋骨中央には無いヒビまで
再現されている事から
作成者は本人のレントゲンを見ながら
頭蓋骨を描いていた筈。
なのにあの様に頭が伸びているのは
どうしてだろう?

もしや! 駱駝の(こぶ)の様に脂肪が頭の先端に
蓄積されて、奇麗に尖がってしまったのか? 
要するに頭の上に伸びた脂肪の上に
かつらをした状態だったと言う事だ。
そこまでして神は、この男を外見だけでも
巻き○そに近づけたかったのであろうか? 
神よ貴方様は・・何と恐ろしい・・恐ろしすぎる!!
そして、展示室で幼少期の手形はあったが
本人の写真が一切無かった事も納得行く
子供の頃から当然頭は伸びていて
髪の毛は、脂肪の部分には生えず、飛び出ている状態。

        /\
      /   \
    髪髪髪髪髪髪髪
    耳  目 目  耳
図にするとこんな感じである。
それをばれたくない一心で展示出来なかったと言う事だ


そして、黙っていれば良いものを

「あ、あっ私。のカツ、ラが落ちて。しまった! 
早く拾、わな、いと」

と言い、周囲の注目を浴びてしまうのである。

一方その頃
アタッチメント君は
久しぶりに臭い隆之から離れる事が出来て
至福の瞬間を味わっていた。

「なんて空気が素晴らしいんだ。
ああ・・こんな世界があったなんて知らなかった・・
僕に足があったなら、このまま広い大地を駆け回って
色々な所を見て回れるのになあ
今からでも遅くないよね? 
僕の第二の人生はこれから始まるんだ
思いっきり楽しんでやるんだ!!」

・・束の間の幸せ・・しかし
茶色い男の手が、既に迫ってきている事に
アタッチメント君はまだ気づいていなかった・・

 皆、奴の無様な姿を見た。だが
最早奴が禿げてようがどうでも良い。
例えば、アイドルのSMOGの木村竜也が
カツラだった事を知ってしまったなら驚くだろう。
だが、こんな物の髪が有ろうが無かろうが
本気でどうでも良いのだ。
そう、誰もこの男とはこれから関わる事も無い。
未来永劫。そんな男がカツラをつけて
オシャレをしようが眼中に無い。
う○こにカラースプレーで青い色に変えても
結局臭いは変わらない。それと同じだ。

そう
二回も転んだのに愛犬の橋本どころか
誰も駆け寄ってもくれないで放置された男。
まあ橋本は、まだ辛くてうずくまっているから
仕方ないのかもしれぬが
その時隆之は、自分は孤独な存在だと強く思い知る。
そして・・この時隆之は過去を思い出す
忌まわしい過去を・・

アイーアイーアイーアイー

ぬ? 何だそれはですって?
この後の話を見ればわかると思います。
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