第十八曲 大きな白鳥たちの踊り (4)
文字数 908文字
ベンノが石を投げています。ぽちゃん。何をしているのか、しばらくわかりませんでした。まさか、もしかして、水切りのつもり? 一回も切れてないんだけど。面白すぎる。ぼくを見て、肩をすくめてみせました。笑わせようとしてくれてるの? ありがとう。ベンノ。
毎年冬になると驚くのは、この同じ景色の上に、たった数か月前、汗ばむ陽気がかかっていたのだということ。そして、その中にいた同じぼくがこうして着ぶくれて、霜枯れた色を前にたたずんでいるということ。季節のうつろいがあたりまえのようにめぐってくる、その不思議。あのときのぼくとはもはや別の生き物であるぼくが、同じ者として立っていることの不思議。吸いこんだ空気の冷たさが胸にしみ、そのかすかな痛みが白い息となってぼくの口から吐かれます。こうして、ほんの少しの青空さえあれば、生きていけるような気がしてくる。そのこと自体が、奇跡のように思われます。
オデット。
あの日、泳いできてくれた人。まっすぐ。ぼくに向かって。
湖があふれ、二人を呑みこんでいく——
それ、想定として、夏だよね。冬は無理。《永遠の法悦》とか無理、寒すぎて。
この湖も山も木々も空もきみのものなのに、きみがここにいないなんて。ぼくのせいで。主よ。かなうならば、ぼくがこれ以上のあやまちを犯す前に、ぼくのいのちをお召しください。どうかぼくがこの危うい生をまっとうできるよう、ぼくをお守りください、いえ、むしろ、ぼくのまわりの人々を、ぼくからお守りください。
どうかぼくが、これ以上、誰も傷つけませんように。