第2話

文字数 8,092文字


「誰か召喚したほうがいいんじゃない?」
 目的地まであと少しというところで白雲がナツに言う。
「問題ありか?」
「この事件は炎の妖怪が絡んでいると推測されるわけであって」
「ふむ」
「それで、僕らには炎への対処の方法がないんだ」
 白雲は細かなところに配慮をしてくれる。
 人類の友人であろうとする信念のためかもしれない。
「そいつはいい、さっそく呼んでくれや」

「この中に、炎に対処できる力を持っている者は?」
 ナツは少し考えてから尋ねる。
「いないよ」
 文友が即答する。
「燃やすことなら得意だが、消すのはダメだな」
「かなしいねえ、破壊するだけの一生なんてえ」
「なんだと?」
 文友と黄月のやり取りなどいつものことなので放っておく。
「他に方法は無いのか?」
「何か良い考えを提供したいところだけど、やっぱり何も思いつかないねえ」
 白雲は良い考えを思いついたりするが、今回は策が無いらしい。

「状況が悪すぎるか」
「連れてくるメンバーを変えるしかないけれど」
「聞き込みだけのつもりだったからな」
 ナツが天を仰いで自分の無計画を悔やむ。
「まあ、相手がわかっていたらそれなりの準備をしてくるからねえ」
「ノブスマ、炎の妖怪は水に弱いはずだ。池とか沼は近くにあるか?」
「水場はありますが奴がいる場所から離れていますよ?」
「それはそうだな、自分の苦手なものを遠ざけるのは当たり前だからな」
 結局のところ召喚に頼ることになる。
 召喚した奴に恨まれるというリスクがなければいいのだがな。

「呼び出した相手に問題があったら僕らが助けるから」
 白雲が援助を約束してくれる。
 ナツは本を手にもって召喚準備を始める。
 
この古びた本の特徴として妖怪を支配したり退治するだけでなく、召喚することもできる。
 そのようにして召喚された妖怪たちは使役することができるが、必ずしも素直に従うわけではない。
 時と場合によっては召喚者に恨みを抱くこともあるらしい。
 今のところナツは本の力で妖怪たちの恨みを買ったことは無い。
 今のところは。
 仲間たちは慣れたもので、どこに召喚するかを理解して場所を開けるために移動する。

「ほれほれ、邪魔にならないように移動しなきゃ」
「お前に言われんでも下がっている」
 黙って移動することにすぐに飽きたのか文友が話しかける。
「邪魔になったら帰されちゃうよ?」
「ナツ、こいつを帰して別の奴を呼び出すってのはどうだ?」
 黄月が耐えかねたように提案をする。
 もちろんナツはその提案を取るつもりはない。
 本気で言っているわけではないからだ。
 黄月の本気は口より先に手が出て、力に訴える。
「まったく賑やかなことですな」
 ノブスマが呆れている。
「術を使うんだから静かにしといたほうがいいよ」
「わかってる。言ってみただけだ」

 全員が場所を開けたことを確認して術を始める。
 ナツが召喚術を実行すると地面に霧のようなものが広がる。
 その霧の中に何かが動くのが見えた。
 霧はすぐに薄れていき、しだいに呼び出されたものが姿を現す。
 その召喚された存在は、乱れた髪の頭の上に皿が乗っていて、体よりも大きい亀の甲羅を背負っていて、種類不明の鳥のクチバシを持っている。
「お前かよ」
 姿を見た黄月がぼやく。

「おやおや、自分が誰にも相手にされないことへの不満かな?」
「黙れ文友。これは俺の普通の対応だ」
「いいかげんに礼儀作法を身に付けたほうがいいよ。うちの姉ちゃんが社員教育でセミナーを開いているから参加しましょ」
「ああ、俺もおしゃべり狸を黙らせる、というセミナーを今すぐ開催したくなってきたぜ」
 黄月がうなり声を上げる。
「みなさんお揃いで」
 呼び出された妖怪は二人のやり取りを完全に無視して声をかける。
「やあ」
「そこの失礼な狐もあいかわらずで」
「けっ」
「彼は蛇沼の三郎太だよ」
 文友が旧知の妖怪をノブスマに紹介する。

 三郎太は見た目の通り河童の妖怪である。
 沼の近くが妖怪の通り道のせいか追跡している妖怪について話を聞くことがある。
 河童はイタズラ好きという伝説であるが、彼が誰かにイタズラをしたという話はなく、むしろお人好しなところがある。

 ナツは三郎太に事情を話す。
「本を使って、協力を頼もうなんて奴は一人もいませんでしたから」
「ほとんどは命令だったからねえ」
 普段は嫌味の無い白雲が本の過去について嫌々ながら話す。
 本についてナツは詳しくない。
 絶対の秘密というわけではないが、妖怪たちには思い出したくない過去であるらしい。
「協力してくれるか?」
「いいっすよ、任してください。狐より役に立って見せますよ」



「おうおう居た居た」
 森の中に開けた場所があり、中央に炎の塊が浮いている。
 炎の塊は冷蔵庫の半分ぐらいの大きさである。
 ナツたちの隠れている場所で炎の熱さは感じられない。
 炎の正体が妖怪であるからだ。
「他には誰もいないね」
 全員が隠れて遠巻きに眺める。
 広場のようになっているが炎以外の妖怪はいない。
 つまり事件は単独犯ということになる。

「今回ばかりは慎重に行かないと」
「平気だ、やっちまえば関係ねえ」
「脳みそまで筋肉になっているの? 昔々、炎の妖怪と狐の妖怪が力比べをして、バカにしていた狐が丸焼けになっちゃった、という話があってね」
「それは作り話だよ」
 文友の昔話のウソを白雲が指摘する。
「よせ、相手に気付かれる」
 ナツは文友につかみかかる黄月を止める。
 内輪もめを始める前に戦いを始めなくては。

「ときおり翼のようなものが見えるから天狗火かもしれないねえ」
「この地方特有の妖怪か?」
「似たような妖怪は他にもいるかもしれないけど、僕たちのいる地方にもいるよ」
「普通の炎とは違う特徴は?」
「炎の妖怪としては普通だねえ。燃えて、燃やして、ただ他の場所だと悪い伝説は聞かないけどねえ」
 白雲の解説を踏まえて計画の確認をする。
 
 河童は隠れていて、合図とともに天狗火に対して水の妖術による攻撃をする。
 残った者は天狗火の気を引いて河童が攻撃する隙を作る。
 相手が抵抗することができないくらい弱ったら、ナツが封印して捕獲する。

「ま、今回はとどめを刺しちまうってことはねえか」
 説明を聞き終えた黄月が人間から妖怪の姿に戻る。
 黄月は傷だらけの金色の毛皮の狐になり、白雲は雲のように柔らかそうな白い毛並みの猫になる。
 文友は人間時の姿とは違って毛並みが悪い茶色の狸になる。
「二本足よりも四本足のほうが歩きやすいんだけどね」
 彼らは妖怪特有の獣人のような外見をしているが、動物のように4本足で歩くこともできる。

「では、用も済んだようなので私はこれで」
 案内したからかノブスマが立ち去ろうとする。
「待てよ、最後まで付き合え」
 黄月が強引に引き留めようとする。
「戦わなくていいから」
 白雲の言葉にノブスマがため息をつく。

 準備を終えたナツと仲間たちが広場に突入する。
 ナツたちの姿を見ても天狗火は動揺する様子もない。
「お前は何者だ?」
「私は天狗火。そのように呼ばれている。いつから呼ばれているかは忘れた」
ナツの問いかけに天狗火が感情のこもらない声で答える。
「俺たちのことを知っているか?」
「知らん」
 黄月の問いかけにそっけなく答える。
 もしも、ナツたちのことを知っていたら動揺するよりも先に逃げ出していたかもしれない。
 黄月の舌打ちがナツのところまで聞こえる。

「お前が車を燃やした犯人だな?」
 ナツが核心を突く問いかけをする。
「そうだ」
 天狗火はあっさりと犯行を認める。
 感情がこもらず、まるで機械と話しているかのような会話だ。
「やっぱり! 最初からそうだと思ってたんだ」
「やかましい、最初から正体なんてわかってなかったろうが!」
 こんな状況でも二人は口喧嘩をしている。
 神や仏を相手にしても文友の態度は変わらないと仲間たちの噂である。
 見たところ天狗火は二人のやり取りに興味を示さないようだ。

「何のために人を襲った?」
「人間に興味などない」
 意外な答えが返ってきた。
 妖怪が人を襲う基準は様々だが、縄張りに侵入したから襲うというのが定番である。
 だが、峠の周辺を縄張りにしていたという話はない。
 たまたま通りかかっただけの不幸な遭遇かもしれない、あるいは。

「あの車を襲うということを命じられたのだ」
 ナツが話すよりも先に天狗火が火の玉を吐き出してきた。
「あぶない!」
 ナツが反応するより先に白雲がぶつかってくる。
 さっきまで居た場所を火の玉が通り過ぎていく。
 白雲がぶつかってこなかったら火だるまになっていたかもしれない。
「ありがとう」
「いいって。それよりも質問は後にしたほうがいいかもねえ」
 白雲の言う通りで天狗火を無力化してから質問したほうがいい。
 
 体勢を立て直したナツは距離を置く。
 他の仲間たちも戦いやすい位置に移動し始める。
 ナツは本の力で霊力によって作られた鎖を出す。
 天狗火が好戦的な黄月に向けて火の玉をばら撒いている。
「こんなもんで倒せると思ってんのか!」
 黄月が怒鳴りながらそれを避けている。
 この隙にナツは鎖を投げつける。
 鎖は炎の塊に巻き付いて縛り上げる。

「降参したほうがいいんじゃない?」
 やる気のない声で白雲が呼びかける。
 炎が巻き付けていた鎖を飲み込む。
 ナツが手にしていた鎖がちぎれて戻ってくる。
「あれま」
 霊力を工夫しないと相手に通じないようである。
「もっと強力なものでないと通じないみたいだねえ」
「そうだな」
 白雲とのやり取りはのんきなものだが内心は威勢の良かった勇気が硬直している。
 ナツは鎖の代わりに霊力で作られた剣を構築する。
 
 天狗火は黄月から文友に目標を変えたようで炎を吐き出して攻撃している。
 文友は丸い岩に化けて転がりながら相手の吐き出す炎を避けている。
 ナツの隣に来た黄月が手の爪を伸ばす。
「妖力を乗せた爪で削るのか?」
「不可能じゃねえ」
「やめてえ、相手よりも先にあんたのほうが黒焦げになっちゃうよ? 衣替えにはまだ早いってば」
「そうなる前に、お前の体の毛を全部刈り取ってやるぞ」
 黄月が敵よりも味方に怒りだす。
 相手に走っていった黄月が飛びかかり、爪で削ろうとするが炎の勢いを削いだだけにとどまる。
 逆に炎を吐かれて、それを寸前で避けて距離を取る。
 白雲も、体の体毛を針にして飛ばすが、相手の炎の体に燃やされる。
「相性が悪いな」
「まったくだぜ」

 それからは一進一退だった。
 ナツたちは攻撃を仕掛けるけれど有効的な攻撃にならなくて、戦いの主導権を握れないままであった。
「邪魔する者は排除しろという命令だ」
 天狗火がまたもや意外な情報を話し出す。
どうやら背後に黒幕がいるようだ。
 戦っている間に天狗火があちこちに火をばら撒いたので周囲の草が燃え始めた。
 妖怪たちは被害を出さないように燃やさないような炎を出すこともできるらしいが、天狗火にはそんなつもりはないようだ。
「早いとこ片づけないとこっちも丸焼けになっちまうぞ」
 黄月が忌々しく言う。

 ナツには広場の周囲にある木の影に河童がノブスマと一緒に待機しているのが見えた。
 その力を最大に発揮するなら、背後から攻撃させたほうがいいと事前に話し合った。
 今のところその機会を得られないでいる。
「こうなったらあからさまでいい、計画通りに動くぞ」
「つまり、三郎太に攻撃させるために相手に知られるのを覚悟で誘導するので?」
 文友がナツの意見についての詳細を聞いてくる。
 ナツは答えずに天狗火の様子を見る。
 今は黄月が悪態つきながら天狗火の相手をしている。
 優勢に戦っているとはいいがたい。
「そうだ」
「一歩間違えれば台無しだねえ」
 白雲は批判しているわけではなくナツに確認を取っている。

 もしも相手に知られたら逃げられるか、隠れている河童の三郎太を攻撃して、ナツたちの攻撃手段が失われる。
 周囲の地面は炎で黒焦げの草だらけになっている。
 今のところ煙が大量に発生して森林火災のようにはなっていないが、天狗火を倒すころには森が炎で包まれているかもしれない。

「やるしかない」
「まあ、あの妖怪はあまり頭が働くタイプではないようだから大丈夫かもねえ」
 白雲の指摘は当たっているかもしれない。
 ここまでの戦いで感情や際立った知性を相手から感じることは無かった。
「そこに期待しよう」
 文友が黄月に決定事項を密かに伝えに行き。
 全員が計画通りに隠れている河童が敵の背後になるように移動する。
 天狗火はナツたちの意図を知らないで火の玉を吐きつけてくる。

「調子に乗ってやがる」
「三郎太! 撃て!」

 待機させていた三郎太が大量の水を吐き出した。
 宙を飛ぶ激流は天狗火を覆うのに十分で姿が見えなくなるぐらいのものだった。
 水勢が弱まると、天狗火がいた場所に小さな火が残っているのが見えた。
 仲間たちはずぶ濡れの地面を気にしながら近づく。
「これなら怖くないよ」
 近づいたナツは文友の言葉にうなずき小さな石を手に持つ。
 石と天狗火に向けて封印の術を使う。
 小さな火が石の中に吸い込まれる。
「これで封印は完了、うまくいって良かった」
 ナツは安堵の息を吐く。
 黄月が封印された石を爪で小突く。
 石から天狗火の不満の声が弱々しく上がる。
「乱暴な、炎を使う妖怪同士仲良くしなきゃ」
「やかましい。こいつと一緒にするな!」



「さて、お前さんが殺したってことはわかっているからな」
「はて?」
「とぼけても無駄だ。証人がいる、お前が車を焼くのを見たって言っている」
「それは違うな」
 やり取りを見ていた黄月がじれったそうにしていた。
 今のところ黙っているが黄月に尋問は向いていないのかもしれない。
「ナツ、こいつにとどめを刺しちまっていいか?」
 ナツたちは捕まえた天狗火を尋問している。
 尋問のための部屋はテーブルと机が置いてあるだけの簡素なものである。前は倉庫に使われていたが今は何も置いていない。
 この部屋よりも建物の外の方が、森などがあって賑やかに感じられる。
「ダメだ」
 黄月が舌打ちをする。
「だが、こいつを使えばお前を『退治』することもできるんだぞ?」
 そう言ってナツは古びた本を取り出す。
 
 本には妖怪を支配するとか召喚する以外にも退治するための術が載っている。
 強い妖怪にはてこずるが、今の天狗火のように弱った妖怪なら苦労せず退治することができる。
「どうする?」
「それはできない。なぜならば噂どおりならそのような凶悪な手段を使わないはずだ」
 天狗火の言葉を聞いた黄月が鼻を鳴らす。
 ナツは妖怪を退治するよりも捕まえたり、封印することに重点を置いていた。
 そのことを知っているのだろう。
 それはさておき、こいつは見かけよりも駆け引きができるらしい。

「何度も言うが何も知らない」
 天狗火の感情のこもらない声は簡素な部屋の様子と奇妙なまでに合っている。
「操られていた」
 黄月がテーブルの上にある封印が施された石の前に爪を立てる。
「俺たちが信じると思うか?」
「信じないならそれでもいい。だが、俺は操られて峠まで行って指定された車を焼いてこい、と命じられた。これは本当のことだ。相手の姿は見ていない」
 黄月がテーブルから爪を離して黙る。

 ナツと黄月は尋問を止めて部屋の外に出る。
 石の封印自体は強力なものではないが、弱っている妖怪では破ることができない。
 だから、しばらく放っておいても問題はない。
「聞いてたよ。やっぱり黄月に取り調べは向いてなかったね」
 白雲がナツたちに近づいてきて言う。
 尋問していた倉庫の部屋の前は薄暗く、妖怪といえども三人並ぶと通れないぐらいの通路幅である。
「まあな、こいつを使った取り調べの時にだけ呼んでくれ」
 そう言って黄月は手から爪を伸ばす。
「それは取り調べとは言わないけど?
 白雲の指摘を気にしたのか、黄月は爪をひっこめる。
 そんなやり取りは脇に置いておいて、ナツたちは取り調べた内容について話し合わなければならない。
「本当かウソか」
「逃げるために口から出まかせっていうこともあるし」
「どっちだと思う?」
「僕は人間びいきだけど、あの妖怪は本当のことを言ってると思うよ。見ての通りヒゲが緊張で伸びていない」
 白雲が自分のやや垂れたヒゲを指で伸ばし直す。
 
 ナツたちは石に封印した天狗火を尋問するためにこの場所に来ていた。
 ノブスマは森で別れて、住処に帰っていった。
 警察に報告するよりも先に尋問したのは、黒幕か共犯の存在を言っていたからである。
 結局、天狗火は黒幕のことは知らなかったし、今の時点で人間の警察に報告する義務は無さそうに思えた。
 人間側の助力と情報が必要になるかもしれないが、それでもまだ情報が不十分であった。  

 二体の妖怪と一人の人間は表に向かって歩き始める。
「妖怪を操る誰かがいるのかねえ?」
「操るのはいいけど、なんで人間を襲わせる?」
「通り魔殺人って思ってたけど、計画があるんじゃあない?」
「計画的だとすると死んだ人は普通の犠牲者じゃないことになる」
 ナツたちが今までいた建物は神社であり、表に出ると河童と化け狸の文友が箒で掃除している少女と話しているのが見えた。
 
 神社は妖怪たちの集会所になっていて、神社の関係者も人間ではない。
 その建物は材木が派手な色で塗られていなくて全体的に地味である。
 神社の歴史は数百年もあるけれど、元気のいい妖怪たちが出入りしているせいか新しい息吹を感じられる。

「取り調べは終わったようで」
 河童の三郎太が平べったい水かきの足で音をたてながらナツたちに近づいてくる。
 彼は好奇心を持ったようで神社まで付いてきた。
 召喚術で呼び寄せた妖怪は同じように召喚術で帰すことが可能である。
「あの手の妖怪は支配してしまってもいいのではないですか?」
 意外にも三郎太は思い切った提案をしてくる。
 この河童はナツが妖怪を強制的に支配できることを以前から知っている。
 けれども、そのことについてナツが悩んでいることは知らないはずである。
「他の河童はともかく三郎太は無理やり支配されることを受け入れるのか?」
「私みたいな貧弱妖怪は抵抗することができませんからね」
「奴隷根性だな」
「暴力に生きるケモノに言われたくはないですね」
 三郎太が黄月の批判に言い返す。
 
 ナツは考え込む。
 支配には保護も、責任も付いてくるから何も考えずに扱うわけにはいかない。
「支配に反対する妖怪ばかりじゃないってことだね」
「恨まれなければいいという問題ではなくて」
「反対しないなら本の力を使えばいいし、それは必要になるからねえ」
「避けて通れないわけだからな」
 白雲と会話しながら言い合いをしている黄月と文友と三郎太を見る。
 ナツが悩んでいることはどんなに考えても丸く収まるようなやり方が思い浮かばない。
 白雲の携帯電話が鳴ってナツの思考を遮る。
「森屋刑事からだよ。事件の被害者の家に向かうから、もしものときのために一緒に来てくれって」
 電話を受けた白雲が説明する。
 悩むのは後回しだ。
 事件解決に協力するという約束をさせてナツは三郎太を召喚術で帰した。

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