神の武器といえばあれ

文字数 1,061文字

 蒼生はかろうじて踏みとどまっていた。 
 痛みは感じない。アドレナリンが出ているのだろう。何発か重い打撃をもらった。一人で持ち堪えるのもそろそろ限界だ。
 蒼生は反射だけで敵の攻撃をいなしながら、視界の中に仲間の姿を探す。額から流れ出た血で視界が半分ほど塞がっており、周囲の状況もろくに見えない。なんとかあの神父が恭平を連れて逃げ切ってくれたことを願うしかなかった。

 癪に障るが、あいつならこの街をなんとかしてくれるかもしれない。俺がここで死んでしまったとしても──。

「恭平くーーーーん! お願いしまーーーーーーーーーーす!!」

 神父の声が響いた。
 本当に戻ってきたのか……?
 神父の声がした方向を振り返る。
 その瞬間、蒼生の目の前で敵が横にぶっ飛んだ。

「……!!??」

 次から次へと吹っ飛ばされていく敵。
 しばらく何が起こっているか理解できなかった。狭まった視界の中では、文字通り、敵が見えない力によって吹っ飛ばされていったようにしか見えなかったのだ。

「恭平君、もういいですよーーーーー!!」

 蒼生は視界を塞いでいる血を拭った。
 足元が水浸しになっている。
「え……ええええ????」
 朔太郎は消化ホースを手に立っていた。
「おやおや景気良く吹っ飛んでいきましたね。一応直撃にならないように気をつけたんですが、大丈夫かな?」
 蒼生はあんぐりと口を開けて朔太郎を見る。
「あ、あんた……」
「あ、これですか? 消化用のホースです。よく海外のデモなんかで、暴徒を鎮圧するのに放水砲を使っているでしょう? 殺さずに一気に片付ける方法といったらこれかなーと」
「めちゃくちゃだなあんた」
「神の武器といえば水ですよ水。何しろ一度、洪水を起こして被造物を滅ぼそうとしていますからね。あっはっはっはっは」
 何がそんなに面白いのか、高らかに笑う神父。
 と、朔太郎の高笑いに混じって、遠くからサイレンの音が近づいてくる。
 警察……ではなく、どうやら消防だ。朔太郎の鎮圧活動(?)を消化活動と早とちりした住民が通報したのだろう。地元の不良少年たちが死闘を繰り広げようが無視を決め込む住民も、自分の身に危険が及ぶかもしれないとなれば話は別だ。
「おっとサイレンだ、逃げましょう! 説明が面倒ですから!」
 朔太郎はホースをかなぐり捨てると、脱兎の勢いで走り出す。
「あ、ちょ、待……」
 逃げ足がめちゃくちゃ早い。あっという間に小さくなってしまう。
「ちょぉ待てコラ!!!! 俺らに後始末を押し付ける気か!!!!」
 蒼生たちは、必死の形相で朔太郎の後を追いかけた。
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登場人物紹介

木城朔太郎(きじょう・さくたろう)

新任司祭。川崎特区の教会に赴任する。

久我山蒼生(くがやま・あおい)

川崎特区生まれ育ちの少年。

恭平
蒼生の仲間。蒼生を慕っている。

マサ

蒼生の仲間。

ユウキ

蒼生の仲間。

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