第16話 「本」

文字数 1,053文字

── 21:20 病院 ──
目が覚めた香奈は守との過去の記憶が徐々に戻っているみたいだ。
おお!!

目を覚ましたか!?

もしかして…守?

菊場守くん…?

えっ…

俺のこと覚えているのか…?

うん…

幼稚園の頃、遊んだよね…

そうか!!!

だいぶ記憶が戻ったみたいだな!

でもまだ全然…

鮮明には…

いいってことよ!

少しずつ記憶が戻ってくれるだけで俺は嬉しいよ!

すると、勢いよく病室の扉を開けて雛川が入ってきた──。
香奈!!!

大丈夫か?

おにい…ちゃん!?
なんだお前…

もしかして記憶が戻ってきたのか…

うん…

少しずつ戻ってきたみたい…

お母さんが亡くなった記憶を思い出したの…

そうか…
あの日…

お兄ちゃんの誕生日だったよね…

その準備の時にお母さんが…

香奈は少しづつ下を向きながら泣き始めた。
もういい…

泣くな…

お前の記憶が戻ってきて嬉しいよ!

お兄ちゃん…
そうだ!

これ…覚えてるか…

雛川はカバンから本を取り出し”あじさい柄のしおり”を見せた。
それ…

うちが作った誕生日プレゼントのしおりだよね…

やっと思い出したか…

新学期の時にわざと落としたんだが、覚えてないとはな…

驚いたよ!

からかってたの!?
それに…

お前が持っている"四つ葉のクローバーのしおり"、それ母さんが大事にしてたやつなんだぞ…

形見なんだから肌身離さず持っとけ!

そうだったんだ…
それに…

守も俺のことを薄々感づいているかも知れんが、

お前とはもうそんなに長くはいれない…

どうして!?
俺は一度死んだ人間だ…

香奈が幼い時に事故でね…

そっか…

それからうちは記憶が…

はっきりとは言いにくいが…

俺が卒業する頃には、もういない…

なんで!?

なんで、卒業の時にいなくなっちゃうの?

言っただろ!

俺はお前を助けにこの世に来た…

それに、母さんがあの本を書いたんだよ…

【四つ葉のしおり】3巻に最後の10ページが無かっただろ…

そこにおそらく俺がこの世から消えることも書いてある。

あの本…

お母さんが書いたの!?

嘘でしょ…

父さんが言うには、母さんは預言者みたいなんだよ…

自分の死も予言できたみたいでミステリー小説として執筆したんだって!

そうだったんだ…
香奈の病室の扉越しに自販機で飲み物を買いに行った美穂が立ち聞きをしている──。
えっ…

雛川先輩って香奈のお兄さんだったの!?

雛川はカバンを持ち帰る準備をした。
俺はそろそろ帰るぞ…
へっ…

やばい…隠れないと…

じゃあな!

守…いつもそばにいてくれて、ありがとな!

はっ…はい!
香奈は無事退院をして学校生活を送っている。

夏も過ぎ、文化祭も終えクリスマスを迎えることになった──。



つづく

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登場人物紹介

本が大好きで不器用な性格の高校二年生「桃井 香奈(ももい かな)」

突如、図書委員に任命される。

図書室でミステリー小説を毎回借りにくる先輩「雛川 海斗(ひなかわ かいと)」

おとなしい性格で真面目だ。

彼には『とある秘密』がある──。

去年の冬に転校してきた女の子「冴島 美穂(さえじま みほ)」 

今年、桃井香奈と同じクラスになり生徒会をしている。

好奇心旺盛でちょっぴり天然な子

桃井香奈と同じクラスで担任の先生をしている。

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