せっかくなのでゆっくりしてみる右京
文字数 2,146文字
あまりにも貧しい暮らしのようだったが、そこには人の温かさがあった。
これほどまでに貧しい生活を人々が強いられているなら、この国の経済は死んでいるだろう。
だけれども、どうしてか、不幸そうな顔をしている人はどこにもいなかった。
国が言うには、お金をたくさん稼いで立派な家に住んで上等な仕事に就くのが幸福なことだとされている。
しかし目の前の人間たちは、お金があるわけでも家が立派なわけでも、仕事についているかどうかさえ怪しい。
結局のところ、人間は一人じゃ生きられないんだから。
今はこうして孤独を満喫しているけれど、いずれは、この世界に溶け込んで一人の住人として生きなくちゃいけない。
養ってくれている相手の音音とも関係を築いていかないといけない。
孤独は好きだけど、孤独だけでは生きていけない。
この世界で自分自身を強く持って生きるより、この世界に適応して、溶け込んで生きることを選択した。
以前生きていた世界の、人ごみ、雑踏、ノイズの溢れかえる世界では考えもしなかったことだ。
こんな大切なことを右京はこの世界にきてようやく気付いたのだ。
海から吹いてくる潮風の心地よさだ。
ほんの少し海の潮の香りがする。
波の音がとても心地よい。
時刻は午後6時、夕日が海に沈んでいくのをその目で見ることができる。
その沈んでいく夕日が、とても美しく、右京はとても静かな心境になった。