03

文字数 1,993文字


 新しい紙コップにアップルティーを入れ、向かい合わせの机に座る海道さんに振る舞う。
「実は自作のゲームシステムを作ってるんだ」
 自作というとカッコいいけど、既存のゲームの継ぎ接ぎばかりでオリジナルな要素はいまのところ薄い。そのかわり、かなり僕好みのシステムにはなってるんだけど。
「その試作プレイに付き合ってもらいたいんだ」
「ふむ?」
「さっ きTRPGは会話のゲームって言ったけど、それだけだといろいろ不都合がでてくる。それを解消するためにあらかじめルールを決めておくんだ。たとえば穴を 跳躍で飛び越えたときに成功するか、それとも失敗するか。プレイヤーがそれができると思っても、その成否をマスターの言葉だけ一方的に決めると不満が発生 しやすい。そこである程度キャラクターの能力を数値化して、それを基準に行動の正否を決めるんだ。足の速いキャラクターは幅跳びも得意……みたいな」
「なるほど」
「その数字がゲームを楽しむのに適しているか、それとも調整が必要なのか、実際プレイをして確かめてみたいんだ」
「ふむ、それは未経験の私で大丈夫なのかい?」
「ゲームの門戸はなるべく広くしたいから。むしろ未経験者は大歓迎だよ」
「具体的になにをすればいい?」
「ダイス……サイコロのことをTRPGではダイスって呼ぶんだ。別段これは均等に乱数が出せればいいんで、六角形の鉛筆に数字を書き込んでもダイスって呼べる」
 六面以外にも十面だの二十面だのいろいろな面数のダイスがある。一〇〇面のゴルフボールみたいなダイスもあるし、数字ではなくマークの振られたものもある。とは言っても、今回使うのは六面ダイスだけなんだけど。
「要所要所でダイスをふりながら、さっきみたく行動の選択をしてくれれば大丈夫。細かいところは僕が指示をだすし」
「そのくらいなら私にもできそうだな」
「敷居の高いゲームに未来はないからね。まぁ、場所と人が必要だからそんなに気軽でもないけど」
「そうか。場所も人もそう難しくはないだろう?」
  誰にでも気軽に友人と場所があるとは思わないで欲しい。これは僕が特別ボッチ度が高いというわけではない。その証拠に世の中にはひとり遊び用のゲームがた くさん流行っているじゃないか。今時はオンラインゲームでおなじサーバーでプレイしつつも、他人とは関わりたくないなんて言う人間すらいるんだぞ。
「それで、付き合ってもらえるかな?」
「さっき助けると言ったからね」
 快諾し口の端をわずかにあげてみせる。

 なんだか別の意味で惚れそうな男っぷりだ。

 僕はファイルに挟んでおいた紙を取り出すと、シャーペンを片手に簡単にアンケートをとりはじめる。

「ファンタジー世界でやりたい職業とかある? できれば駆け出しの戦士とかがありがたいんだけど」
 本当は自由に選んでもらいたいけれど、魔法使いが前衛もともなわずひとり旅は危険だし、NPCを多くすると僕の負担が増える。盗賊はあまり初心者向けではないし、僧侶も信仰が絡むので演じるには難しいところだ。
「……騎士がいいかな」
 その言葉になにか意思を感じた。でも騎士はちょっと困る。
「騎士っていうのは、単純に騎馬に乗った戦士? それとも階級的なもの?」
「私の言う騎士は馬に乗っただけの者ではない。階級的なものはあるが、それだけではない。誇りを胸に他者のために戦う者だ」
「申し訳ないんだけど、騎士や貴族っていうのは、単純な戦闘力だけじゃなくて、財産や人脈っていう大きな力をもってるから……ゲームとして簡単にみとめるといろいろむずかしいんだ」
「たしかにそうだな」
 僕の要求に海道さんは納得してくれる。


 よかった、俺のキャラは●●の血筋だから強くて当然とか言われたらどうしようかと思った。

「騎士にあこがれる駆け出しの戦士くらいでどう?」
「うむ、それでかまわない」
 僕の提案に海道さんは妥協してくれる。
「武器は剣? それとも槍?」
「片手用の剣に、空いたほうの手に盾だな。馬なしにランスを持っても様にならないしな」
 馬が高価なものと理解してるのか。ゲームはしないと言ってるけど、異世界ファンタジーの理解度は高いみたいだ。
「旅の途中ということになるから、鎧は革でもいい?」
「金属鎧は重い上に高いだろうからな」
 本人に書いてもらったほうが愛着がわくのだろうけど、今回はあまり時間をかけさせたくない。数値のデータもまとまってないし、面倒な手間は初心者相手では極力減らさないと。


 質問が終わり、記入欄が埋まったのを確認すると、それを海道さんに手渡す。

「ここのHPっていうのが0になったら気絶、大きくマイナスになったら死亡だから気をつけて」
「覚えておこう」
「じゃ、最後に海道さんの分身になるキャラクターに名前をつけてあげて」
 僕がキャラクターシートの一番上の欄にある空白を指さすと、海道さんは迷わずそこに『シロード』と書き込んだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

■海道剣《かいどうつるぎ》

前世の記憶を持ち、それに振り回される女子高校生。

クラスメイトである神代命と話することでTRPGに興味を持つ。

凜々しい姿は女子に高評で剣王子と呼ばれることも…。

空見魔魅《そらみまみ》

剣の幼馴染みで、TRPG経験者。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色