関東平野と武蔵野台地 ―天照大御神から八幡大菩薩への神勅―

文字数 3,101文字

第二章【光は東方より】

関東平野と武蔵野台地

―天照大御神から八幡大菩薩への神勅―

2021/02/27 01:39
2021/02/27 01:42
 壮大な自然環境が、人間にどのような影響を及ぼし、それに対して私達は、どう対応して来たのか?「自己」は「他者」と如何に向き合って来たのか? 今ある地域の風土には、その歴史が刻まれている。現在は過去を解く鍵であり、それを共に学ぶ事こそが、未来への希望を探し求める旅になるはずだ。幾億年と一夜の物語を経て、今ここに「私」の世界が始まる。折しも天下は、かの忌々(いまいま)しきウィルスの災禍に終止符を打ちつつあったが…。
2021/02/27 01:42

「あなたが空しく生きた今日は、昨日死んでいった者が、あれほど生きたいと願った明日

趙昌仁・金淳鎬『カシコギ』(サンマーク出版2002/03)

2021/02/27 01:45
2021/02/27 02:32

「天に居られる私達の父よ、御名(みな)(せい)とされますように。御国(みくに)が来ますように。御心(みこころ)が天に行われる通り地にも行われますように。私達の日毎の糧を今日もお与え下さい。私達の罪をお赦し下さい。私達も人を赦します。私達を誘惑に陥らせず、悪からお救い下さい。国と力と栄光は、永遠にあなたのものです」


 日本のキリスト教会が用いる「主の祈り」で、カトリック・聖公会の訳を一部編集。

2021/02/27 01:54
 地球世界を、そして日本列島を大恐慌に陥れた、禍々(まがまが)しきウィルスとの戦争…それは、私達の生活を一変させました。例えば、多摩丘陵の横浜市青葉区などにある共生科大学では、授業の大半が通信教育に転換され、日々の学修だけでなく、試験や実習までも家内から受講する事態になりました。私達も、宇宙創世から日本建国へと至る地球史の物語を、インターネットで学んでいました。時局では五輪の延期と、その開催を夢見た長期政権の終焉。(みやこ)知事と、海彼(かいひ)大統領…色々な出来事が、報道を埋め尽くしました。そして、それから時は過ぎ…。
2021/02/27 01:56
2021/02/27 01:59
「…おはよう、朝だよ!」
2021/02/27 01:57
2021/02/27 01:59
 目覚めた先には、東の空から日差す陽光…そして、あなたの寝顔。祖国日本の首都、東京。ある国で発生したウィルスが全世界中に拡散し、数多の混沌をもたらした細菌戦の災禍から、ようやく私達は復興しつつありました。ウィルスの弱体化と免疫の普及により、人々は元来の日常生活を取り戻そうとしています。長く続いた外出禁止令の結果、通信教育や在宅勤務が不可逆的に定着する一方で、非常事態の解除によって、内外への移動を必要とする経済活動も、その意義を再び見出されています。人肌の(ぬく)もりに対する恋しさ、それを抑圧せざるを得なかった事は、やはり社会に様々な影響を及ぼしていました。それは環境・教育・国際・福祉など、多方面にあると思います。今ここに居る私達もまた、そうした世相における天命を担っています。具体的には…。
2021/02/27 02:00
「皆様、おはよう御座います…あら、今日は早起きですね^^」
2021/02/27 02:02
 隣のあなたと一緒に蒲団(ふとん)から起き上がった刹那、寝室の境には(ひじり)姉様が(いつの間にか)立って居ました。度重なる迫害を耐え忍んで生き延びた、先祖代々からのキリシタン(Christian)であり、その末裔としてこの家を率いる姉様は、当代の世においても教会に勤め、絶えず天への祈りを捧げています。姉様は聖職者に相応(ふさわ)しく、大学でも宗教神学を専攻していますが、実は(人が永遠の命を手に入れるための)呪術とかも密かに研究している…のは内緒です。そんな姉様の妹が私、(めぐみ)です。「仁」と書いて「めぐみ」と読みます…読み間違えたら、少し怒ります。姉様と私、そしてあなたを加えた三人が、この家の最小単位です。
2021/02/27 02:05

「先日のオンライン授業とやらで、創世記などに関する話を説かせて頂きましたが、お姉ちゃんの教え方、あれで大丈夫でしたか? 確か…ヘルメス思想の説明をしている途中で、時間が足りなくなってしまった気がするのですが…」

2021/02/27 02:07

「…大丈夫、あれでも充分に話が長過ぎて、寝ている子も居たから…と言うか、私も少し眠かったんだよ…(^^;」

2021/02/27 02:07
 因みに私は、国語・日本史と倫理、特に日本宗教史みたいな分野が好きです。英語と世界史と理系は、苦手…。
2021/02/27 02:08
2021/02/27 02:08
 朝なので、今この国が置かれている情況を再確認しようと思います。先の禍を始めとする相次ぐ戦災によって、国も自治体も、政府は膨大な歳出を余儀なくされ、財政は極度に悪化しました。それでいて少子高齢化・人口減少は止まらず、社会保障と安全保障の費用はむしろ増大しています。それは必然的に、福祉予算などを削りながら消費税などを増税する「低福祉・高負担」と、赤字国債を乱発する多重債務になってしまいます。他方、世論やマスメディアは「税金は払いたくない、給付金は欲しい」と呼号する(ある意味で素直な)有様で、政治不信は限界に達しつつあります。更に、原子力発電所や軍事基地など、人によって賛否の意見が真っ二つに割れる争点が、国民の分断を深めています。こうした中で、(東京も国と自治体で一枚岩ではないですが)東京政府を見限った地域において、日本国家からの自立(場合によっては分離)を目指す動きが顕在化しています。それだけならば道州制・連邦制による解決が考えられますが、最も深刻なのは、所属する地域などの社会集団を単位に、人々の憎悪と不信が跳梁跋扈しているという現実です。逆に、この危機を乗り越える事ができれば、それぞれの地域を中軸とした「内発的な発展」の機会であるとも言えます。
2021/02/27 02:11
2021/02/27 02:11

 こうした情況を少しでも改善するため、東京政府は地域間の様々な政治・経済・文化交流を支援しています。かつては「緊急事態だ、対人業務を停止せよ、命を守るため家に居よ!」と強く要請していた行政が、数箇月後には「旅行に行け」と(日本人なのに何故か英語の命令文で)言い始めたのには正直…少し困惑しましたが、細菌戦の終焉により、その政策もやっと安定するようになりました。そして、日本国家の分裂を抑制したい東京政府は、まずは首都圏の地盤を固めるため、関東平野の統一政策を推進しています。パンデミック収束後、経済活動の再開に伴い、大都市圏での水利用が再び急増していますが、多摩川利根川など主要な河川は、複数の県域に越境して流れており、地域間の対立は、人が生きるのに必要不可欠な水資源の紛争を懸念させます。

2021/02/27 02:22
2021/02/27 02:23

 その中で私達は、東京と埼玉の「民間外交」を担当する事になりました。もともと姉様の教会は、北武蔵の有力な地方派閥である星川(ほしかわ)と密接な友好関係を築いており、私達と星川家は、義理の親戚として深い仲にあります。そこで私達は、埼京の水道源にもなっている見沼代用水の問題を契機とし、環境・教育・国際・福祉などに関して、地域でどのような課題解決が望まれるか、共同で探究する事になりました。

2021/02/27 02:25
2021/02/27 02:25

 感染対策で、多くの人々が密集する行事、例えば神仏に対する祭礼などができなくなってしまったのは、郷土の文化・経済に影響を及ぼしました。その復興に際し、地域の風土を改めて学び直す事も、大切な仕事です。私達の探検…それは小さな冒険であると同時に、戦災で失われつつあった絆を結い直す「和平交渉」でもあります。

2021/02/27 02:26
「…それでは、備えも整ったようですし、そろそろ参りましょうか?」
2021/02/27 02:27
「はい、行って来ます!」
2021/02/27 02:27

 玄関の扉を開け、見慣れた狭い街路に降りると、石垣の上に黒猫が居ました。この猫さんは、たまに私達の前に姿を(あらわ)すのですが、その暖かい眼差(まなざ)しは、まるで子猫を見守る親猫のようです。そして…私を産んだ後に亡くなった母・(みこと)の面影に、何となく似ているような気がします…。

2021/02/27 02:30
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登場人物紹介

【神霊矢口】とさみや じゅのうじょうだい アキラ

十三宮 寿能城代 顯

関東州 東京府 東京市 蒲田区


蠍座♏11月1日トパーズ

・一人称「私」

・二人称「あなた様

・地位 中級生?

・専攻 地理学(共生科学士)

・属性 

・武技 レーザー剣・自動小銃

・愛機 ステルス攻撃機ナイトホーク(誘導爆弾)


 十三宮聖の義弟、また星川初の養子。本名は「富田巌千代」で、宗教信仰者としての法号(生前戒名)が「アキラ」。東京の大森・蒲田で生まれ育ち、地理学などの探究に基づき文芸作品を創る「地球学(地理学文芸)作家」を称す。同人サークル「スライダーの会」を結成した会長であり、一心同体の校長(マネージャー)である春原あきらと共にサークルを運営。


「天主と神仏に感謝を、あなた様に幸福を…合掌」

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