ハンバーガーお持ち帰り

文字数 2,406文字

 なんとなくハンバーガーが食べたくなった私は、就業後自宅に程近い所に新しく出来た某有名ファーストフード店に行き、お持ち帰りをすることにした。
 店内に行って順番を待ち、私は好物の照り焼きハンバーガーセットを注文した。その際の店員の挙動に何か説明できないものを感じたものの、現金を支払ってからほどなくして商品が完成し番号を呼ばれたので受け取った。
 ハンバーガーを食べるのは久方ぶりだった。普段は身体にも悪い所謂コレステロールの塊だなんてジョガー等にも言われているやら言われていないやら、兎に角、頻繁に食べるのは健康を害する恐れがあるのでおすすめできないであろうが、偶にうずうずと食べたくなるのだ。一説には、我々は物心つくばかりのほんの子供の頃に既に、ハッピーセットなるものにより餌付けをされてしまっており、大人になってからもその刷り込みが心の奥底に残っているが為、ときおりひょんな拍子に心が我慢出来なくなるのだ、という。私はそれは屹度本当では無いかと考えているのであるが、ともあれ、所謂大企業の世にも恐ろしい洗脳マーケティングにずっぽりハマッテしまっていたとしても、今私が欲しているという欲望は紛れも無く本当の事であるので、私は私の欲望の忠実なる(しもべ)であるので、私は恥ずかし気も無く食らってやると思っているのであった。
 で、そういう気持ちで、つまり興奮はいよいよマックスであったので、私はその心持をそのままお持ち帰りの袋に向かってばりりっていう感じで恐ろしい鬼神のような勢いでばりり!っと開けてみたのであった。しかし、其処には私の期待を大いに裏切る展開が待ち受けていたのである。
 ばりり!っと袋を開けてみて中身を確認してみると、其処には凡そ照り焼きハンバーガーセットとはちっとも似ても似つかない、よく分からないものが入っていた。
 まず、肝心のメインの照り焼きハンバーガーであるが、形ばかりが似ているゴムで出来たような茶色の塊が入っていた。ほんのり暖かいが、決して食えたものではない。また、サイドメニューであるポテトであるが、此方も形ばかりが似ているゴムで出来た長細い黄色の棒が幾つも箱に入っていた。また、喉を潤すジュース、此方は私も皆も大好きだろう、炭酸飲料第一位、キングオブ炭酸であるコカ・コーーーラを頼んでいたのであるが、此方は本当に酷かった。ななんと、コカ・コーラとは似ても似つかない、カップに入ったゴムで出来た黒い塊だったのである。つまり、私は消費者として食品を購入したと思っていたのに、その実は生活に何の足しにもならないゴムを大量購入したみたいなあほになっていた。私はこの生まれて初めての展開に脳がくらくらする思いであった。
 私はそれから30分ほど、否、是は実は私の脳の方が異常で、本当はこれらはゴムでは無く食べられるものなのでは無いか?まさかファーストフード店が食えないものを消費者に提供する等あろうはずが無い、間違っているのは此方側なのではないか?等と、後から考えるとなんておめでたい頭ぱっぱらぱーなお花畑世界観だったのだろうと穴蔵に即刻ずぼ込みたいのであったが、この時はまだそんな気持ちでゴムをとりあえず噛んだり吸ったりして時を費やした。
 だがそんな私の苦労も報われず、私はいよいよもって、これは店側の明らかなる過失であると断定できたので、是はもう、断固として店に来店して苦情奉らん、という気持ちで、心持ち大股で歩きながら、眉毛はきりりと逆八の字を頑張って維持していたのである。そういう気持ちで、店内にいよいよ到着した。
 「責任者はおるか。」
 私は出来るだけ、怒っているぞアッピールをしながら、店長を待つた。
 この店の店長はそれから少しして現れた。見た目40代くらいの疲れた男であった。
 それから私は、店長に向かって件のゴムバーガーの件をまるで滝が下流に怒涛に流れるがごとくに解き放ち話した。その言葉を一つずつ噛みしめながら、しっかりと拝聴仕っていた店長は、私の話を最後まで聞いた後ゆっくりと口を開いた。
 「どうも、お客様に不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません。至急商品の方は取り換えさせて頂きまして、料金の方も返還させていただきます。」
 と言った。私はその謝罪で充分に気が済んだのであるが、しかしそれにしても過失の度合いが常軌を逸しているのが非常に気になった。そういう訳で、謝罪は受け取ったが、何故かような事態が引き起こされたのかを店長に問うた。するとこれまた意外な言葉が返ってきた。
 「実は……、本日お客様の対応をさせて頂いた店員ですが… …。彼は実は、大変申し上げにくいのですが、… …地球の者では無いのです。つまり、… …宇宙人なのです。私の自宅に程近い公園で一人寂しく野宿していたところを、まぁ身寄りも居ないということで、私が保護し、現在雇っているのです。ですので、この地球の食文化のことはおろか、日本語も最近なんとか習得できたくらいの状況でして…。しかし、本人もどうにか、壊れた宇宙船を直す為の資金を集める為に頑張っておる次第なのです…。」
 という、なんとも驚きの話なのであった。
 「…なるほど、そういう事情があったのですか。なるほど、なるほど。そりゃ、宇宙人だったら、日本語を習得するのだって中々大変であるには間違いない。そうですか、それは本当にお疲れ様です。そうかー、んじゃ、照り焼きバーガーセットを注文するのも間違ってしまうのも、そういうこともやっぱ、あー。あるかぁ。」
 「そうなんです…」
 「ってなるか!!そんな奴雇うな!!食品とゴムを間違える奴に接客させるな!仕事やぞ!」
 私はこの上なくぶちぎれて、その後、宇宙人の首根っこを引っ張ってとっ捕まえて店長の隣に座らせて、二人とも正座させた。それから心行くまで説教した。

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