1 覚醒

文字数 379文字

 長く沈んでいた昏睡から、ナイペルクは、泥から這い出すようにして、目を覚ました。
 枕元の侍従が、はっとして、顔を覗き込んだ。すぐに、部屋の外へ走り出ていく。

 間もなく、マリー・ルイーゼ……彼の妻……が、入ってきた。
 彼女の目は、赤く腫れていた。自分の部屋で、朝からずっと、刺繍をしていたのだ。


 「皇帝には、お話ししましたか?」
掠れた声で、もう、何度めかになる問いを、ナイペルクは発した。

「ええ」
妻は答えた。

 彼は重ねて尋ねた。
「皇帝は、お許し下さいましたか」

「はい」

 しばらく、沈黙が流れた。
 傍らの椅子に、マリー・ルイーゼが、腰を下ろした。

 仰向けのまま、ナイペルクは、天井を見つめた。妻の趣味で、天井には、美しい絵が描かれていた。薔薇の花の飛び散る中を、大勢の天使が飛び回っている意匠だ。
 病人(ナイペルク)は、ため息をついた。
 ……全ては、誤解から始まった。
 ……。














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登場人物紹介

カール大公

1771.9.5 - 1847.4.30

(カール大公の恋)


ライヒシュタット公の母方の大叔父。1796年の革命戦争では、ジュールダン麾下サンブル=エ=ムーズ軍、モロー麾下ライン・モーゼル軍と戦い、両軍を分断させ、勝利を収める。1809年のナポレオン軍との戦い(対オーストリア戦)の後は軍務を退き、軍事論の著述に専念する。

レオポルディーネ

 1797.1.22 ‐ 1826.12.11

(もう一人の売られた花嫁)


ライヒシュタット公の母方の叔母。皇帝フランツの娘。ポルトガル王太子ペドロと結婚する。ナポレオンの侵攻を受け、ポルトガル王室は当時、植民地のブラジルへ避難していた。ペドロとの結婚の為、レオポルディーネも、ブラジルへ渡る。

ヨーハン大公

1782.1.20 - 1859.5.11

(アルプスに咲いた花)


ライヒシュタット公の大叔父。皇帝フランツ、カール大公の弟。兄のカールに憧れ、軍人となる。

アダム・ナイペルク

1775.4.8 - 1829.2.22

(片目の将軍)


オーストリアの軍人。フランス革命戦争で赴いたオランダで片目を失う怪我を負うも、捕虜交換の形で帰国した。

ドン・カルロス

1787.初演

(「ドン・カルロス」異聞)


シラー(シルレル)の『ドン・カルロス』は、ライヒシュタット公の愛読書だった。

チャットノベルもございます

「ドン・カルロス」異聞

マリア・テレサ

 1816.7.31 - 1867.8.8

(叶えられなかった約束)


カール大公の長女。

マリー・ルイーゼ

1791.12.12 - 1847.12.17

(2つの貴賤婚)


ライヒシュタット公の母。ナポレオンの二人目の妻、かつてのフランス皇妃。ウィーン会議でパルマに領土を貰い、5歳になる直前の息子を置いて旅立っていった。以後、全部で8回しか帰ってこなかった(最後の1回は、彼が公的に死の宣告をされた後)。

エドゥアルド・グルク

1801.11.17– 1841.3.31

(画家からの手紙)


ウィーンの宮廷画家。メッテルニヒに見いだされ、採用された。グルクの死から約170年後、彼が描いた絵が、モル男爵の屋敷で発見された。モル男爵は、かつてライヒシュタット公の補佐官で、その死の床に最後まで付き添った。

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