メールに託す想い
文字数 2,989文字
次の日の朝はひどく冷え込んだの。
友達は1人、また1人と帰っていったよ。
「本当に大丈夫? ちゃんと病院に行きなよ?」
最後の彼女は確かそんな事を言ってた気がする。
しばらくして彼女が玄関から出た音と鍵を閉めた音。
そしてその鍵をドアポストに入れた音が聞こえたよ。
私は1人になった事を実感したの。
例え様の無い孤独感が悪寒さえ覚えるよ。
この病気が治せるならどんな遠い病院にでも通い詰めるの。
今日がお仕事お休みで良かったな。
とてもじゃないけどこんな調子で仕事なんか出来るワケないし…。
どんな顔で武藤さんと接したらいいの?
『ピピッ』っと体温計が測定終了を知らせた。
「39.8℃…」
・・・・・・。
体温計が示した私の体温なの。
本当に病気だったんだね。
どーりで頭も痛いわけだよ。
雪で濡れた髪を乾かさないで寝たからかな?
そーいえば化粧も落としてないの。
最悪…。
せめて洗顔してからもう1回寝よう。
そんな判断を下した自分が意外とタフに思えたよ。
明日は仕事に行きたくないな。
病院は何時に行こう?
昨日の残り物は何が有るかな?
ぼーっと考えながら洗顔を終えて、寝る前にやる日課の保湿パックシートを貼ってると…
・・・・・・。
携帯電話が目にはいった。
メールが2通届いていたよ。
送り主は昨日の忘年会メンバーからなの。
『カラダは大丈夫?』
『また宅飲みしよーね☆』
・・・・・・。
でも武藤さんからは届いてない…。
彼の顔がよぎった途端、昨日の出来事がプレイバックした。
涙がジワリと湧いてきたよ。
『あ!?』
新着メール…
武藤さんからなの!
━━━━━━━━━━━━━━━
2007年12月29日 11:24
From 武藤
Subject おはよう
今、空いてる?
会って直接話がしたいんだけどいいかな?
END
━━━━━━━━━━━━━━━
逢いたい!
顔を合わせづらいなんて気持ちはどこかへ吹き飛んだよ。
このまま終わりなんて絶対イヤだよ。
でもそれは無理な相談だったの。
気迫で洗顔とパックはしたけど熱が高くてフラフラ。
それに武藤さんには病気の事を気付かれたくなかったの。
なんかフェアじゃない気がするから…。
━━━━━━━━━━━━━━━
2007年12月29日 11:42
From 藍苺
おはようございます
すいません今は無理です。
メールでなら大丈夫です。
送 信
━━━━━━━━━━━━━━━
自分で読み返してもカワイくないメールだよ。
まるで『会いたくない』って言ってるみたいだよ。
でも他に何て打てばいい?
私はうすうす気付いてたよ。
このメールのやり取りが途切れた時…
それが私と武藤さんの関係の終わる時だと。
━━━━━━━━━━━━━━━
2007年12月29日 12:32
From 武藤
Subject 伝えたい事がある
メールだとお互いに誤解を広めそうだから出来れば避けたかったんだけど。
早く伝えなければならない大切な話だから。
俺は藍苺の事が好きだよ。
もし、幸恵より先に君と出会っていたら違う人生もあったかも知れないとそう思うくらいに。
でもね。
俺が1番に愛しているのは娘の千夏なんだ。
流石に目の中へ入れたら痛いかもしれないけど。
でも我慢出来るかもしれないって勘違いしちゃうくらいに彼女を愛してる。
彼女にとってマイナスになるかもしれない事を俺は選択出来ない。
俺は藍苺の気持ちに応えられない。
END
━━━━━━━━━━━━━━━
最低なメールだよ。
全部娘さんの為?
100年の恋も一瞬で冷める様なメールだよ。
でも…
私は長い夢から醒めた様な気持ちで武藤さんと過ごした時間を思い出していたの。
━━━━━━━━━━━━━━━
2007年12月29日 12:41
From 藍苺
Subject Re:伝えたい事がある
それじゃあどうして私を抱き締めたの?
一度は私を受け入れてくれたのに!
送 信
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武藤さんが私を抱き締めてくれたのはきっと本心なんだよ。
間違いなく彼は私を愛してくれてる。
なのに…
私は彼の大切なものを壊そうとしたんだよ。
千夏ちゃん…。
武藤さんの大切な一人娘の千夏ちゃん。
2人で飲みに行った時も必ず話題に出てたよ。
武藤さんは不倫を絶対しない。
私は知ってたんだった。
知ってたのに。
奥さんの悪いトコロばかり気にして…
自分こそ武藤さんの奥さんに相応しいって大きく勘違いしてたの。
千夏ちゃんの事なんて全く頭に無かったよ。
冷静になれば簡単な事だったの。
私は…
告白のタイミングも方法も最悪だったんだ。
携帯の時計は13時41分になってる。
私がメールを送ってから1時間が過ぎたよ。
武藤さんからの返信はまだ送られてこないの。
なんであんなメールを送っちゃったんだろう。
答えなんかわかってるのに。
武藤さんはきっと言葉を選びながら一文字ひともじ紡ぎながらメールを打っているの。
打っているかな?
打っているよね?
漠然とした不安は根拠の無い確信へと変わる。
このメールのやり取りが途切れた時…
私と武藤さんの関係が終わる時。
もうなりふり構ってる場合じゃないよ。
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2007年12月29日 13:52
From 藍苺
Subject Re:伝えたい事がある
武藤さん私の部屋に来て
お願い
熱が下がらなくて身動きがとれないの
たすけて
送 信
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返信はすぐに届いたよ。
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2007年12月29日 13:54
From 武藤
Subject Re:Re:伝えたい事があ
すぐいくよ
END
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短い文章。
たったの5文字の言葉には武藤さんの優しさが溢れている気がしたの。
普通は来ないよ。
武藤さんは私の為にここへ来るの。
・・・・・・。
ここに来る?
・・・・・・。
準備しなくちゃ。
昨日から着たままの服も下着も汗でグショグショなの。
化粧は…
バッチリ出来てたらオカシイよね?
布団は直さないと。
やりたい事はたくさんあるケド…
カラダも頭も重たくて思う様に動かないの。
そうだ…
武藤さんに会ったら何て話そう。
こんにちは?
ありがとう?
ごめんなさい?
メールの事は何て言い訳する?
熱のせいか考えがまとまらないの。
友達は1人、また1人と帰っていったよ。
「本当に大丈夫? ちゃんと病院に行きなよ?」
最後の彼女は確かそんな事を言ってた気がする。
しばらくして彼女が玄関から出た音と鍵を閉めた音。
そしてその鍵をドアポストに入れた音が聞こえたよ。
私は1人になった事を実感したの。
例え様の無い孤独感が悪寒さえ覚えるよ。
この病気が治せるならどんな遠い病院にでも通い詰めるの。
今日がお仕事お休みで良かったな。
とてもじゃないけどこんな調子で仕事なんか出来るワケないし…。
どんな顔で武藤さんと接したらいいの?
『ピピッ』っと体温計が測定終了を知らせた。
「39.8℃…」
・・・・・・。
体温計が示した私の体温なの。
本当に病気だったんだね。
どーりで頭も痛いわけだよ。
雪で濡れた髪を乾かさないで寝たからかな?
そーいえば化粧も落としてないの。
最悪…。
せめて洗顔してからもう1回寝よう。
そんな判断を下した自分が意外とタフに思えたよ。
明日は仕事に行きたくないな。
病院は何時に行こう?
昨日の残り物は何が有るかな?
ぼーっと考えながら洗顔を終えて、寝る前にやる日課の保湿パックシートを貼ってると…
・・・・・・。
携帯電話が目にはいった。
メールが2通届いていたよ。
送り主は昨日の忘年会メンバーからなの。
『カラダは大丈夫?』
『また宅飲みしよーね☆』
・・・・・・。
でも武藤さんからは届いてない…。
彼の顔がよぎった途端、昨日の出来事がプレイバックした。
涙がジワリと湧いてきたよ。
『あ!?』
新着メール…
武藤さんからなの!
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2007年12月29日 11:24
From 武藤
Subject おはよう
今、空いてる?
会って直接話がしたいんだけどいいかな?
END
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逢いたい!
顔を合わせづらいなんて気持ちはどこかへ吹き飛んだよ。
このまま終わりなんて絶対イヤだよ。
でもそれは無理な相談だったの。
気迫で洗顔とパックはしたけど熱が高くてフラフラ。
それに武藤さんには病気の事を気付かれたくなかったの。
なんかフェアじゃない気がするから…。
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2007年12月29日 11:42
From 藍苺
おはようございます
すいません今は無理です。
メールでなら大丈夫です。
送 信
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自分で読み返してもカワイくないメールだよ。
まるで『会いたくない』って言ってるみたいだよ。
でも他に何て打てばいい?
私はうすうす気付いてたよ。
このメールのやり取りが途切れた時…
それが私と武藤さんの関係の終わる時だと。
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2007年12月29日 12:32
From 武藤
Subject 伝えたい事がある
メールだとお互いに誤解を広めそうだから出来れば避けたかったんだけど。
早く伝えなければならない大切な話だから。
俺は藍苺の事が好きだよ。
もし、幸恵より先に君と出会っていたら違う人生もあったかも知れないとそう思うくらいに。
でもね。
俺が1番に愛しているのは娘の千夏なんだ。
流石に目の中へ入れたら痛いかもしれないけど。
でも我慢出来るかもしれないって勘違いしちゃうくらいに彼女を愛してる。
彼女にとってマイナスになるかもしれない事を俺は選択出来ない。
俺は藍苺の気持ちに応えられない。
END
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最低なメールだよ。
全部娘さんの為?
100年の恋も一瞬で冷める様なメールだよ。
でも…
私は長い夢から醒めた様な気持ちで武藤さんと過ごした時間を思い出していたの。
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2007年12月29日 12:41
From 藍苺
Subject Re:伝えたい事がある
それじゃあどうして私を抱き締めたの?
一度は私を受け入れてくれたのに!
送 信
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武藤さんが私を抱き締めてくれたのはきっと本心なんだよ。
間違いなく彼は私を愛してくれてる。
なのに…
私は彼の大切なものを壊そうとしたんだよ。
千夏ちゃん…。
武藤さんの大切な一人娘の千夏ちゃん。
2人で飲みに行った時も必ず話題に出てたよ。
武藤さんは不倫を絶対しない。
私は知ってたんだった。
知ってたのに。
奥さんの悪いトコロばかり気にして…
自分こそ武藤さんの奥さんに相応しいって大きく勘違いしてたの。
千夏ちゃんの事なんて全く頭に無かったよ。
冷静になれば簡単な事だったの。
私は…
告白のタイミングも方法も最悪だったんだ。
携帯の時計は13時41分になってる。
私がメールを送ってから1時間が過ぎたよ。
武藤さんからの返信はまだ送られてこないの。
なんであんなメールを送っちゃったんだろう。
答えなんかわかってるのに。
武藤さんはきっと言葉を選びながら一文字ひともじ紡ぎながらメールを打っているの。
打っているかな?
打っているよね?
漠然とした不安は根拠の無い確信へと変わる。
このメールのやり取りが途切れた時…
私と武藤さんの関係が終わる時。
もうなりふり構ってる場合じゃないよ。
━━━━━━━━━━━━━━━
2007年12月29日 13:52
From 藍苺
Subject Re:伝えたい事がある
武藤さん私の部屋に来て
お願い
熱が下がらなくて身動きがとれないの
たすけて
送 信
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返信はすぐに届いたよ。
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2007年12月29日 13:54
From 武藤
Subject Re:Re:伝えたい事があ
すぐいくよ
END
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短い文章。
たったの5文字の言葉には武藤さんの優しさが溢れている気がしたの。
普通は来ないよ。
武藤さんは私の為にここへ来るの。
・・・・・・。
ここに来る?
・・・・・・。
準備しなくちゃ。
昨日から着たままの服も下着も汗でグショグショなの。
化粧は…
バッチリ出来てたらオカシイよね?
布団は直さないと。
やりたい事はたくさんあるケド…
カラダも頭も重たくて思う様に動かないの。
そうだ…
武藤さんに会ったら何て話そう。
こんにちは?
ありがとう?
ごめんなさい?
メールの事は何て言い訳する?
熱のせいか考えがまとまらないの。