第23話 クローブ、初めてのダイブ

文字数 1,029文字

シナモンとナツメグが怪我をしている。全身すり傷だらけ。


バイトで解体工事をした際に、建物倒壊に巻き込まれたという。


お金のためとはいえ、危険な仕事はやめた方がいいんじゃない?
親から仕送りしてって頼まれているんだもん。

奨学金ポイント、親の借金返済で使っちゃったし。

私も同じだ、仕送りが必要なんだ。

妹と弟の学費がかかる。

でも、万が一、後遺症が残ったりしたら……
ナツメグの家は、ウチより大変なの。お父さんがアル中で酒乱で暴れるんだから。


ナツメグの奨学金ポイントの前借りと、バイト収入、それから身体の弱いお母さんのパート収入で生活しているんだもの。

クローブはその夜、流氷下にダイブし、明文化されていない『自治体ルール』に潜入した。



次の日、クローブは図解した資料を見せながら、ナツメグに説明する。

選挙でソルト市長が選ばれたでしょ?

ソルトは『芽吹きライン』と『矯正施設』の連携を構想中、新年度に稼働させる計画を立てている。


『芽吹きライン』っていうのは、危険思想の持ち主、依存症患者や精神疾患患者の通報窓口のこと。

『芽吹きライン』で通報された人間の脳をスキャンして、問題が認められれば『矯正施設』へ収容される流れよ。犯罪防止のためにね。


ソルト市長は、『芽吹きライン』の試運転をしたがっている。ダイブしてわかったの。

……通報?
ナツメグは「父親が、DV、アルコール依存症患者で困っている、助けて欲しい」と、市のホームページ『ソルト市長へのご意見箱~芽吹きライン~』にメールするのよ。

念を入れて、私も近所の人の声として、口裏合わせにメールするわ。


きっとソルト市長は実績作りのために、スムーズに『矯正施設』送りにするはず。

その間に、被害者家族はシェルターに避難できるのよ。

そんなに、上手くいくかな……
私が『自治体ルール』にダイブして、タイミングを図る。裏から工作するから心配しないで。


これが現状でのベストだと思う。

あ……私、もう頑張らなくてもいいんだ。
うん。SOSを出していい。


嫌な言い方だけど、父親を見捨てた方がいい。

でも、あんなでも一応親だし、育ててもらった恩があるし……
なに言ってんのナツメグ!


お父さんの代わりに、ナツメグがずっと働いてきたじゃない。

そうだよ、恩返しはとっくに済んでいるぜ。


鶴じゃあるめーし、もう恩とか考えるな!

鶴って?
『鶴の恩返し』っていう昔話、あるじゃねーか。


サンショウはバカの癖に眼鏡かけやがって。

てめえ、ヤンキー女、おまえも『芽吹きライン』に通報するぞ!
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