第1話

文字数 1,603文字

 NITRODAYの新作「少年たちの予感」は、それまでの彼らと比べ大きく変化を遂げた一枚となった。ninoheron氏をフューチャーし大胆にラップを取り入れた「ブラックホール」、彼らの代名詞でもある”轟音”を封印し、ほぼ全編クリーントーンでツインヴォーカルを前面に出した「ダイヤモンド・キッス」を聞くとその変化が分かりやすいが、今までの彼らの面影をまだ残している「ヘッドセット・キッズ」と「アンカー」の2曲においても大きな違いが見られる。それはギターサウンドだ。これまでの彼らの轟音を担ってきたのはパワーポップ直系の粒立ちの粗い、音割れ直前のブッといファズのかかったギターであったのだが、今作でのギターはキメの細かくハイファイなディストーションで全編貫かれている。これが影響してか、今作を聞いたときの第一印象は「音がクリアになった」というものであった。
 この「クリアになった」という印象は、ジャケットの画像からも読み取れる。今までのジャケットにおいては、画素が粗かったり対象がブレ・ぼかされていたりと、どこか抽象的・動的なイメージを表現していた彼らであるが、今作のシンプルなヘッドフォンのジャケットは、洗練された・静的なものである。これがどういう変化を表すのかは様々に考えられるが、バンドが今までとは違っていることを強く主張しているのは間違いない。
 一方で、変わらないままの部分も残っており、その最たるものは歌詞であろう。さまざまな言葉に形を変えて表現される、現状へのやり場のない不満を噴出させる歌詞は本作の大きな特徴となっている。少年であるからこそ切実に感じられるこの不満は今までにも表現されてきたが、スピードを上げて走り出したいと願い、走り出している今だからこそその思いはより強く叫ばれている。新たな4曲をリリースし、いつもと違う予感をリスナーと本人たち両者が感じていてもなお、NITRODAYは四人の目指す場所にたどり着けていないという思いがひしひしと伝わってくる。
 今作で私が最も好きな曲は1曲目の「ヘッドセット・キッズ」である。単純に突き進むように聞こえて実は複雑に練られている曲構成と、アルペジオや空間系エフェクトを駆使した多彩なフレーズを繰り出し、曲に色を付けていくギターが特徴的だ(こういったギタープレイができるようになったのも、ギターの音作りがクリアになったからこそと言える)。中でも1分50秒あたりの全員でブレイクをキメている部分、そしてその後の「悲しい顔も 吐き捨てた唾も」と歌われる時の休符に打ち込まれるスネアがたまらない。この曲を聞いている3分間の間は、何とも言えない全能感、無敵感に包まれる(もちろん、そんな簡単にはいかないのだが)。
 「ヘッドセット・キッズ」の歌に出てくる「ピンカートン」とはウィーザーの2ndアルバムで、発表当時は問題作とされた作品である。ここで疑問なのは、NITRODAYにとっての今作がウィーザーにとっての「ピンカートン」と同じような位置づけになることを、バンドは自覚して、はたまた目論んでいるのだろうか?ということだ。明らかに以前とは異なる作風を見せた今作は驚きをもって迎えられるであろうし、バンドは今までのファンが考えていた方向とは別の方角に動き出したのかもしれない。しかし、「ピンカートン」を通過したウィーザーが名盤を出し続けたように、NITRODAYも今作を経て更に成長を続け、名盤と呼ばれる作品を作ってくれるであろう。いやむしろ、"ウィーザーのように"ではなく、独自の道を突き進んで欲しいとも思う。
 ヘッドセットには何かを聞くヘッドフォンだけでなく、何かを伝えるマイクも付属している。彼らはそのヘッドセットで何を聴き、何を語りかけてくれるのか。今作をじっくり聞きながら、今後のNITRODAYに注目していきたい。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み