第25話

文字数 696文字

「さ、これで最後です」
 3人が見守る中、緊張で動きがひどく鈍った頭を叱咤しどうにか働かせながら、依里子は必死に書類を読み、掌の汗を何度も拭い、署名を繰り返した。最後のほうは何だか頭がぼうっとしてしまって文字が頭にまともに入ってこなかったが、ようやく最後の書類を読み終えて署名し終える。その瞬間、壁の時計が正午の時を告げた。

「はい、できました」
「お疲れ様でした。これで、こちらでの手続きは完了です。あ、ついでに、あなたのアパートの契約解除手続きもしましょうね」
 こちらを、と、いつの間に用意したのか、差し出された書類に、今度こそ最後の署名をする。弁護士はそれを見て満足げに頷き、
「後は、私が書類を関係省庁に持って行き手続きを依頼します。正式承認までは1ヵ月はかかるでしょうが、ここまで来たら、受理されないことはまずありません。あと1ヵ月で、あなた方は晴れて正式な成人後見制度適用となります」
と言った。

 1ヵ月。お役所というやつは本当に悠長よね―。心の中で悪態を吐きながらも、依里子は解放感で全身の力が抜けていくのを感じ、椅子の背にぐったり体を預けた。ここまで来れば後見人になったも同然。後見人になってしまえば、こっちのもの。
 ああ、ついに…。

「ああ、ついにやったわ」

 え? 自分がそう思ったのとほぼ同時にそんな声がして、依里子は目を見開いて、居住まいを正した。声の主は、これ、間違いなくばあさんよね? どういうこと? 私の考えを見抜いたってこと? そおーっと、視線を彼女のほうに向けると、貴禰もまた依里子を見やっており、目が合うとにんまりと微笑んで言った。

「後見人にしてしまえば、こっちのもの」
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