第百十話

文字数 10,184文字

/*** カズト・ツクモ Side 少しだけ時間は戻ります ***/

「ツクモ様。ユーバシャール街に潜入していた者から報告が上がってきました」
「無事だったのだな」
「はい。潜入した者や商隊にまぎれていた者総て無事です」
「そうかよかった。それで?」

 シュナイダー老は報告としてまとめられた物を提出してくれた。

 読み込んでいるうちに笑いそうになってしまった。
 前世でよく聞いた話が書かれている。

「ツクモ様」
「わるい。それで、どっちがサラトガに・・・いや、今はミュルダに向かっているのだったな?」
「出来の悪いほう二人です」
「はぁ・・・やっぱりな、それで?」

 ユーバシャール街では、後継者問題で街を三分する状態になっている。
 4対4対2の状態だが、やっている本人たちは、4対6のつもりで自分たちが優位になっていると思っているようだ。

 そして、来ているのは”4”を率いている、バカ息子二人だ。二人が牽制しあって、配下の者を引き連れて街を出た。アンクラム方面に向かわなかったのは、自分が石壁で足踏みしている間に、相手が交渉して俺たちを支配下に置かないようにと牽制しているからだと報告でまとめられている。

 いろいろ突っ込みたいがとりあえずは、自分たちが交渉すれば”支配下”におけると考えているあたりが度し難い。

 馬鹿二人は放置でいいとして、ミュルダからペネムに有るSAやPAでは入場規制してもらおう。中に入れる価値も無ければ意味もない。野営で糊口をしのいでくれ。偉そうにしている奴らにSAもPAも使わせてやる義務は俺たちにはない。

 影武者を使った圧迫会談が決定した。

 それで肝心のユーバシャール街への対応だが、話は簡単だった。
 現領主・・・いや元領主は、後継者を決めないまま急死した。それが、吸血族への圧迫に繋がった。バカ息子二人は、自分の手駒を増やして、相手への牽制に利用しようとしていたのだ。一事が万事、兄弟での争いになっている。俺たちへの対応も同じだ。

 ユーバシャール街に残っている息子は末弟だという話だが、1番優秀だと書かれている。
 アンクラム街・・・正確にはペネム街なのだが・・・()()恭順をいい出して、二人の兄によって屋敷に幽閉されているらしい。

 俺たちは、バカ二人がミュルダからペネムに来ている時間を利用して、ユーバシャール街を第三の男に掌握させるように動いた。

 そのために、、ミュルダ老とリヒャルトとヨーンとリーリアとクリスとルートガーとエリンを武装して送り出す。他にもイリーガル種のエントとドリュアスを完全武装させて送り出す事に決まった。ミュルダ老とリヒャルトは、ユーバシャール街を掌握した末弟が、本当にペネム街に恭順する意思が有るのかを確認する。確認した上で、どういった条約にするのかを詰めるためだ。
 俺が望んだのは、”敵対しない事”だけだ。あとは、出来たら、魔の森に行く為の後方基地としての役割を果たして欲しい。魔の森周辺には集落がなく、湿地帯の集落が使えなくもないが、補給を考えると、湿地帯では馬車の移動が制限されてしまう上にやはり魔物が多くなってしまっている。一つの集落で養える冒険者の数も限られているので、やはり基地としては、ユーバシャール街が都合がいいと考えている。

 後、大きな街が二つ存在している。両方共、別の大陸に向かう為の港が作られている街だ。
 この地球?で1番大きな大陸に向かう為の港がある”パレスケープ”。もう一つが、エルフ族が多く住む全土が小山と森で形成されている大陸に向かう為の港がある”パレスキャッスル”。
 ユーバシャール街からの圧力に屈した二つの街は、ペネム街(アンクラム街とサラトガ街とミュルダ街だと思われているようだが)に対して、入場規制や関税などの処置を行う事を宣言している。
 リヒャルトがこの二つの街を第三の男を率いて巡って、今後の関係をどうするのかを問いただす事になった。

 半年に渡る大行程だが、ワイバーン便を始め連絡が比較的付きやすいためにできる荒業でもある。クリスの従者たちが大活躍している。
 ワイバーンも繁殖を開始したが、まだ暫くは現有戦力で激務にあたってもらう事になっている。
 神殿区で生活をしていた子どもたちも心が癒やされてきた者が出てきて、ワイバーンの繁殖やバトルホースの繁殖を手伝い始めている。今後、伝令や物資の輸送で活躍してくれることだろう。

 最初、ユーバシャール街やパレスケープ街やパレスキャッスル街にも俺が出向くと言ったのだが、シロ以外の全員から反対された。フラビアやリカルダにも控えめながら反対された。したがって、ユーバシャール街への使者に俺は加わっていない。

 ペネム街の行政区で、バカ二人を相手する事に決っている。
 バカ二人の情報も徐々に集めている。積極的に集めているわけではないが、サラトガ-ミュルダの過程でやらかした事への苦情に付随した情報提供で勝手に集まってくる。
 ミュルダ区での苦情の件数は、両者合わせて20件にものぼる。
 伝令が自由区まで来て欲しいと伝えると、散々悪態を付いていたらしい。二人とも、スキルカードを持っているためなのか、高級宿屋に泊まったのだが、やれあっちの方が調度品が豪華だとか、提供された肉があっちのほうが大きいなど馬鹿らしい苦情を永遠と宿屋に言っているようだ。そこまで仲が悪いのなら別行動すればいいのに、それはそれで気に食わないらしい。難儀な性格をしている。

 バカ二人は、順調に問題を起こしながら、ペネム街に向かっている。
 何もしなくても苦情という名前で情報が上がってくる。SAとPAの事を聞いたのだろう。最初に入られないと揉めたようだ。これは想定範囲内。ミュルダ区に近いSAとPAには身分証が無い為に入区を断る旨を説明させた。自分たちの身元は、確かだユーバシャール街に問い合わせろといい出したので、交流がない街の為にそれは出来ないと突っぱねる。
 次男のバカが、賄賂を出してきた。これも予想通り・・・そのために、買収容疑で捕らえられたくなかったら引っ込めろと忠告して追い出す。今度は、何を思ったのか夜中に街に忍び込もうとしたり、他の商隊に混じって入ろうとしたり、あらゆる方法を試してくれている。SAやPAの訓練になってよかった。

 一つの場所で拒否されても、次のPAで同じことを繰り返す。
 学習能力というのが欠落しているが、想像力がまったく無いのかどちらかだろうと思えてくる。

 どちらかが先に試した方法でも、自分なら上手くできると思っているのか、同じ手法を使ってくる。取り巻きの連中も同レベルなのか、止めるような気配がない。

 通常なら1週間もあれば到着できる距離を、倍の時間をかけて到着しそうだ。
 今バカ二人は最後のSAの前で野営をおこなっている。食料が乏しいのか、街道を行く商隊から買っている。通達が行き渡っているのか、街道で野営しているのは、SAやPAに入られない問題がある者たちという認識が行き渡っているのか、かなり高めの値段設定で買わされている。

 シロも、フラビアも、リカルダもスキル操作に慣れてきて普通に生活していても違和感が無いくらいになっている。
 俺に至っては、パラレルで影武者カズトを操れるようになってきた。試しに、2体目を操作してみたがリーリアの様に上手く出来なかった。悔しいので、密かに練習する事を誓った。

 バカ二人は、早ければ明日。遅くても明後日には自由区にたどり着くようだ。

 ミュルダ老からの連絡で、既にユーバシャール街はペネム街に恭順の意思を示している。
 バカ二人に帰る場所がなくなっているのだ。今、ペネム街の使者たちは、パレスキャッスルに向かっている。予定では、明日にも到着する事になっている。
 そして、昨日あたりから、ユーバシャール街から捕縛された者たちがペネム街に護送されてくる。バカ二人に与していた商人や冒険者たちだ。
 使者だと言っているのに、宿を急襲したり、ユーバシャール街の現領主と会談している最中に割って入ろうとしたり、エリンの事をよこせと言ってきたり、ようするにバカの部下はバカだって事を証明しただけだ。
 他にも現領主が領主の館で見つけた犯罪のもみ消しのメモを見て、被告不在だがバカ二人はユーバシャール街からの追放が決まった。妻たちや子どもたちもだ。子供に関しては、俺の独断で10歳未満は神殿区で過ごしてもらう。10歳以上15歳未満は自分の意思で冒険者になるなり、俺に復讐を誓うなり好きにさせる事にした。15歳以上の男子は、実験区送り女たちは、元吸血鬼たちが住んでいた場所で優雅に過ごしてもらう事にした。
 ユーバシャール街に残されたバカ二人の支持者たちは一掃された。確実に罪有る者たちは、裁判で死刑を言い渡されて、斬首された。首は、ユーバシャール街でさらされてから、自由区に送られてくる手はずになっている。

「さて、シュナイダー老。どこでバカ二人と会うのがいいと思う?」
「ツクモ様。バカ二人って・・・確かに、バカでしょうけど・・・会談場所ですが・・・圧迫会談にするのだろ?」
「そうだな。明日には、ユーバシャール街・・・区?から、首が送られてくるからな、飾ってやらないとならないからな」
「??あぁそうじゃない。室外の方がいいと思うのじゃが?いっその事、竜区でやるのはどうじゃ?」

 シュナイダー老が言っている竜区は、ヒルマウンテンにある竜族の住処ではない。
 地上行政区の隣に作っている、ワイバーンや竜族の発着場の事を指している。ワイバーンの繁殖は、ダンジョン内でおこなっているが、発着場としては、地上に作っている場所から行う事にしている。

「迎賓館ではダメか?」
「・・・えぇ儂もだが、多くの者が反対しておる」
「反対?」
「ツクモ様。迎賓館は、ペネム街が”招いた”客やツクモ様に謁見する場所じゃ。そこに、招かれざる客が入るのは好ましくないという事じゃ」
「わかった・・・少し考える」

 一礼してシュナイダー老が執務室から出ていく。
 部屋には、シロだけが残る格好になった。

「シロ。どうおもう?」
「私にはわからないですよ。でも、わざわざカズト様がお会いになる必要はないと思います」
「どういう事?」

 シロがあくまで自分の考えであり、アトフィア教で同じ状況になったときの対応だと教えてくれたのことは、無慈悲の一言だ。
 捕らえて首をはねるか、ユーバシャール街に送り返す。バカ二人はそれだけの事をしているのだと、かなり憤慨しながら語っている。
 シロが、ペネム街の事を自分たちがバカにされているのかと思うくらいに憤慨しているのを見て嬉しくなってしまった。

「カズト様?」
「あぁすまん。シロが可愛くて魅入ってしまったよ」
「かっかわいい・・って、カズト様。僕は、そんなんじゃないです。それよりも・・・そうだ。どうされるのですか?」

 明らかに動揺しているけど、シロらしいと言えばシロらしい。

「そうだな。もうそろそろ到着して一悶着していそうだからな」
「はい」

 竜区か・・・それが1番安全だよな?
 商業区からも自由区からも適度に離れていて、住民が足を運ばないからな。

「やっぱり、竜区かな?」
「お会いになるのならそれがよろしいかと思います」

 もう、もとのシロに戻ってしまった。
 最近、立ち直りが早いよな?何か有ったのか?それとも、何か心境の変化か?

「わかった、シロ。スーンに連絡して、竜区に”謁見の間”をセッティングさせてくれ」
「はい!」

 執務室から出ていこうとするシロを慌てて呼び止める。

「シロ!」
「え?そうでした」
「まだ慣れないのか?」
「そうですね。身体を動かしたほうが早いと思ってしまいます」
「それでもいいけど、慣れろよ」
「はい」

 シロが俺の横に戻ってきて、スーンに念話で伝える。
 スーンから、シロとフラビアとリカルダに俺からの指示を伝えられるときには”できるだけ念話でお願いします”と言われている。せっかく念話が使えるようになったのに使わないのは、俺に失礼とか言っていた。

「カズト様。スーン殿から、わかりましたと連絡が有りました。準備をしていたので、10分ほどで整うそうです」
「わかった。バカ二人は?」
「それも、スーン殿が補足していまして、あと1~2時間で自由区に到着する見込みだという事です」
「ありがとう。シロ。影フラビアと影リカルダに竜区に来るように伝えてくれ、シロも影シロで向かってくれ」
「はい!」

 俺のほうが先だろうから、いつものように寝室に入る。
 メイドのドリュアスに、影武者カズトを準備してもらう。この準備に10~20分位かかる事がある。理由はなんとなく察しが付くが聞かないほうがいいだろうという結論になっている。

 準備が出来たようだ。はじめの頃は気が付かなかったのだが、スキル記憶を付けた魔核で、操作していなかった記憶を抜く事にしている。記憶を残していると、操作しているときに、記憶がフラッシュバックする事があるのだ。その記憶をシロが見て顔を真っ赤にしてうずくまってしまったほどだ。そのためにも、記憶を抜く事にしている。

 操作を開始した。
 本体は、目をつぶってベッドに横になる。慣れてきているのでパラレルでも大丈夫だけど、今日は謁見の間でバカ二人と会うので、しっかりとした対応の為に横になって操作する事にする。

 俺が操作を開始してから、すぐにシロが部屋に入ってきた。俺が寝ている横で自分も横になり、布団をかける。一緒に本体カズトにも布団をかけてくれる。操作の同調を高めていくと、本体の感覚も徐々になくなってくる。
 今は、ほぼ影カズトの中に居る感覚になっている。シロにそれを告げておく。
 そうしたら、シロも影シロとの同調を高めてやってくるはずだ。

「シロ。先に行っているからな」
「っはい。すぐに準備します」
「あぁ気にしなくていい。バカ二人が到着するまでにくればいいからな」
「・・・」
「それよりも、しっかり同調してから来てくれよな」
「はい!カズト様。ほぼ全部ですか?」
「あぁ戦闘になるかもしれないからな」
「・・・わかりました!」

 シロから、フラビアとリカルダにも話が通るだろう。

 竜区に到着した。
 スパイダーの糸で編み込まれた絨毯が敷いてある。スーンが連絡したのだろう、獣人たちもフル武装で揃っている。竜族も竜形態で鎮座している。空を見ると、普段は居ないのに、今日は竜族が空を飛んでいる。

 俺が座る椅子が用意されている。
 影シロは、俺の座る椅子のすぐ横に立つようになる。玉座に、もう一つ椅子を用意するという話も有ったのだが、そうなると、影シロが正妃となってしまうという事で、この話はなしになった。

 影カズトを、玉座に座らせる。10分位遅れて影シロと影フラビアと影リカルダが現れて、影シロが俺のすぐ横に立ち、影フラビアと影リカルダが俺たちと謁見者の間に立つ事になる。

 スーンが俺から1番近い配下の位置に居て、配下のトップであると印象づけされる。そこから、あとは本人たちの希望を聞きながら並んでもらっている。獣人族とエント/ドリュアス/行政官たちと二つに分かれて並んでいる。
 竜族は、その後ろに鎮座している状態になる。かなりの威圧感が有る状態だろう。

 そして、今回だけの特別出演が、入り口の門近くに実験区から連れてきた者たちだ。
 全員全裸になっている。スパイダーの糸で縛り上げて、地面に立たせている。その者たちが手に持っているのが、ユーバシャール区から送られてきた犯罪者たちの首だ。女には男の首を、男には女の首をもたせている。最初は台に乗せていたのだが、切り方が雑なのか安定しないと報告が来て、今のような形になった。実験区の者たちには協力してくれたお礼に最後まで首を落とさないでいたら、”殺してやる”事にしている。

 俺たちの準備ができた所で、自由区前で悪態をついていたバカ二人を中に呼び込む。

 それほど距離が離れていないためか、バカの声がよく響く。

・なぜ、コイツと一緒なのだ?代表は、俺だ!
・俺が代表だから、俺だけで十分だ。
・ユーバシャールに従うのなら許してやる。俺たちは数万の兵が居る!
・スキルカードと女を差し出せば許してやる。
・どこまで行く
・代表は誰だ!

 はっきり言おう
 馬鹿確定。そして、確実に愚か者だろう、最低でも今から会う者の名前位は調べておけ、お前たちの末弟は俺の事を知っていたらしい。名前だけらしいがそれでも、二人の兄よりは数万倍ましだ。

 バカ二人はそれぞれ100名の従者?が居て、その他に、商人が50名くらい従っている。合計で252名の大集団になっている。バカ二人は、街道では馬車に乗っていたと言っていた。200名はそれぞれ武装しているが、品質はペネム街で売られている物から見て、1段か2段階ぐらし下のものらしい。50名の商人は利益を求めてきたのだろう、従者や奴隷を連れていると報告があったが、従者や奴隷は謁見の間には連れてこないように伝達している。護衛だけは許しているので、人数が膨れ上がっているようだ。

 謁見の間のまえでは、スキルカードや武装の解除を行うのだが、バカ二人はそんな一般的な知識も無いようだ。
 自分たちが偉いと思っているのか、そのまま押し通ろうとしている。

「よい。通せ。使者殿?もし、スキルカードの発動や武器に手をかけた時には、こちらとしても容赦はできない。それで良いのなら入って来られよ」

 偉そうな言葉遣いでのロールプレイを頼まれている。最初、自分の事を、”朕”と呼べと言われたが、”予”で勘弁してもらった。
 シロも、”(わらわ)”と呼ぶように皆から言われていた。

 何気に、俺とシロが1番疲れる役どころ何だよな。
 ヨーンなんて楽しんで武装していたからな。言葉遣いも乱暴な感じでOKをもらっていたし、スーンはいつもどおりだし、シュナイダー老を筆頭に行政官たちもほぼいつもどおりだ。俺に呼びかける時だけ、”陛下”と呼ぶようにしているだけだ。

 この世界・・・国の概念がないと言っていたけど、あるよな?絶対に?陛下って国王に向かっての呼びかけだよな?

 ご都合主義だって事で納得しておくことにしよう。

 実はこのロールプレイで1番喜んだのが、話を聞いたクリスだった。すごく見たがったので、こっちに残っているクリスの従者がスキル記憶を付けた魔物で撮影をすると言っていた。

 余談はこのくらいにして、入ってきた奴らを観察しよう。
 あぁダメだな。利権で繋がっていた商人は、全裸で首を持った者たちを見て腰を抜かしそうになっている。実際に座り込んだ者も居る。親しい者の首でも見つけたのだろうか?実験体に掴みかかろうとした者も居たが、防壁と結界で守られているので近づくこともできないでいる。

 案内をしているエントとドリュアスが何も言わないでどんどん先を歩いている。
 最初は、横幅いっぱいに広がっていたバカ二人の集団が徐々に狭まってこじんまりした集団に成り代わっていた。

 謁見の間は、竜区の広場に作られた場所だが、壁しか存在しない。天井はない場所だ。
 全員が入った事を確認して、謁見の間の扉が閉められた。わざと大きな音を出して閉めるように言ってある。扉が閉じられた事で、一斉にバカの集団が後ろを振り向く。そして、絶望的な表情を見せる。
 扉が閉められたときに、実験体には声を・・・うめき声を出すように命じている。しっかりできた者には褒美で食事を与えるように言ってある。心からのうめき声は人の心を揺さぶるには丁度よい。バカ二人とも震えているのがわかる。

 獣人族も持っている剣や槍を床に叩きつけて威嚇音を出している。

 武装しているエントやドリュアスも同じだ。静かなのは、竜族と行政官と俺と影シロと影フラビアと影リカルダだけだ。

 案内していた執事(エント)メイド(ドリュアス)が所定の位置まで到着した。
 バカ二人も俺の前まで来た。俺がまだ成人間もない年齢だとやっと気がついたのだろう。少しだけ元気を取り戻す。

 案内していた二人が俺に一礼して謁見の間から出ていく。再度扉が音を立てながら閉まっていく。
 扉が閉まったら今度は静寂に包まれる。

 スーンが一歩前に出て、
「陛下。ユーバシャールからの使者を騙る者たちです」
「おかしいな。予の所に、ユーバシャールが恭順する旨の書簡が届いているな。領主の印まで届いていたな」
「はっ従って、この者たちは、陛下に嘘の話をしている極悪人です」
「そうか、どうしたらいい?」
「極刑がふさわしいかと!」

 ここで、獣人やエント、ドリュアスが音を出し始める。

「煩い。静かにせよ!しかし、この者たちの話も聞いてみないとな。予に己の言葉で釈明する機会を与える。どうした?」

 堰を切ったように、話始める。
 自分たちが正当な使者である事。流石に、この状況では、俺たちを支配下に置くとか考える事ができないだろう。人数差を考えても戦力的な事を考えてもだ。竜族がブレスを何発は空中に放っていたり、俺に向けてブレスを放って結界で阻まれるような事をしているのだ。

 相手に総てを押し付けようとしている。
 本当に醜いな。

「醜いな」
「はい。陛下。(わらわ)もこの者たちを見ていると気分が悪くなります」
「予も同じだ。どうしたらいい?」

 何やら言い訳を始めた、自分たちを許してくれれば、ユーバシャールの総てを俺に与えるとか言っている。女も好きな女を俺に差し出すと言っている。娘が居るらしいが娘を・・・妻さえも差し出すと言ってきている。
 商人も同じだ。護衛で来ている奴らもなんでもするから、命だけは助けてくれといい出している。連れてきた奴隷も従者も全部差し出すと言っている。

 奪うだけのつもりでついてきたらこうなるよな。
 本当につまらない連中だ。シロを見ると、同じ感想なのだろう。

『カズト様。私・・耐えられそうにありません』
『シロ?どうした?』
『護衛で来ている奴らの中に、アトフィア教の者も居ますし、商人の格好をしていますが、司祭が居ます』
『本当か?』
『ツクモ様。本当です。正確には、元司祭です。コルッカ教の教会を武力で潰して、子供を皆殺しにした者です。姫様のお父様に知られて、破門になった者です。数人の枢機卿が庇ったのですが、その頃はまだ姫様のお父様の力がありまして・・・』
『そうか、その司祭や同時に破門になった聖騎士や準聖騎士が流れ着いたというわけだな』
『・・・だと思います。カズト様。お許しください』
『ん?シロやフラビアやリカルダが悪いわけじゃないし、目の前のバカどもが悪いだけだぞ?』
『あっ・・ありがとうございます』

 まだ何か必死に弁明している。
 誰か1人位剣を抜いて突っ込んでこないかな?そうしたら、殺す動機ができるのだけどな。

 そんな気配がないまま、お互いの悪口をいいながらなんとか命だけは助かろうとしている。

『大主様。もうそろそろ幕を下ろしたいと思うのですがよろしいですか?』
『あぁ聞き飽きた。それに、皆も同じ気持ちだろう?』

 彼らの様子は、クリスとは別口で記憶をしている。
 話してはダメな内容まで話している可能性が高いために、そのまま彼らの罪として検証するためだ。それは、ユーバシャールの新領主になった末弟に任せる事にしている。大粛清の嵐が吹き荒れる事になるだろう。

「陛下?裁断をお願いします」

 スーンが跪いて俺に伺いを立てる。

「皆。この者たちを許す事ができるか?」

”否”

「極刑でいいか?」

 ここで、”了”と”否”が別れる。

「実験区送りか?」

 ここでも二つの意見が出てくる

「わかった、予の裁断は、この者たちをユーバシャールに罪人として送る。そして、予の支配地域からの永久追放だ。捕縛せよ!」

 スパイダー種が現れて、252名を拘束していく。
 喋られないように口枷もしっかりとしていく。あとで、エントやドリュアスに操作させて、スキルカードを吐き出させるのと、必要ないけど武器と防具を取り上げる。従者や奴隷に関しては、話しを聞いてから対処だな。

 こうして、バカ二人への対処は終わった。
 アトフィア教の元司祭や元聖騎士がいたのにはびっくりしたけど、シロやフラビアやリカルダを別人に仕立てておいてよかったのかも知れない。どうせ死ぬのだから知られても困らなかったかも知れないけどな。

 あとは、送り出した使者が帰ってくるのを待つだけだな。
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