第40話 ジェンダー共通フレームワーク発表 :2023年5月

文字数 2,852文字

(ジェンダー共通フレームワークが発表された)

2023年5月。ドイツ。ベルリン、首相官邸。

ジェンダー共通フレームワーク、Ver.1.0が、5月になって発表された。

「これから、『ジェンダー・エクイティ・レポートの共通フレームワーク』(ジェンダー共通フレームワーク version 1.0)」を発表します。前回の女性サミットの議長国のドイツが発表を担当します。

ジェンダー共通フレームワークは、差別と人権侵害を発見して、取り除く手順を定めます。監視と評価の対象項目及び判定基準を、付表1に記しています。付表1で、差別と人権侵害が見つかった場合に、それを取り除く手順を、付表2で定めています。

付表1には、緊急改善計画に繋がる重点項目とそれ以外の非重点項目が記載されています。今回のジェンダー共通フレームワークでは、女性比率が、重点項目です。非重点項目には、給与格差などが含まれます。給与格差は、原則として、同一労働、同一賃金で是正されるべきです。この実施状況も、「監視と評価」の対象です。重点項目は、評価対象と緊急改善計画が必要な判定基準である到達目標を含みます。
重点項目にある議員定数の女性比率の到達目標は45%です。企業役員の女性比率の到達目標は、20%です。これが、達成されない場合には、付表2に従って、緊急改善計画を進めます。

付表2は、緊急改善計画の方法を定めます。緊急改善計画は、女性優先枠の設定と優先枠の実行を阻害する隠れた原因の除去から構成されます。女性優先枠を設定して、女性比率が上昇するためには、人の入替があって、男性が辞めて、女性が採用される必要があります。つまり、入替の回数と、入替で、女性が増える置き換え人数が大きくないと効果が出ません。この2つを阻害する要因は、隠れた原因になります。入替の回数と人数は、年当たりの入換率に換算して比較します。隠れた原因は、別途『ジェンダー差別原因究明レポート』で詳しく分析されますので、このレポートも参考にします。

ユニバーサル・ジェンダー計画では、『監視と評価』がされない、または、ジェンダー差別があっても『緊急改善計画』が実施されない国、企業に対して、外交的な手段を使って、差別の改善を促します。このジェンダー共通フレームワークは、この条件を2つの付表で、明らかにしています。前者の『監視と評価』の対象は、付表1の重点項目と非重点項目で確認できます。女性比率が低い場合、後者の付表2に従って、『緊急改善計画』を作成し、女性優先枠を設定します。女性比率は、議員と企業の役員定数では改善が容易ですが、企業の社員数では容易ではありません。そこで、対象毎の『緊急改善計画』作成の判定条件である到達目標が、付表1に整理されています。例えば、議員定数では、女性比率が、45%未満の場合は、特殊な理由がある場合を除いて、『緊急改善計画』を作成、実施しないと経済制裁の対象になります。企業役員では、女性比率が、20%未満が判定条件になります。採用社員に女性優先枠を設定することは、さほど難しくはありません。問題は、隠れた原因を特定して、除去することで、これがないと、女性優先枠が効果を発揮しません。付表2には、対象毎に排除すべき隠れた原因が示されています。『緊急改善計画』では、女性優先枠の設定と共に、この隠れた原因の除去が求められます。議員定数の場合には、入替率が高く、解散総選挙で、議員の総数が入れ替わりますので、隠れた原因に配慮しなくても女性優先枠が効果を発揮します。一方、入換率が低い場合には、隠れた原因を取り除いて、入換率を改善することが必須です。非ジョブ型雇用、特に、年功型雇用では、入換率が極端に低くなりますので、雇用形態を変えなければなりません。

ここで、隠れた原因である非ジョブ型雇用の取り扱いが議論されました。非ジョブ型の雇用慣行があるのは、日本など一部の国だけです。日本の年功型雇用は、女性の出産後の職場復帰を困難にし、出産退社、つまり、結婚を機に退職することが、ジェンダー差別の原因になっています。このことは、『ジェンダー差別原因究明レポート』でも、報告されていました。従って、非ジョブ型雇用は排除すべき隠れた原因です。非ジョブ型雇用を付表2に明記して、排除されない場合は、経済制裁の対象にすべきか議論がなされました。しかし、切り替えが簡単に出来るとは思われません。そこで、非ジョブ型雇用は、次のversion 2.0では、隠れた原因に指定されると明記して、非ジョブ型雇用からジョブ型雇用への切り替えを促しています。
更に、ジョブ型雇用への切り替えを促進を促すために、国際司法裁判所に、非ジョブ型雇用をしている国を対象に、非ジョブ型雇用による人権侵害を訴えることが決められました」

そもそも、国連が作っていたジェンダー・レポートは外部の人が、あの国は何点だと点を付けるようなもので、自己申告ではない。企業が、自己申告で作成するのは、環境配慮に対する自己採点レポートくらいだった。
ところが、ユニバーサル・ジェンダー計画が出てきて、風向きが変わってきた。2021年の米中対立あたりから、なんでも経済優先で進めるのは、企業がUNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)の人権尊重責任を果たしていないという非難を浴びることが多くなった。特に、巨大IT企業が、もうけるために、プライバシーを飯の種にしているという非難が出てきて、規制をかけようという話が出てきた頃から、社会常識が変化してきた。
中国が軍事力を増強するにつれて、米国の中国たたきが強くなった。とはいえ、公平性の点で、特定の国を名指しで、非難する訳にはいかない。こうした場合には、「人権侵害をしている」や、「カーボンニュートラルでない」という点が、前面に出てくる。
ジェンダー・エクイティも、完全にその波に乗ってきた。企業はジェンダー・エクイティ・レポートを出していなければ、その時点で、ジェンダー問題で、失格になる。この場合は、疑わしきは罰する原則が採用される。そこで、ジェンダー・エクイティ・レポートを出す企業が急増した。
次に、ジェンダー・エクイティ・レポートを出した企業に事件が起こった。内部告発があり、ジェンダー・エクイティ・レポートが捏造されているというのである。まるで、#metooの再発のようだった。ここで、ぼろが出ると、UNGPが効いて、ジェンダー・エクイティ・レポートに問題のある企業とは取引をしなくなる。そのままでは、企業はつぶれてしまう。こうして、たたかれた企業は、外部監査役を入れた上で、抜本的な組織改革に追い込まれていった。
投資家、特に機関投資家は社会的な圧力に押されて、「ESG(環境・社会・企業統治)投資」、つまり企業のESGへの取り組みに配慮した投資を行うようになっていたが、ジェンダー・エクイティは、このうちS(社会)とG(企業統治)に、大きな影響を与えるようになった。
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