3 ✿ この桜吹雪が目に入らぬか!

エピソード文字数 1,139文字

萌栄はとうとう、殿下のロープにとらわれてしまった。
投了してもらいましょーか。

投了。将棋や囲碁において「負けを認める」ということだ。


萌栄はあがいたが、殿下のロープをほどけそうにない。

誰が言うかての!

その時。殿下と萌栄の間に、まるで弾丸のように鋼が飛び込んできた。


鋼は苦無ひとふりで、萌栄を捕らえるロープを断ち切る。 

投了? 笑わせんな!

狂犬のような目で殿下をにらみ上げ、一瞬の早業で、彼の鼻先に苦無を突きつける。



おまえ、どっから…!? 

殿下は後ろへはね、萌栄と鋼からいったん距離を取った。 


鋼は、萌栄にからまったロープをしゅるっといとも簡単にほどく。

おい、雨音はどうした!?


足に、雨音の鎖がからまったまんまじゃねーか!

あんな太っちょ知るかあ!!


鎖? あいつの手から引っこ抜いてきた

足にからまった鎖を、ぽいっと放った。

太っちょで悪かったな! 鋼、おれの鎖返せ!!

雨音がふたたび鋼に迫る。


雨音副将同士三将同士の闘いだ。

さあ、こっちは大将同士!

殿下は自分に追い風を吹かせ、勢いよく萌栄に迫る。


殿下の苦無による攻撃に、萌栄はとっさに自分の苦無で構えをとったが、

くっ・・・!!

殿下の一撃が思ったよりも強く、後ろへよろめく。


そのすきへ殿下は入り、たえず攻撃をつづけた。

わたし、フィールドの境界線へ押しやられてる!?
フィールドの境界線には、選手以外は「立入禁止」のテープがはられている。
テープを越え、場外へ押し出されると失格になってしまう。
(テープまであと何メートルだろう。後ろを向く間がない…!!

殿下は反撃のすきも与えず、苦無で攻撃をつづける。


殿下の表情から笑みの一切は消えていた。

金将、銀将がいなけりゃ、新参の大将なんてチョロいもんさ



 先ほどの殿下の皮肉が胸に刺さる。

(事実、今のわたしはおされてる…)

大将同士、1対1の状況で、鋼と発の助けがなければ。


これが自分の実力だというのだろうか。

(助けがなくては、自分は戦えないの?)
はじめのころ、苦戦した通学路の坂が、萌栄の頭に浮かんだ。

鋼が手をさしのべてくれたから、先に進めた

  助けられたことが……うれしかった!!

もし鋼が助けてくれなければ、萌栄はあの坂で一人膝をついていた。



萌栄はここに来る前は、ずっと一人だった。


前の学校では、どんなに努めてもその成果を認めてはもらえなかった。

何度がんばって……報われなくたって… 

殿下に一打通し、萌栄は力強く前に出る。
負けてたまるかぁあ――!!

森が「新しい風」にざわめく。


そばの山桜が揺れ、辺り一面花吹雪となった。

これは・・・!!

萌栄は自分の「気」で風を起こしたのだ。

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登場人物紹介

日高萌栄 (ひだか・もえ


中学2年生、13才の少女。

カピバラをこよなく愛する。

重黒木 鋼じゅうくろぎ・はがね


中学2年生、13才の少年。機械いじりが得意。

椎葉 発(しいば はつ)


中学2年生、13才。

萌栄の友達。花火師の孫。

黒木 殿下(くろき でんか)


萌栄のライバル

那須 雨音(なす あまね)


殿下の友達。

黒木 媛(くろき ひめ)


殿下の妹

日高 結芽(ひだか ゆめ)


萌栄のお母さん

日高 地平(ひだか ちへい)


萌栄のお父さん

日高 雲水(ひだか うんすい)


萌栄の祖父

重黒木 功(じゅうくろぎ こう)


鋼のお父さん

重黒木 理玖 (じゅうくろぎ りく)


鋼のお母さん

椎葉 康次(しいば やすじ)


発の祖父。花火師

黒木 智子(くろき ともこ)


殿下、媛のお母さん。

黒木 未夏 (くろき みか)


クラスメイト

中武 陽(なかたけ はる)


クラスメイト

那須 貴也(なす たかや)


クラスメイト

那須 由子(なす ゆうこ)


クラスメイト

お殿様。


西方の里を治める、お殿様。

南朝の忠臣、その子孫。

忠平(ただひら)


お殿様が助けた忍者。

加藤清正に仕えていたが、毒殺の濡れ衣をかけられ、逃げてきた。

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