3 水術《ウォーリアン》
文字数 1,688文字
王宮へと(強制的に)戻る途中、メルはブツブツと文句を言っていた。
「毎日毎日勉強だなんて息が詰まるもん!
私まだ十三だよ。やりたい事だって、沢山あるし、それに、それに!
誕生日の日ぐらい好きにさせてくれても良いじゃない!」
ナサはというと、
もう少し声を抑えられないものですかね。
と思いながらやれやれと首を振る。文句は全部聞こえていた。
質素な天幕で出来た王宮では、メルの母親である王妃がメルの帰りを待っていた。
「メル、どこに行っていたの?」
と王宮に着くや否や王妃が、心配そうな顔でメルを思いっきり抱きしめた。
あまりの握力にメルは息が出来ず死にそうな顔をしているが王妃は気付かない。
「お、お母様……離し……てぇ……!」
という悲痛な声にも気づかず
「もうすぐ、祭典が始まるというのに主役がいないなんてダメよ~。」
と王妃は、メルを抱きしめながら顔をスリスリしてくる。
ようやく母親の魔の腕から自力で脱出したメルは、王妃の話を聞く余裕もなく咽ていた。
そんな我が子の状態はお構いなしに王妃は、メルをしゃんと立たせて彼女の目を覗き込む。
「それで……水術 の練習はしたの?」
「……え~っと……」
とメルは目を泳がす。
「してませんよ。何せ、また練習から抜け出したのですから。」
メルと王妃の側に控えていたナサが言う。
「そういう事、言わなくて良いのに~。」
とメルはふくれる。
「まぁ! なんて事なの、メル!」
王妃は驚き呆れた声を出す。
メルは力なくハハッ……と笑った。
「良い事、メル。十三になった子供は、人前で水術 をどれくらい使いこなせるか披露をしなければならないしきたりがあります。それを皇女であろう貴方が、出来ないとなると……。」
王妃は頭を悩ます。
〈水術 〉。それは、アイサイ公国の民に生まれてきたのならば誰でも使える特別な力。
公国の海と緑は大いなる水の神の力によって与えられ、守られている。
そしてその海と緑に私達は守られている……と古の民達は、神を、そして神の司る〈水〉を崇めた。
水の神はそれに感銘を受け、民達に自分と同等の力を分け与えた。
こうしてアイサイ公国の民は〈水術 〉という万物の一つである水を自由自在に操れる力を持つようになった……と伝えられている。
真偽の方は分からないが、万物の一つを操れるというのは、神と関わっていてもおかしくないのかもしれない。
水術 の使い方は、実際に物質として存在する水を用意しなければならない。
水を操れるからと言って、自ら水を生成出来る訳ではない。
操れた水は、物を動かすのに使ったり、物を切ったり出来る。
人の力も道具の力も必要最低限で良いのだ。
勿論、本人の知恵次第で他の便利な使い方も出来る。
一方で、人を傷つける使い方もある。自然の力とは、表裏一体なのだ。いずれにしても本人の意思次第なのである。
しかし、その水術 を何故十三で披露しなければいけないのか謎である。だが、しきたりというのはそういうものである。
「今年の誕生祭にお父様は出られなくて残念だったでしょうに。これでは、出られなくて良かったわねと報告するしかないじゃない。」
メルは
「別に報告しなくて良いのでは。」
と小さく呟く。
王は今、数少ない外交の旅に出かけている。
確か、三つ程の国を訪れて最後になんちゃら帝国を訪れてから帰ってくると言っていたような……?
いつもは家族全員が揃っての誕生日。メルは、だからこそ余計に気が乗らなかった。
ナサは
「しかし、帰国するには少しばかり日がかかり過ぎているのでは? 何かトラブルに巻き込まれていないと良いのですが……。」
と王妃にヒソッと話す。
ナサの言う通り、いつもより三日も長く滞在している。
厳格な王だった。
大切な娘の誕生日を忘れる事などあり得ない。
その不安は、王妃の心の内にもあった。しかし、娘に悟らせまいと笑顔を取り繕う。
「心配し過ぎよ、ナサ。きっとどこかで寄り道でもしているのよ。」
あり得ない。
王妃も、分かっている。
「それよりも、今はメルよ。祭までに身支度をしないとね。」
王妃は無理矢理、別の話題に変える。
メルは、折角自分から話が外れていたのにまた自分に話題を戻され、ウゲッとなる。
「毎日毎日勉強だなんて息が詰まるもん!
私まだ十三だよ。やりたい事だって、沢山あるし、それに、それに!
誕生日の日ぐらい好きにさせてくれても良いじゃない!」
ナサはというと、
もう少し声を抑えられないものですかね。
と思いながらやれやれと首を振る。文句は全部聞こえていた。
質素な天幕で出来た王宮では、メルの母親である王妃がメルの帰りを待っていた。
「メル、どこに行っていたの?」
と王宮に着くや否や王妃が、心配そうな顔でメルを思いっきり抱きしめた。
あまりの握力にメルは息が出来ず死にそうな顔をしているが王妃は気付かない。
「お、お母様……離し……てぇ……!」
という悲痛な声にも気づかず
「もうすぐ、祭典が始まるというのに主役がいないなんてダメよ~。」
と王妃は、メルを抱きしめながら顔をスリスリしてくる。
ようやく母親の魔の腕から自力で脱出したメルは、王妃の話を聞く余裕もなく咽ていた。
そんな我が子の状態はお構いなしに王妃は、メルをしゃんと立たせて彼女の目を覗き込む。
「それで……
「……え~っと……」
とメルは目を泳がす。
「してませんよ。何せ、また練習から抜け出したのですから。」
メルと王妃の側に控えていたナサが言う。
「そういう事、言わなくて良いのに~。」
とメルはふくれる。
「まぁ! なんて事なの、メル!」
王妃は驚き呆れた声を出す。
メルは力なくハハッ……と笑った。
「良い事、メル。十三になった子供は、人前で
王妃は頭を悩ます。
〈
公国の海と緑は大いなる水の神の力によって与えられ、守られている。
そしてその海と緑に私達は守られている……と古の民達は、神を、そして神の司る〈水〉を崇めた。
水の神はそれに感銘を受け、民達に自分と同等の力を分け与えた。
こうしてアイサイ公国の民は〈
真偽の方は分からないが、万物の一つを操れるというのは、神と関わっていてもおかしくないのかもしれない。
水を操れるからと言って、自ら水を生成出来る訳ではない。
操れた水は、物を動かすのに使ったり、物を切ったり出来る。
人の力も道具の力も必要最低限で良いのだ。
勿論、本人の知恵次第で他の便利な使い方も出来る。
一方で、人を傷つける使い方もある。自然の力とは、表裏一体なのだ。いずれにしても本人の意思次第なのである。
しかし、その
「今年の誕生祭にお父様は出られなくて残念だったでしょうに。これでは、出られなくて良かったわねと報告するしかないじゃない。」
メルは
「別に報告しなくて良いのでは。」
と小さく呟く。
王は今、数少ない外交の旅に出かけている。
確か、三つ程の国を訪れて最後になんちゃら帝国を訪れてから帰ってくると言っていたような……?
いつもは家族全員が揃っての誕生日。メルは、だからこそ余計に気が乗らなかった。
ナサは
「しかし、帰国するには少しばかり日がかかり過ぎているのでは? 何かトラブルに巻き込まれていないと良いのですが……。」
と王妃にヒソッと話す。
ナサの言う通り、いつもより三日も長く滞在している。
厳格な王だった。
大切な娘の誕生日を忘れる事などあり得ない。
その不安は、王妃の心の内にもあった。しかし、娘に悟らせまいと笑顔を取り繕う。
「心配し過ぎよ、ナサ。きっとどこかで寄り道でもしているのよ。」
あり得ない。
王妃も、分かっている。
「それよりも、今はメルよ。祭までに身支度をしないとね。」
王妃は無理矢理、別の話題に変える。
メルは、折角自分から話が外れていたのにまた自分に話題を戻され、ウゲッとなる。