計画通りに

文字数 2,048文字

 足もとがふわふわする。
 何だろう、ボーッとしてしまっている。

「わっ」
 転倒する。衝撃を予想して、ギュッと目を閉じてしまった。
「美佳ちゃん」
 なかなか衝撃が来ないと思ったら、拓海くんが転けそうになっていた私を支えてくれていた。
「ありがと」
 今日が休日で……。部屋の中で良かった。
「大丈夫? 体調悪い? 今日、休みなんだから寝てたら良いのに」
 拓海くんが、心配そうにしていた。そういえば、生理も来てない。
 
 体調悪くて、生理が遅れることはあるけれど……。



「二ヶ月ですね。まだこれから成長するのか分かりませんから、もう二週間経ったら来てください」
 もしかしたら……と、思って会社を早退して、産婦人科に行ったらそう言われた。
「堕ろすのなら……」
「あ……いえ、産みます。堕ろしたりなんか……」
 お医者さんは、少しホッとした顔をして
「それでしたら、二週間後に来てください。それで、育っているのが確認出来たら、母子手帳を役所にもらう手続きに必要な……」
 と、次回以降の事を説明し始めた。

 そっか……妊娠してる……かも、なんだまだ……。
 それでも、なんかイボみたいなのが映ってる胎児の写真? みたいなものをもらった。


 まだ、拓海くんも仕事が終ってない。
 本当なら、私だって会社にいる時間だ。
 私はソファーに転がって、溜息を吐いていた。

 妊娠期間と出産後……うちの会社は二年近く開発から外される。
 女性に長く勤めてもらうための、システムだと言うけど、それで結婚はしたけど子どもを持たない女性も多いんだ。
 キャリア、止まっちゃうもんなぁ。
 
 私は、多分医者から妊娠を告げられたとき、酷い顔をしていたのだと思う。
 だから『堕ろすのなら』なんて言われたんだ。
 もう29歳だし、生まれる頃には30歳になっているし、何より
「そろそろ、子どものこと考えようか」
 って、私が拓海くんに言ったんだ。だから、拓海くんも避妊しなくなった。

「何? それ……」
 拓海くん? もう、帰ってくるような時間?
「お……おかえりなさい」
「薄暗い中、何してんだよ。電気も付けないで」
 拓海くんは、笑って電気を付けてる。

「何に見える? これ……」
「イボ?」
 イボ……やっぱりそう見えるか……。
「なんて、胎児だよね」
 なんだか、拓海くんが嬉しそうにしてる。ぬか喜びになる前に言わなきゃ。
「まって。まだ、着床が確認されただけなの。心臓が動いているとか心音とか、ちゃんと大きくなってるとか、確認しないといけないの」
「うんうん。妊娠初期は、色々気を付けないとだよね」
 
 あ~、ダメだこれは、聞いてない。

 そう思って見ていると、こっちにやって来てヒョイと私を抱っこして、ベッドに連れて行く。
 そ~っと、と言う感じで降ろされて
「夕飯出来るまで、そこで転がっててね」
「あっ、今日の当番、私……」
「ダメだよ。無理したら、もう美佳ちゃんだけの身体じゃないんだし」
 そう言って、鼻歌歌いながらキッチンに行ってしまった。

 いや……病気じゃないし。
 このまま拓海くんのペースにはまったら、寝たきり生活させられてしまう。
 私はベッドを降り、寝室からキッチンに向かった。
「大丈夫だから。妊娠は病気じゃないし、出来ることはするから」
 私は拓海くんが持ってたフライパンを奪い取った。
「えっ? 何? これしか食べたくない的なものが出て来た?
 買ってこようか?」

 こ……こいつは。

「拓海くん。寝てても普通の生活してても、二週間後の結果は同じなの。 
 むしろ、寝たきりの方が悪い気がする」
「二週間後?」
「うん。多分その頃には、心音とかもハッキリ確認出来るんだと思う。
 あと、今日より大きくなっているとか……」
「そう、なんだ」
「二週間後に、大丈夫だったら母子手帳も役所でもらってくるよ」

「二週間……二週間後かぁ。平日だよね」
 う~ん、仕事がぁ……って、拓海くんがうなりだした。
 何気に仕事好きだよね、拓海くんも。プライド持ってやっているって言うか。
 拓海くんのそういう所、好きだから。
「仕方無いでしょ? その代わり、休日にある父親教室には出てよ」
「父親教室。そんなのあるんだ。出るよ、それ」
 パァァと顔が明るくなった。本当に欲しかったんだね、子ども。

「でも……さ。美佳ちゃんは、良かったの? 仕事潰れて、後悔してる?」
 見透かされてるなぁ~、拓海くんに。
 確かに後悔してたよ、さっきまで……。でも
「拓海くん。大切にしてくれるでしょ? 私も子どもも」
「それは、もちろん。僕も勉強して育児に参加するからね」
 拓海くんはそう言ってくれるから。
 だから、キャリアが中断しても欲しいと思ったんだ、私も。

「うん。だから、出来ることはさせて」
 あとは、拓海くんが過保護になりすぎないように……それだけ。
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